雑木林の樹液酒場が虫たちでにぎわう季節となり、
近所の1本のクヌギの木に足しげく通っています。
樹液昆虫を観察するには、2009年に出版した『樹液に集まる昆虫ハンドブック』にも
書きましたが、日常的に通える範囲によい木を見出すことが、
その後の観察の成否を左右します。

『樹液に集まる昆虫ハンドブック』(2009年7月 文一総合出版)
『樹液に集まる昆虫ハンドブック』(2009年7月 文一総合出版)

ぼくがこの本の取材をしたのが2008年のシーズンでしたから、
もう10年もの間、この木は安定して樹液を出し続けていることになります。
樹液を継続的に浸出させる原因を作る昆虫としては、
カミキリムシやボクトウガの幼虫が主役ということになりますが、
この木は、ボクトウガの幼虫が樹皮の傷口に常駐して傷口を攪拌し、
木が傷口を回復させるのを阻害し続けています
(このあたりのプロセスも、ハンドブック内で解説しています)。

「樹液に口吻を伸ばすベニスズメ」
「樹液に口吻を伸ばすベニスズメ」

この樹液酒場では、おなじみの顔、ベニスズメ。
灯りを非常に気にする蛾で、多くの場合はライトを当てただけで、
樹液から飛び去ってしまいます。
暗やみの中で、樹液を吸いながら空中に停止しているはずのベニスズメの気配に
神経を集中させ、ライト点灯と同時に瞬間的にピントを合わせ、
ストロボの閃光で写し止めます。
カメラを右手に持ち、左手には、棒の先端に2灯目のストロボをつけて、
ベニスズメの背後からも光を入れています。
本当ならば、手が3本欲しいところ。

「セアカヒラタゴミムシ」
「セアカヒラタゴミムシ」

意外なお客さん、セアカヒラタゴミムシ。
樹液に来ている姿は初めて見ました。
へえ~ お前も飲みに来るのかあ・・・と、ちょっとびっくり。

「なぜここに来たのか?(コウスバカゲロウ)」
「なぜここに来たのか?(コウスバカゲロウ)」

空中停止飛行をまじえながら、樹液に向かって何度も接近していた不思議な虫。
ここで見かける常連ではないので、1匹を網ですくってみました。
その正体は、コウスバカゲロウ。
アリジゴクの親であり、成虫になってからも、食性は肉食であるはずです。
果たして、樹液自体を求めてやってきたのか、
それとも、樹液に集まってくる微小な昆虫を捕食するためにやって来たのか?

樹液に着地はしなかったものの、ウスバカゲロウ類も灯りに敏感な虫ですから、
ぼくのライトを嫌ってのことかもしれず、
邪魔者がいなければ、樹液に着地していたのかもしれません。
ウスバカゲロウ類は肉食とはいえ、リンゴなども、切って与えれば食べるのです。
樹液を欲することがあっても、おかしくはありません。

「カブトムシのオス」
「カブトムシのオス」

樹液酒場の重鎮といえば、やっぱりこの人。
平べったいクワガタムシとはひと味ちがう、重量感抜群の分厚い体。
体の厚みを立体的に表現するために、こちらも2灯目のストロボを使います。
右の写真は、カブトムシのお尻の右上から2灯目が光っています。
最近では、左の写真のようなストロボを1灯ポンと焚いただけの雑な撮り方では、
なかなか写真を使ってもらえなくなりました。
野外でも、スタジオ撮影に近い、きちんとしたライティングが求められます。

「キシタバの翅の開閉」
「キシタバの翅の開閉」

樹皮に似せた地味な前翅と、鮮やかな原色をした派手な後翅。
シタバガの仲間は、みなこのような翅の組み合わせをしています。
まずは樹皮擬態で鳥などの捕食者の眼を欺き、ごまかしが効かなくなると、飛んで逃げる。
そして飛ぶ瞬間に出現する鮮やかな後翅に、鳥などは一瞬ひるむのではないか、
と言われています。その一瞬の隙が、生死を分けることもあるのでしょう。

少々、翅の開き方が甘いカットになってしまいました。
図鑑でしばしば必要とされる定番の写真なので、これまでに何度も使ってきた
ベニシタバの写真(※)に代わるものをもう1セット持っていたいのですが、
今回はその目的を十分に達することができませんでした。残念。

