ちょうど1週間前の木曜日。
気持ちよい青空が広がったので、家から30キロほど離れた雑木林へ向かいました。
葉をすべて落とした梢が、まるで毛細血管のように空に貼りついています。

冬の雑木林
「冬の雑木林」

林床はふかふかの落ち葉で覆われ、その上を軽やかに駈けまわる音が
あちこちから聞こえてきますが、姿が見えません。
すぐ後ろで音がしたので振り向くと、視野の隅をかすめるように、
コジュケイが駈けぬけていきました。

樹皮から盛大に樹液がにじみ出ているのが見えます。 アオマツムシの産卵痕です。
穴そのものの直径は5ミリほどですが、広範囲ににじむ樹液が、よい目印になります。
産卵の時期は9~10月頃で、お尻の産卵管を抜き差ししながら、
こんな姿勢で木に卵を産みこみます。

アオマツムシの産卵痕と、産卵中の姿(9月に撮影)
「アオマツムシの産卵痕と、産卵中の姿(9月に撮影)」

ササ薮をいくつかくぐり抜け、林の奥深くに到着しました。
ここは、立ち枯れや倒木が多く見られる場所です。
朽木にひそんで冬越しをする昆虫を、ここで探してみようと思ったのです。

立ち枯れと倒木
「立ち枯れと倒木」

朽木は、その腐朽の度合いによって、
硬いものから、土に還る直前のようなやわらかいものまでありますが、
どのような硬さを好むかは、虫によってさまざまです。
かなり腐朽が進み、やわらかくなった立ち枯れからは、
ヤホシゴミムシと、大型のコメツキムシの幼虫が出てきました。
よく見ようと捕えると、手のひらの上でよく動きます。
オオナガコメツキでしょうか。

立ち枯れから出てきた虫
「立ち枯れから出てきた虫」

朽木内で越冬する昆虫を撮影する場合は、ひそんでいた越冬室を壊してしまうと、
越冬中らしく見えない、季節感のない写真になってしまいます。
そういうわけで、上の写真は、よくない例。
やわらかすぎる朽木で、よくやる失敗例です。

今度は、倒木を少し慎重にほじってみることにしましょう。
ごく浅いところからオオイシアブ(チャイロオオイシアブかもしれません)の蛹が、
それより深いところからは、クロナガオサムシなど、いろいろな虫が出てきました。

倒木から出てきた虫
「倒木から出てきた虫」

上段左から、時計回りに、オオイシアブ(?)の蛹、
クロナガオサムシ、ヒゲジロハサミムシの幼虫、コクワガタの幼虫。

別の倒木からは、コガタスズメバチが2匹、見つかりました。
こちらも越冬室を壊してしまい、失敗カットになりましたが、
朽木は思いがけない割れ方をすることがあり、
慎重に作業をしても、うまくいかないときもあります。

1匹のおなかからは、寄生虫である「スズメバチネジレバネ」が
顔を出しているのが見えます。
連れて帰り、スタジオで白バック写真を撮ることにしました。

スズメバチネジレバネに寄生されたコガタスズメバチ
「スズメバチネジレバネに寄生されたコガタスズメバチ」

コガタスズメバチでは、本来、越冬能力を持つのは女王バチだけですが、
スズメバチネジレバネに寄生されると、働きバチであっても晩秋に命尽きることなく、
越年できる能力を獲得します。
きわめて不可解なことですが、寄生虫によって、寿命が引き伸ばされるわけですね。
ハリガネムシに寄生されたカマキリが、ハリガネムシによって
水辺へ行くように誘導されるのと似ていますが、
寄生者はいったいどのようにして、寄主を操作するのでしょうか。

越冬しないはずの働きバチが、「朽木内に越冬室を作る」という、
コガタスズメバチ界の「越冬作法」をわきまえているというのも、
考えてみれば実に不思議です。
女王の座につくべき者だけが知ればよいことであり、
この「王家の言い伝え」を、一介の働きバチがどうして知ったのでしょうか。
昆虫の世界には、そんなミステリーが、いたるところに転がっています。