9月4日(日)のこと。 テレビのお天気コーナーで、
「秋の気配も感じられるようになり、昨日は横浜でコオロギの初鳴きが聞かれました」、
と言っていましたが、これがもし、気象報道のプロという立場からの公式コメントで、
テレビを通じて発信するほどの公益性のある情報ならば、
相当にレベルの低い観測が行われていることになります。
関東平野におけるコオロギ類の初鳴きであれば、1ヶ月も前に記録されていなければ
おかしく、8月3日ならともかく、9月3日まで気づかないでいるようでは、
観測の意義がありません。お盆を過ぎてから、ヒマワリの開花に気づくようなものです。

エンマコオロギのオス(白バック)
「エンマコオロギの♂(白バック)」

ヒグラシもよく、「秋の気配」の引き合いに出されますが、虫をよく知る人から見れば、
こちらも「少しも自然を見ていない」と言えますね。「涼しくなってから鳴くセミ」と
思い込んでいる人が多いのですが、誤って秋の季語にされてしまったことの影響でしょう。
関東平野で鳴く5種類の夏のセミのうち、ヒグラシはニイニイゼミ(6月下旬)に次いで
2番目に出現が早く、7月なかばにはその声を聞くことができます。
鳴き声がいかにも涼しげであるからといって、
よく観察もせずに秋の季語としてしまうのは、あまりにも短絡的です。

そのヒグラシもほぼ死に絶える9月を迎えて、
ようやく、「カブトムシvsクワガタムシ」の撮影を済ませました。
季節感に疎い人をこきおろしたばかりですが、
ぼくの仕事の「季節遅れ感」も相当なものです。
「カブトムシvsクワガタムシ」は、需要の多い写真ですが、
それだけに発表した写真が新鮮さを失いやすく、常に新作を求められます。
毎年、新作を撮らねばならないことはわかっているのですが、
ほかの撮影に時間を取られ、「ああ、今年も新作が撮れなかったなあ・・・」
ということが続き、「今年こそは!」と思っていました。
飼育下のカブトムシ、クワガタムシが次々に死に始めたので、一刻の猶予もなく、
ようやくスタジオにセットを組んで撮影したというわけです。

9月にこんな撮影をしているというのは、もう2学期が始まっているのに
夏休みの宿題を残しているようなもので、昆虫写真家としては本来あるまじきことです。
2週間以上も前から、ツクツクボウシの鳴き声が
(宿題やったか? 宿題やったか? やったかやったか・・・?)と聞こえるようになり、
心穏やかでありませんでしたが、ようやく撮影を終えてスッキリしました。

カブトムシもノコギリクワガタも、もうオスが1匹ずつしか生き残っていなかったので、
同じモデルさんで、「闘い」の連続カットを何セットか撮らせてもらいましたが、
何度立ち向かっても投げ飛ばされる一方だったノコギリクワガタが、
最後は空中で半回転の「ひねり」を加えて反撃する、という面白い写真が撮れました。
そう何度も同じ手は食わないぞ! と学習したのか、
あるいは単なる偶然なのかわかりませんが、まあ、おそらくは後者でしょうね。
この闘いを最後に、カブトムシの方がマッチアップを拒否するようになってしまったので、
学習の効果かどうか、確かめることはできませんでしたが。

ノコギリクワガタの意外な反撃
「ノコギリクワガタの意外な反撃」

リオ・オリンピックの決勝で、投げにいった吉田沙保里選手が次の瞬間、
相手にバックを取られてしまうという悲しい場面がフラッシュバックしましたが、
体の硬い外骨格の昆虫の行動が、しなやかな人間の動作に重なって見えるというのも、
なんだか不思議な気がします。