新しい出会いを求めて、もうしばらくこの樹液酒場に通ってみたいと思います。

※ 『小学館の図鑑NEOポケット昆虫』の163ページなどでご覧いただけます。
 新刊 『ポケット版 身近な昆虫さんぽ手帖』 を多くの方にお買い求めいただき、
ありがとうございます。 アマゾンランキングでは一時、
ジャンル別の2位まで行きましたが、惜しくも1位にはなれませんでした。残念。

さて、埼玉県主催の企画「ミドリシジミを見る集い 2017」が6月24日に行われ、
解説指導員を務めてきました。梅雨時で、天候が心配されましたが、
朝から日が射す1日で、16:30から行われるイベント前に、会場の自然公園を一廻り。
ミドリシジミの活動時間帯は夕方なので、昆虫の観察会としては異例の集合時刻です。

梅雨の晴れ間のさわやかな林内
「梅雨の晴れ間のさわやかな林内」

「集い」のスタッフ業務を務める「埼玉昆虫談話会」の会員の方と、
カメラを持って、広い園内をウロウロ。下草には、イノコヅチカメノコハムシの幼虫や、
美しいハエトリグモ・ヨダンハエトリの姿が。
イノコヅチカメノコハムシの幼虫のお尻(写真上方)に堆積するのは、
脱皮で不要となった過去の外皮。つまり、ぬけがらを背負って生きています。

イノコヅチカメノコハムシの幼虫(左)と、ヨダンハエトリ
「イノコヅチカメノコハムシの幼虫(左)と、ヨダンハエトリ」

倒木の下でゴミムシを見つけたり、樹液でスズメバチの観察をしたり、
今年初めて、特別な目的を持たない昆虫探しをしましたが、これが実に楽しい!
撮らなければならないノルマはいろいろあるものの、時期と場所からみて、
今日はそれらの撮影は不可能と早々に判断したため、
虫を探す午後の時間が、ゆっくり、まったりと過ぎていきました。
こんなふうに、殺気立っていない時にこそ、思いがけない出会いがあるもので、
枯れ木の中から外の世界へ出てこようとするタマムシを発見。

タマムシの誕生
「タマムシの誕生」

途中で体がつかえてしまい、いったん引っ込んだものの、
木をかじって穴を拡げ、のっそりと外の世界に出てきました。
新刊 『ポケット版 身近な昆虫さんぽ手帖』 にも、同じ場面の写真を載せていますが、
今回の写真の方が、美しく撮れたかな・・・。
出たばかりの本に載せたシーンが、発売直後にもっとよく撮れてしまうという
不思議なできことを、これまでにも何度か経験しています。
果たしてすぐに飛べるのだろうか? と思いつつ見ていましたが、
はねを広げるや否や、あっという間に視界から消えていきました。

飛ぶ直前のタマムシ
「飛ぶ直前のタマムシ」

イベントの時間が近づいたので集合場所へ。 腕章を受け取って、参加者を待ちます。
ミドリシジミを採集して参加者に見せるため、「長竿」と呼ばれる柄の長い捕虫網を
スタッフの方が準備していました。
公称6m同士の争いですが、片方は少し足りないかな?

ぼくと長竿と参加者(お顔の写っている一部の方にはモザイクをかけています)
「ぼくと長竿と参加者(お顔の写っている一部の方にはモザイクをかけています)」

89名もの方に参加していただき、ミドリシジミのオス同士がなわばりを争う
卍巴(まんじともえ)飛翔や、その他の昆虫観察を楽しんでいただきました
(解説指導員はイベント中、写真が撮れませんので、
ミドリシジミの写真は今回ありません)。

夜は場所を移動して、仲間との楽しい徹夜ライトトラップ。
思いがけない虫が飛来するたびに、夜の森に歓声が響き、
朝まで楽しい虫談義に花が咲きました。

朝までライトトラップ
「朝までライトトラップ」
 新刊の発売が決まりましたので、ご案内をさせていただきます。
『ポケット版 身近な昆虫さんぽ手帖』。 来週末に世界文化社から発売になります。
アマゾンには、6月2日発売と出ていますが、
書店の店頭に並ぶのは、おそらく3日以降になると思います。

