発売中の『日本カメラ』誌 9月号に、まる1ページを割いて、
『虫とツーショット』の書評を載せていただきました(157ページに掲載)。
見開きの対向ページは、澤田知子さんの新刊の書評で、
(なるほど、自撮り作家を左右に並べたんだな)という意図はすぐにわかりましたが、
澤田知子さんといえば、2003年にセルフポートレイトの写真集で、
「写真界の芥川賞」と言われる木村伊兵衛賞を受賞された方です。
すぐその隣に載せていただくというのも、あまりに恐れ多くて、
うっかりダルビッシュの横に座ってしまった高校球児のような心境です。

 さて、先週末に、ライトトラップを使った昆虫調査会があり、
多くの虫仲間と、朝までライトトラップを楽しんできました。
実際に調査の義務を負うメンバーもいるのですが、ぼくは単なる「野次馬」です。
セットが組み上がり、発電機がうなり声をあげて2つのライトが点灯すると、
まるで森の中に着陸した謎の宇宙船のようです。
強力なサーチライトが1灯、森の奥へ光の帯を伸ばし、
その帯の中を泳ぐように飛んできた虫たちは、別のもう1灯に誘導され、
白いパラソルとネットに着地する、というしかけです。

「ライトトラップ中の一コマ」
「ライトトラップ中の一コマ」

いつもなら、森のあちこちに、メンバーそれぞれの工夫を凝らした
自慢のライトトラップが設置されるのですが、今回は、この1基のみ。
しかし、Kさんオリジナルのこの1基は、最も強力なもので、
その「集客力」は抜群です。

サーチライトの光芒を大きな影が何度か横切り、
人間どものたくらみに抗うように、暗黒の夜空へ急上昇します。
オオミズアオ! 神秘的な美しさをたたえた、青白い巨大な蛾です。
いくつかのLEDライトが光の束となって、その影を追いかけますが、
梢越しに見る月光のように何度か見え隠れし、ふっと消えました。
ロマンチック!と、ため息をつくように声を挙げたのは、女性メンバーのIさんです。
2008年に学名が変更されるまで、長いあいだ「アルテミス」(月の女神)と
呼ばれていた本種らしい、実に趣きのある登場でした。

振り返れば、パラソルの白い布地には、おびただしい数の虫たちが着地しています。
アオドウガネ、ノコギリクワガタ、カブトムシ、クチバスズメ、ウンモンスズメ、
アケビコノハ、ツマキシャチホコ、ヒメカマキリモドキ、モンスズメバチ、
そして、なぜかアブラゼミがたくさん。
アブラゼミは本来、夜に飛ぶ虫ではありませんが、
ライトトラップを行うと、必ず姿を見せる虫です。

モンスズメバチは、夜間も活動性が高く、夜の樹液でもしばしばその姿を見かけます。
ですから、カブトムシ目当てで樹液めぐりをする際も、
「夜はハチが来ないので安心」という油断は禁物です。
今回、ふとしたことから刺されてしまったメンバーがいました。

「ライトトラップに集まる虫たち」
「ライトトラップに集まる虫たち」

夜空に消えたオオミズアオがそのまま帰ってこなければ、
「月の女神」の演出効果としては満点だったかもしれませんが、
日付が変わる頃になると、多くのオオミズアオが次々に飛来し、ネットに着地しました。
夜通し行うライトトラップの意義の一つは、集まる昆虫たちの飛来時刻から、
それぞれの種ごとの活動時間帯を知ることができるという点でしょう。
オオミズアオは、宵の口にはほとんど飛来しませんでした。
おそらく、日付が変わる頃から未明にかけてが、彼らの活動時間帯なのでしょう。

「オオミズアオとオナガミズアオ」
「オオミズアオとオナガミズアオ」

よく見ると、オオミズアオの中に、オナガミズアオが混じっています。
街路樹のサクラやハナミズキでも幼虫が育つオオミズアオと比べて、
ハンノキに依存するオナガミズアオは、どこにでもいるという蛾ではありません。

両種の見分け方に詳しいメンバーが、参加者から「これはどっち?」と聞かれ、
識別ポイントをレクチャーしつつ、これはオオミズアオ、そっちはオナガミズアオ、
と答えていましたが、中には、どちらとも言い切れない個体がいるようです。
触角の色、前翅前縁の色、前翅先端のとがり具合、前翅外横線の波打ち方、
後翅眼状紋の形状、全体の色、と、既知の識別ポイントを総動員しても、
ポイントの半分はオオミズアオ、残りの半分はオナガミズアオ、そういう個体がいます。

高いレベルの議論を脇で聞きつつ、(蛾のプロでもわからない個体がいるなら、
ぼくなどが断定的な物言いをしてはイカンな・・・)と思ってしまいました。
以前、このブログで紹介した「独特な止まり方」だけは、確実な識別点のようで、
静止時にこの ↓ ポーズを取ったら、オナガミズアオにまちがいないようです。
http://moriuenobuo.blog.fc2.com/blog-entry-54.html

しかし、飛来直後はこのポーズを取らず、
かなり時間が経ってから、「正体」を現したオナガミズアオもいました。
標本では、もちろん「止まり方」は参考にできないわけですし、
確実な識別点ではあっても、使える場面が限定される、といったところでしょう。

成虫を白バックで撮影するために、自宅で幼虫から育てているクチバスズメの
成虫が飛来したので、連れて帰ってスタジオ撮影しました。
ほとんど暴れることもなく、きれいな状態で持ち帰れたのは、非常にラッキーでした。
昆虫撮影では、苦労して準備している間に、虫の方からやって来てくれて、
あっという間に課題が解決してしまう、というケースが時にあります。

「クチバスズメ(白バック)」
「クチバスズメ(白バック)」