カブトムシの投げが決まった瞬間
「カブトムシの投げが決まった瞬間」

勝敗は通常、このように決します。
それこそ、発表してしまうと新鮮さを失うので、
ベストショットの連続カットは、ここではお見せすることができませんが、
夏休みの宿題はやはり、コオロギの初鳴きの頃までには着手すべきですね。
きょう9月6日は母の命日ですが、母が今も生きていたなら、
「信夫は、小学生の頃から少しも進歩していない!」と言って叱られそうです。
 8月21日(日)に、「たまがわ・みらいパーク」で「昆虫写真の撮り方講座」を
行いました。 「みんなでつくろう! 立川いきものデータベース 第1弾 昆虫編」
という企画が近日中に始まりますので、それに備え、東京都立川市からのご依頼で
「昆虫の探し方、近づき方、撮影のコツ」などをお話しさせていただきました。

「立川いきものデータベース」サイトの、プレオープン版がこちらで見られます。
https://ikimono-tachi.jp/
近日中に本格稼働の予定で、写真の投稿資格は、立川市民でなくてもよいそうです。

講座は、
(1)スクリーンに投影した作例写真をご覧いただきながらの座学
(2)室内での撮影指導
(3)野外での実習
と3つのステップで行いました。

座学の時間(Kさん撮影。以下同)
「座学の時間(Kさん撮影。以下同)」

黄色の矢印がぼくです。
小学生からシニア層まで、幅広い年齢のお客さんにお越しいただいたため、
もしかしたら、お子さんには少しむずかしいお話もあったかもしれません。

室内での撮影指導(参加者の方にはモザイクをかけてあります)
「室内での撮影指導(参加者の方にはモザイクをかけてあります)」

「ムシムシ探検隊・立川」の加藤さんと千葉さんにご協力をいただき、
カブトムシ、ノコギリクワガタ、ゴマダラカミキリ、ナナフシなど、
前もって採集していただいた昆虫をモデルに、まずは室内でのウォーミング・アップ。
逃げられるかもしれない・・・という不安がないと、
思う存分、さまざまな撮り方を試してみることができます。

参加者のみなさんのカメラは、一眼レフあり、ミラーレス一眼あり、コンデジあり、
そして、スマホやタブレットまであって、フィルムカメラで育ったぼくとしては、
新しい時代を感じます。タブレットなどは、撮影後の表示画面がパソコン並みに大きく、
目の前にいる実物の昆虫よりも、表示サイズの方がはるかに大きいわけですから、
迫力満点です。

野外での実習(参加者の方にはモザイクをかけてあります)
「野外での実習(参加者の方にはモザイクをかけてあります)」

抜けるような青空のもとでの野外実習。
前日までの雨の予報が嘘のようです。
野外では、虫を見つけること、逃げられないように近づくこと、
これら「撮影以前」の段階が意外にむずかしいものだということも、
実際に体験してみないとわかりません。
多摩川の河川敷は明るく、この日はそれほど風も強くなかったため、
撮影には絶好の条件でしたが、ひとたび雑木林に入れば
撮影に十分な明るさがなかったり、あるいは、ヤブカの猛攻撃を受けたり、
そのうえ強い風でも吹くと、撮影の難易度はぐんと高まります。

昆虫撮影では、前かがみになることが多いため、暑い季節には
額から流れ落ちる汗で、メガネのレンズがびしょびしょにもなることもあります。
そうなると、肉眼で昆虫をしっかりとらえることさえむずかしくなるため、
メガネ使用者はヘアバンドなどで、流れ落ちる汗をせきとめた方がよいということも、
座学の時間にお話ししました。

講座に参加されたみなさんは、その後、傑作が撮れたでしょうか?
「立川いきものデータベース」への、すばらしい投稿をお待ちしています。
 「ポケモンGO」ネタでブログ記事を1本書こうかと思っているうちに、
ブームのピークもそろそろ過ぎてしまった、という感じでしょうか?
世の中の流行りすたりには疎いオッサンなので、そのへん、どうもよくわかりません。