『ポケット版 身近な昆虫さんぽ手帖』(世界文化社)¥1,200(税別)
『ポケット版 身近な昆虫さんぽ手帖』(世界文化社)¥1,200(税別)

表紙には、「名前の由来が楽しくわかる!」とキャッチがありますが、
2013年に同社から出した『散歩で見つける 虫の呼び名事典』の姉妹編のような本で、
解説文の冒頭で、それぞれの虫の和名の由来について語っています。
「虫の呼び名事典」のように名前の由来に特化した本ではないので、
より身近な昆虫をキャスティングし、持ち運びに便利な文庫本サイズ、
読者自身に書き込んでいただく観察メモ欄、そして表紙には撥水加工と、
「さんぽ手帖」と呼ぶにふさわしい本に仕上げました。

発売は当初、5月下旬を予定していましたが、どうしても春に新撮したかった虫がおり、
その羽化を待ったため、若干遅くなりました。
この企画のお話を電話で受けたのは、虫の姿もほとんど見えない真冬の時期で、
「身近な」というタイトルにふさわしい150種分の昆虫の写真が、
果たしてストックだけで揃えられるか? と一瞬思いましたが、
「やります!」と即答してしまったので、
電話を切った後、大慌てでストックを漁ることになりました。
結果的に148種分はストックがあり、2種のみ、白バック写真を新撮させてもらうことに
なりました。1つの種につき、白バックと生態写真、2点の組み合わせを基本とし、
一部の種には、類似種や季節型、個体変異などの写真も添えています。

今回は、ストック写真とはいえ未発表のカットが多く、
160ページの本に368点の写真を投入するというかなり贅沢な構成で、
内容も、後ろあし1本で枝にぶら下がりながらアブラゼミを捕食するヤブキリや、
ぼくの体から吸血するウシアブの写真、
ミンミンゼミのページにはいわゆる「ミカドミンミン」の白バック写真も掲載するなど、
非常に盛りだくさんの内容となっています。

「ページのサンプル」
「ページのサンプル」

アマゾンで「なか見」としてオープンになっている3見開きを、ここにもアップします
(カワトンボは、白バックが「アサヒナ」で、生態写真が「ニホン」です)。

企画のコンセプトとしては、これから昆虫観察を始める方、
あるいは、昆虫観察を始めたばかりの方に向けて書かれた本、ということになりますが、
「コテコテの虫屋さん」に楽しんでいただけるようなポイントも、
随所に散りばめてあります。

先週、刷り出し立ち会い(出張色校正)に行ってきましたが、
非常によい色が出たと思います。ぜひ、多くの方のお手もとに届きますように・・・
と願いながら、著者も編集者も大満足で印刷所を後にしました。

『ポケット版 身近な昆虫さんぽ手帖』 を、どうぞよろしくお願いいたします。
 4月最後の日、1時間ほど電車に揺られ、トゲアリに会いに行ってきました。
今回はいつも行くフィールドではなく、まだトゲアリを見たことのない場所ですが、
何年か前にここで見た人がいるということを、Webで確認していました。

ぬけるような青空のもと、すぐに林内に入ってしまうのは、いかにももったいなかったので、
午前中は草地や湿地など、陽あたりのよい場所で虫を探しました。
湿地にはシオヤトンボの姿が見えますが。シオカラトンボはまだ出ていないようです。
1頭のカラスアゲハが吸水しており、美しい翅を見せてくれました。

カラスアゲハの吸水
「カラスアゲハの吸水」

林内に入ると、若葉ごしの陽光が美しく、まだ夏の雑木林のような薄暗い感じがありません。
ほどなく、コナラの樹皮を歩くトゲアリの姿が目に入り、
その木の根元で大きな団塊を見つけました。

トゲアリがいたコナラの木
「トゲアリがいたコナラの木」

樹木の低い位置に非常に大きな集団を作るため、見つけやすいアリですが。
こんなに目立つ団塊となる理由は、まだよくわかっていないようです。
上の写真では、左手の枯死部分が、団塊のある場所です。

トゲアリの団塊
「トゲアリの団塊」

少し離れたところにいた1匹を狙って、ポートレートを撮影。
腰の2本の剣がカッコ良すぎます。

トゲアリ(働きアリ)
「トゲアリ(働きアリ)」

幹の反対側を見ると、イモムシを取り囲んでいる小集団が。

イモムシに噛みつく集団
「イモムシに噛みつく集団」

力を合わせてどこかに運んでいくというふうではなく、
思い思いの位置で噛みついているだけで、
少なくともぼくが見ていた小一時間の間、このイモムシは全く移動しませんでした。
いったい何をしているのでしょうか?

