昆虫写真家・新開 孝さんの新刊 『虫のしわざ観察ガイド』 が発売になりました。
自然の中で見つかる昆虫の巣や、虫こぶ、食痕(葉に残された食べあと)などを、
どの虫の「しわざ」によるものか、豊富な写真とともに解説したフィールド図鑑です。

虫のしわざ表紙
『虫のしわざ観察ガイド-野山で見つかる食痕・産卵痕・巣』新開 孝著(文一総合出版)

「協力者」のところにぼくの名前もありますが、
新開さんがこの本を制作されていることは、前から知っていたので、
ずっと発売を待ち遠しく思っていました。

待ちこがれていた分、ぼくの中では、内容に対する期待値が
どんどん上昇していたのですが、そのイメージさえも上回るすばらしい完成度で、
届いた本を玄関口で開封して、靴も脱がずに立ったまま全ページを見てしまいました。

かねてより知りたいと思っていた、ササの葉のミシン目のような痕が、
どんな虫の「しわざ」であるか。 あるいは、クリの木の下で見つかる
「飛び跳ねる円盤」の正体・キンケノミゾウムシのライフサイクルはどんなものか。
また、幼虫が作る「虫こぶ」をよく見かける割には、成虫の姿を見たことがなかった
ヨモギエボシタマバエの白バック写真まであり、ものすごい密度です。

生きものの痕跡図鑑というのは、昆虫以外では、これまでにも何度か出版されてきました。
しかし、昆虫の食痕などには正体不明のものも多く、
昔から、「ときどき話題に出ては、消えていく出版企画」という感じだったので、
「とうとう出たかあ・・・、しかも、このレベルで!」と、感動を禁じえません。

ぼくは、すぐれた図鑑というものには、
優秀な検索機能を備えた実用書としての側面だけではなく、
掲載されているものたちへの「あこがれを育む機能」がなければならないと、
常々そう思っています。
そういう観点からも、この本の構成は見事と言うほかなく、まだ見たことのない
虫の「しわざ」に対して、「これをぜひ見てみたい」、「いつか絶対に探し出してみよう!」
そういう思いを喚起させてくれるページが続きます。

この見せ方は、編集の阿部さんや、デザイナーの西山さんの手腕によるところも
大きいと感じます。 「編集・阿部浩志、デザイン・西山克之」といえば、
ぼくの 『虫とツーショット』 とまったく一緒のチーム編成なのですが、
ここに新開さんが加わり、力のある人たちがコラボすると、
ここまで大変な本ができるんだなあ・・・と、打ちのめされてしまいました。

定価は、税別1800円。
この内容で、144ページもあって、これはすごいサービス価格だと感じます。
今回は「協力者」ということで、ぼくはラッキーにもいただいてしまったのですが、
そうでなければ、倍の値段でも迷わず買っていたと思います。

今日は2月4日。 ちょうど立春を迎えたとはいえ、
昆虫そのものの姿はまだほとんど見かけない季節ですが、
木々が葉を落とし、空気が澄みわたり、地面が草に覆われていない今の時期は
見通しがよく、虫たちの「痕跡」を探すには、絶好の条件が整っています。
この本をお供に、ぜひ冬の里山を歩いてみてください。
きっと新しい視点の先に、思いがけない発見が待っているはずです。
 すばらしい虫の本を1冊、ご紹介したいと思います。
『ハムシハンドブック』 尾園 暁著 (文一総合出版)。
今年の夏に出版された本ですから、当ブログの読者の方なら、
すでにご存知、あるいはとっくに持っている、という方も多いかもしれませんね。

著者の尾園さん から献本いただいた時、玄関先で開封し、(これはスゴイ!)と、
靴も脱がずにそのまま最後のページまで見てしまったことを思い出します。
12月もすでに後半。 もう、「昆虫本 オブ・ザ・イヤー2014」はこの本で決まり、
と言ってよいでしょう。

ハムシハンドブックハムシハンドブック
(2014/08/11)
尾園 暁

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『ハムシハンドブック』 尾園 暁著 (文一総合出版)

同社のハンドブックシリーズからは、ぼくも 『樹液に集まる昆虫ハンドブック』 など、
これまでに2冊の本を出していますので、昆虫をテーマとしたハンドブックが出版されると、
つい「隅々まで点検する」といった感じの見かたをしてしまい、
制作側の目線で、辛目の採点をしてしまうことが多いのですが、
この本については、見終って、恐れ入りました・・・と「無条件降伏」してしまいました。

自分の視力が良くなったのではないか? と錯覚するようなシャープな写真が並んでおり、
これらは「被写界深度合成」と言って、ピントの位置を少しずつずらしながら
たくさんの枚数を撮り、ピントの合った部分だけを後で合成するという、
非常に手のかかる技法で撮られています。
もう少し大きな虫ならともかく、多くが1センチにも満たないハムシの撮影でこれをやる
というのは、もう、気の遠くなるような作業です。それを、200種も・・・。
出版社のほうから依頼があった企画でも、ぼくなら「二つ返事で辞退」します(笑)。
それを、自分から売り込んだとお聞きして、感心するよりも呆れてしまいました。

ハムシというのは、同じような大きさ、同じような色の種が多く、
これまでは手頃な図鑑もなかったことから、「○○○48」のメンバーがみな同じに見える
(オッサンだけかもしれません・・・)ような状態からいつまでも脱却できず、
種名が判明しないためにせっかく撮った写真が発表できない、ということも多々ありました。
こういう本が出版されると、過去のお蔵入り写真の中から改めて「出荷」できる
ハムシ写真が増えそうで、そういう点からもたいへん助かります。

著者の尾園さんは若手の昆虫写真家で、ぼくはかつて、尾園さんから一度だけ
ある昆虫の標本写真撮影の照明技法について質問を受けたことがあるのですが、
あっという間に彼の方がうまくなり、
今では、「昔は、尾園に質問されたこともあるんだぜ!」と言って自慢(?)
しなければならないような、情けない状態になってしまいました(笑)。
でもまあ、こんな企画を自分から売り込むような人は普通ではなく、
普通でない人には到底勝ち目はない、と悟ったほうがよさそうです。

本書を見ていて思ったのは、これは著者には全く責任のないことですが、
ハムシの和名というのは、どうして2種類も3種類もあるのだろう? ということでした。
たとえば、「アカバナカミナリハムシ」のところを見ると、別名として、
「アカバナトビハムシ」や「ホソカミナリトビハムシ」などの「別名」が併記されています。
ただでさえ名前が覚えられない無名の昆虫に、和名が3つも与えられているわけですね。
あの「オオクワガタ」でさえ、「オオクワガタ」以外の呼び名はないというのに。

世間の人々の関心のうすいマイナーなグループで、研究者たちの「基幹事業」であるはずの
名前の統一さえできず、それぞれの立場からこんなにも別名を主張し合っているようでは、
みんなウンザリして、「ハムシ界」に寄りつかなくなるのでは? と心配してしまいます。
いくつもの政党が乱立して政策の微差をことさらに言い立て、対立しているような構図にしか
見えないのですが、ハムシ屋さん同士、もう少し仲良くやっていただけないものでしょうか。
「ハムシ本人」には、なんの主義も主張もないと思います。

本書の表紙にある「葉上の宝石」は、とても素敵なキャッチコピーだと思います。
ハムシだけは、「体長」のかわりに、「カラット」表示してもいいかも?