さて、少し前に、「ポケモンGO」への批判発言をしたやくみつるさんが炎上されて
いましたが、世の中に問題提起をしたいと思ったら、炎上させてしまうのが一番で、
ほどほどの炎上は、ご本人としては「目論見どおり」といったところでしょうか。

批判発言の内容は、

「こんなことに興じている人を侮蔑する。現実は面白いことに満ちあふれているわけで、
たとえば道端の植え込みにも虫はいるし、しかしそこで現実にはいないキャラクターを
探している。親はもっと楽しいものを子供に提供する義務があるのでは?」

つづめて言えば、こんなようなことであったと思います。

ぼくも虫屋ですから、同じ虫屋であるやくさんの意見は非常によくわかります。
「ポケモンGO」をプレイ中の知人のスマホ画面を覗かせてもらいましたが、
あまりにもなじみ深い既視感に、つい口を出さずにはおれず、

 「俺、こんなの何十年も前から雑木林でやってるよ」
 「ルリモンGO!(=ルリモンハナバチ)とか、
  トビモンGO!(=トビモンオオエダシャク)なんてね!(笑)」
 「ベニモンカラスシジミとかは、やっぱ、レアなキャラクターだよな~!」

などと絡んでいたら、
「うるさいわ、ボケ! 馬鹿もんGO!」 と追い払われてしまいました(笑)。
やくさんのような有名人ではないので、
ぼくの炎上(?)は毎度この規模のつつましいものです。

ぼくとしては、実体のある3次元のキャラクターを探す楽しさをすでに知っているので、
2次元のキャラクターごときで満足している知人に妙な優越感を感じてしまい、

 「そんな、あてがいぶちの架空のキャラクターに頼らなくても、
  こっちは、リアルポケモン探しで、毎日楽しんでるもんね~!」

ということを言いたかったわけですが、虫屋であるやくさんがおっしゃったのも、
そういう日常の体験がベースにあってのことでしょう。

で、前フリが長くなって恐縮ですが、ポケモンGOスポットになっているという
都心の公園へ、「セミ」という、リアルポケモンの取材に行ってきました。

バーチャル昆虫採集ゲーム(?)に興じる人々
「バーチャル昆虫採集ゲーム(?)に興じる人々」

アブラゼミやコシアキトンボには目もくれず、スマホ画面を見ている人たち。
確かに、虫屋から見れば、この光景は相当に奇妙なものに思えます。
近くの梢を見上げれば、こういう季節感あふれるリアルなキャラクターが
ちゃんといるわけですが。

リアルポケモン(アブラゼミ)
「リアルポケモン(アブラゼミ)」

サクラの樹皮には、こんなキャラクターが。
これは、ポケモンとは無関係?

なんのキャラクター?
「なんのキャラクター?」

今回は、「ミンミンゼミのぬけがら探し」というのが目的のひとつでしたが、
100個中、1個以下の割合でしか見つからず、ほとんどがアブラゼミのものでした。
成虫の個体数は、おそらく8対2ぐらいの割合で、ミンミンゼミも2割ぐらいは
いそうな感じですから、このぬけがらの少なさは、ちょっと不思議です。
しかも、よい状態のぬけがらがなく、目的を十分達することはできませんでした。
ここでは、たとえば羽化のピークがアブラゼミよりミンミンゼミの方がずっと早く、
そのために、残っているぬけがらも状態が悪く、多くは風に吹き飛ばされてしまった
ということかもしれません。

おびただしい数のぬけがら
「おびただしい数のぬけがら」

おびただしい数のぬけがら。
アブラゼミとミンミンゼミのぬけがらの識別には、虫メガネが必要なので、
炎天下に200個以上のぬけがらをひとつひとつ見ていくのは、
なかなかしんどいものがありました。

で、ふと植え込みに視線を落とせば、やっぱり、こんなにも面白い光景が!