噛みついてはいるものの・・・
「噛みついてはいるものの・・・」

大あごで噛みついてはいますが、イモムシの外皮を破る力はないようです。
みんなが別々の方向に引っ張り合っているために、
イモムシが樹皮に張りつけの状態になっており、これでは、なかなか動かないでしょう。

イモムシに噛みつく集団(魚眼撮影)
「イモムシに噛みつく集団(魚眼撮影)」

あまりにも動かないので、レンズを付け替え、
周囲の状況がわかる環境写真も撮っておきました。

同じような条件の木は、周囲に何本かあるのに、
トゲアリが見られたのは、この1本のコナラだけでした。

2012年の環境省第4次レッドリストで、
絶滅危惧II類に指定されてしまったほど減少の著しい本種ですが、
また来年もここで見られますように・・・と祈らないではいられません。
 暖かくなり、新しい昆虫の本も続々と発売されていますが、
昆虫写真家の鈴木知之さんから、新刊「新カミキリムシハンドブック」(文一総合出版)
を送っていただきましたので、ご紹介いたします。

「新カミキリムシハンドブック」(文一総合出版)
「新カミキリムシハンドブック」(文一総合出版)

鈴木さんには、2009年発売の「日本のカミキリムシハンドブック」(文一総合出版)
という著書がありますが、今回の本は、その増補改訂版という位置づけで、
新たに40種が追加されたというだけでなく、それぞれの生態写真がワイドになり、
また、アイコンに頼らずに言葉で表示されるようになったことで、
各情報が格段に見やすくなったと思います。

増補改訂版として出版される本の中には、改訂前の本を持っていれば
新たに買う必要がない、というものもありますが、
今回の本は、躊躇なく「買い」であるとお薦めできます。
まず、何と言っても生態写真が見ちがえるほど大きくなり、
絵合わせでも同定できるようになったこと。
たとえば、ヒメヒゲナガカミキリで新旧のページを比較すると、
誌面上の体長ベースでおよそ2.5倍(!)という大きさ。
並べてみると、新版の見やすさは圧倒的です。

カミキリムシというのは、スペース食いの長い触角のせいで、
触角を切らないようにしながら、全身像を見せようとすると、
誌面上で胴体が相対的に小さくなってしまうというジレンマがあります。
それは、ある程度は覚悟しなければならないことですが、
増ページとともに誌面に余裕ができたことで、物理的にもスペースが生まれ、
また、鈴木さんも旧版と写真を差し替えることで、より体を大きく見せられるような
絵柄の写真を選んで、ページをリニューアルされたことがわかります。
写真の差し替えというのは、増補改訂版としては最も手厚い措置で、
新しい本を作るのと同じ手間がかかりますから、
著者のこの本にかける思いが伝わってきます。

また、旧版では、キイロトラカミキリなど、
収録されているべき普通種の一部が掲載されていないという不満もありましたが、
今回はそのあたりが、くまなく拾われていると感じます。
「プラス40種」を厳選されたことが、非常によくわかるセレクションだと思います。

網羅性、それぞれの種の情報量、写真の見やすさ、いずれも突っ込みどころがなく、
野外で使える大きさのカミキリムシ図鑑としては、
これぞ決定版、と言えるものになったのではないでしょうか。
彼の「朽ち木にあつまる虫ハンドブック」、「虫の卵ハンドブック」とともに、
長く活用できて、楽しみながら知識のつく本に仕上がっていると思いました。

話は変わり、ぼく自身の本ですが、
1月から取り組んできた新刊の制作も、今週のうちにぼくの手を離れ、
あとの工程は印刷所に託されます。
発売は5月末を予定していますので、来月になりましたら、
書名や表紙画像などをご紹介できると思います。
「新カミキリムシハンドブック」(税別1600円)を
購入されたあとでも大丈夫(?)なように、税別1200円で発売いたしますので、
鈴木さんの本ともども、どうぞよろしくお願いいたします。