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 年末にフユシャクを撮影して以来、ほとんど休む間もなくデスクワークが続き、
カメラに触れる機会もないまま過ごしてきましたが、
2015年の初撮りは、意外にも「タガメ」になりました。

次の本への掲載が決まり、こんな季節に飼育下の個体を撮ることになったわけですが、
ベランダでおとなしく越冬中のところを叩き起こされ、人間の都合で暖房を入れている
スタジオに連れ込まれて撮影されるのですから、本人にとっては大迷惑でしょう。
完全に覚醒してしまうと代謝が高まり、冬越しの貴重なエネルギーを消耗させてしまうので、
手早く撮って、すぐにベランダに戻しました。
11月に最後のエサ(金魚)を食べて以来、2ヶ月も栄養補給なしに生きていることになり、
見る影もなく痩せた腹を目の当たりにすると、春までもつのだろうか? と心配になります。
タガメ(白バック)
「タガメ(白バック)」

「水生昆虫の王者」と言われるタガメを、18年間にもわたり、累代飼育しています。
取材対象というより、もうすっかり「ペット」という感じになってしまい(笑)、
長く飼っている割には、写真をあまり撮っておらず、白バック写真もない状態でした。
最大65ミリにも達する大型種で、図鑑に多くの虫の写真を並べて同一縮尺で掲載する際、
ひとりだけ「規格外」の大きさなので、レイアウト上のバランスを難しくさせる虫です。
分類上のポジションは、カメムシ目の、「コオイムシ(子負い虫)」科。
メスの産んだ卵を、オスが孵化まで世話をするという習性を持つグループです。

コオイムシ科の卵は、孵化に至るまでに、空気と水のどちらも必要とし、
完全に水没させてしまうと卵が死んでしまうし、かといって、陸上に放置した状態では、
孵化までに必要な水分を雨だけではまかないきれません。
これを解決するために、コオイムシやオオコオイムシではメスがオスの背中に卵を産みつけ、
オスは孵化までの間、水に潜ったり浮かんだりしながら、卵に水と空気を供給し続けます。
タガメの方は、水面に突き出た杭や植物などに卵を産みつけますが、
これでは「陸上への放置」と一緒ですから、父親であるオスは
何度も水中と卵とを行き来して、水を運んでかけてやります。
移動能力のあるオスの背中に卵を産みつけるコオイムシの方が合理的であるように思え、
孵化するまで飛べないということを除けば、オスが特に不自由しているようにも見えません。

これに対して、タガメは孵化までの数日間、オスが卵の近くに拘束されることになるので、
エサも取りにくいだろうし、また、卵をねらう外敵に対しては、背負って逃げることも
できないため、覚悟を決めて立ち向かわなくてはなりません。
魚をとらえたタガメ
「魚をとらえたタガメ」

18年間にもわたる飼育の中では、いろいろなことがありました。

卵を産む場所として、「水面に突き出た杭など」と書きましたが、ぼくは木の棒の底を
生け花で使う剣山に刺し、棒の半分ほどが水面に出るような形で水中に立てています。
およそ20センチの棒を、空中と水中で10センチずつ分け合うようにセットするわけですね。
産卵場所として、これでお気に召すかどうかは、タガメに訊いてみないとわかりませんが、
せまい水槽の中で、そこしか産卵できる場所がないので、ちゃんと卵を産んではくれます。

ところが、ある時、この杭が水槽の中で横倒しになり、水没していたことがありました。
大型の剣山を使っているのですが、地震などで倒れてしまうことがないとは言えません。
その水槽内には、雌雄両方が入れてあったのですが、オスの姿を見て、目を疑いました。
(うわ、背中に産んじゃったよ!)
まるで、コオイムシのような姿のタガメがそこにいました。
卵を背負うタガメのオス(異常産卵)
「卵を背負うタガメのオス(異常産卵)」