アブラゼミのぬけがらが14個
「アブラゼミのぬけがらが14個」

ストロボをピカピカ光らせながら撮影したので、みんな興味津々で近づいてくるかな?
と思いましたが、スマホ画面から目を離す人は誰もおらず・・・(笑)。
それぞれのポケモンを、それぞれが自由に楽しめばよいわけですが、
こっちの方が、ぼくはだんぜん面白いと思うけどなあ・・・。
 前回の更新からずいぶん間が空いてしまいました。すみません。
さて、昆虫写真家の尾園 暁さんから新刊を送っていただきましたのでご紹介します。
『しぜんのひみつ写真館(7)ぜんぶわかる! トンボ』(ポプラ社)。
ものすごい力作で、これを全部ぼくが撮ろうと思ったら、どんなに大変だろうかと思い、
つい制作側の視点で見てしまって、胃がキリキリと痛くなりました(笑)。

『しぜんのひみつ写真館(7)ぜんぶわかる! トンボ』
『しぜんのひみつ写真館(7)ぜんぶわかる! トンボ』

子供向けのトンボの本というのは、
1種類のトンボで代表してその一生を紹介しようとする場合、
多くの場合はギンヤンマ、時にシオカラトンボ、まれにアキアカネで、
この3種の一生が撮れていれば、ふつうは十分です。
それを、非常にむずかしいオニヤンマでやったというところが、まずすばらしい。

卵から羽化に至るまでの各ステージ、飛翔、捕食、闘争、天敵、交尾、産卵など、
本にするのに欠かせない要素のどこかに、ボトルネックのような難易度の高い部分があると、
「一生」の写真が全部そろわないことになります。
オニヤンマの場合は、卵~孵化がその部分で、植物組織内に卵を産むギンヤンマや、
メスの尻を水につけるだけで、簡単に卵を放出してくれるシオカラトンボとちがい、
飛びながら浅い流れの水底に尻を突き刺して卵を産みこむオニヤンマは、
産卵を終えたメスが飛び去ったあと、卵があると思われるあたりの水底の泥の中から
卵を見つけ出さなければなりません。
砂浜で失くしたコンタクトレンズを探し出すようなもので、
ふつうは、チャレンジもせずに最初から諦めてしまうようなことでしょう。
日本最大のトンボ・オニヤンマなら、その知名度からも、ビジュアル面からも、
写真絵本の役者としては十分な資質を持っているにもかかわらず、
これまでキャスティングされてこなかったのには、そういう理由があります。

その産卵シーンの写真ですが、カメラのレンズがオニヤンマより低い位置にあるため、
産卵中のオニヤンマを水面すれすれから見上げるというスリリングな構図で、
あまりの臨場感にぞくぞくします。このアングルはすばらしい!
尾園さんは、トンボを撮らせたら日本一の昆虫写真家ですから、
このレベルの人が「オニヤンマで行くぞ!」、と本腰で臨むと、
ものすごい本ができるものだなあ・・・と圧倒されてしまいました。

本の後半は、「ぜんぶわかる」の名に恥じない、「トンボ丸ごと図鑑」となっており、
実際のページ数以上に、内容に厚みを感じさせる本となっています。
夏休みの自由研究のネタ本としても最適で、
今の時期、小学生にプレゼントするには、ベストチョイスの1冊ではないでしょうか。

 今日は、記事を2本アップしました。
写真教室のお知らせがありますので、画面をスクロールして、
この記事の直下も併せてご覧いただければ幸いです。
 東京都立川市の企画で、8月21日(日)に、初心者向けの昆虫写真教室を行います。
詳細はこちらでご確認いただけます。
https://www.city.tachikawa.lg.jp/kankyotaisaku/seibututayousei/kontyuusyashin.html

写真教室のチラシ(上記サイトからダウンロードできます)
「写真教室のチラシ(上記サイトからダウンロードできます)」

立川市民でなくてもお申し込み可能ということですので、
みなさんのご参加をお待ちしております。