残念なことに、このオスはすでに絶命しており、なぜ死んだのかは、今も謎です。

(1)杭が倒れ、タガメの夫婦は産卵場所を失った。雌雄どちらの「提案」によるものか
   わからないが、オスの背中が緊急の産卵場所に選ばれ、産卵が終ったあと、
   オスに何らかのアクシデントが起き、死んだ。
(2)杭が倒れ、タガメの夫婦は産卵場所を失った。雌雄どちらの「提案」によるものか
   わからないが、オスの背中が緊急の産卵場所に選ばれ、産卵が終ったあと、
   オスはメスに食われた。(産後のメスは栄養補給を必要とし、猛烈な食欲を見せます。
   タガメの摂食方法は、えものの体内を溶かしてストロー状の口で吸うというスタイル
   なので、食われたあとも、死体は損壊のない状態で、原形を保っています。
   端的に言って、死体を見て、捕食後かどうかの判断はできないのです。)
(3)杭が倒れ、倒れた杭に当たってオスが事故死した。産卵場所である杭を失ったメスが
   ちょうど産気づき、今や水槽内で「唯一の陸上」となったオスの死体
   (浮かんでいました)を、卵の「救命ボート」として活用した。

いろいろ考えてみましたが、はっきり結論が出せるわけではありません。
ただ、タガメのメスは産卵衝動が高まった時点でオスに出会えないと、
卵を水中にばらまいてしまうので、おそらく(3)のストーリーはないでしょう。
背中に産卵された時、オスはまだ生きていたのだと思います。
ぼくは、(2)ではないか? と考えています。
「出産後に、伴侶を食う」 ぐらいのことは、タガメのメスは、正常産卵でも平気でやります。
ぼくがもっと早く気づいて、両者を引き離しておけば、悲劇は回避できたのかもしれません。

杭を、あえて立てない水槽に、もう一度オスとメスを閉じ込め、
コオイムシのような行動を見せるのかどうか、確かめたいと思っていますが、
その機会のないまま、数年が経ってしまいました。今年の夏に、それができるかどうか・・・。
これまでは、累代飼育(=近親結婚)の弊害をあまり感じることもなく来ましたが、
去年の夏は、雌雄を一緒にしても産卵まで至らないケースが多く、
例年なら正常産卵が10回は見られる(飼い切れないので、10回ぐらいで止めています)のに、
わずか3回しか正常な卵塊を得ることができませんでした。
去年がたまたま「不作」の年であったということであればよいのですが、
産卵回数が3回では、実験している余裕などありません。

「産む場所がなきゃ、ぼくの背中で育てるさ。コオイムシ科なら、当然の行動だろう?」
タガメがみな、そう言って同じような行動に出るのかどうか。
それとも、あのメスだけが、天才的な行動をとったのか?
長いつきあいがあっても、やっぱり虫は、わからないことだらけのミステリアスな存在です。
また、そういう存在であり続けてほしい、とも思うのです。

<お知らせ>
ぼくの著書の一つ、「オオカマキリ-狩りをする昆虫」という本のシリーズ、
あかね書房の「科学のアルバム・かがやくいのち」が、
「厚生労働省社会保障審議会推薦図書」に選ばれたそうです。
「全国学校図書館協議会選定基本図書」、「日本図書館協議会選定図書」に続く
3度目の推薦指定で、ぼくは全20巻のうちの1冊を担当しただけですが、
うれしいニュースです。 同シリーズは、「カブトムシ(海野和男)」、
「ミツバチ(藤丸篤夫)」、「トンボ(中瀬潤)」、「カ(高嶋清明)」など、
多くの写真家が参加しており、虫以外にも、「ヤドカリ」、「タンポポ」、「ツバメ」など、
あつかう生物種は多岐にわたっています。
税別2,500円と高い本ですが、お近くの図書館などにご推薦いただければありがたく思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

◆ニュースを伝える記事はこちら◆
http://www.akaneshobo.co.jp/news/info.php?id=188
◆「オオカマキリ-狩りをする昆虫」の、著者自身による著書紹介はこちら◆
http://moriuenobuo.blog.fc2.com/blog-entry-21.html
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