「マレーシア紀行」の第3回、今回が最終回です。

旅先でも最低限の白バック撮影がこなせるよう、持っていくべき機材の選択には、
ほとんど迷う余地もなかったのですが、モデルの昆虫をキープしておくための容器は、
どんなものをどれだけ持っていくか、出発前にかなり悩みました。
現地で、タッパーなどを調達するのは難しいと思っていたからです。

商店の陳列棚
「商店の陳列棚」

ところが、町のごく普通の雑貨屋さんに入ってみれば、タッパーはもちろん、
日本以上に昆虫向き(?)の多種多様な容器が並んでおり、これは、うれしい誤算でした。
写真の上段2点と、下段右は、同じ雑貨屋さんの商品棚です。
赤いフタがついている円筒形の容器(上段左の写真)は、
最初から虫を入れるために作られたものかと思うほどで、ねじ込み式のフタを
少しゆるめておけば空気交換もでき、穴を開ける必要がありません。
下段右は、日本の昆虫館がバックヤードで幼虫飼育に使っている容器と同じに見えますが、
10個入りでわずか5.4リンギット(当時のレートで151円相当)という、破格値でした。
オマケで掲載した下段左の写真は、食料品を売るスーパーの棚です。
マレーシアではどこでも日本の「ミロ」が大人気のようで、食事をした店でも、
コーヒーや紅茶に混じってドリンクメニューに「ミロ」があり、これには驚かされました。

さて、「虫屋の聖地」と呼ばれる19マイルは、確かに昆虫の楽園なのですが、
いつもいつも都合よく「大物」に出会えるとは限りません。そこで、時には
オラン・アスリから譲ってもらった昆虫をモデルにして、やらせ撮影をすることもあります。
オオコノハムシとその卵
「オオコノハムシとその卵」

このオオコノハムシは、そのようにして撮った写真で、止まっている樹種まで
矛盾のないように演出してあります。 「擬態名人」として、ここまで名高い昆虫も
あまりいないのではと思いますが、逆光に葉が透けると意外にその存在が目立つものだなあ・・・
と思いました。右の写真は、手前からストロボを当てて、明るさのバランスをとっています。
容器の中で卵を産んだので、卵の白バック写真も撮影。
1cm近くもある、特大サイズの卵です。

ハナカマキリの幼虫
「ハナカマキリの幼虫」

日本にも、緑色や褐色などの体色を武器に、一定のカムフラージュ効果を
上げているカマキリはいますが、こうして体型まで変えて、
自分を何かに似せている日本産カマキリはいません。
ハナカマキリは、体型そのものが花びらのような形に変化しており、
うすいピンク色の体色と相俟って、花への擬態効果を極限まで高めています。
図鑑などでよく見るのは、ランの花に紛れて姿を隠している写真で、ぼくもこうして、
そんな写真を撮ってみましたが、一説によると、むしろ花のない場所で獲物を待つことで
自分が花になりきり、誤認した虫たちが自分に向かって飛んでくるのを待ち構えて捕獲する
という、「隠れる擬態」でなく「目立つ擬態」ではないか、との考察もあります。
ちなみに、ハナカマキリが花になりきることができるのは、幼虫時代に限られ、
成虫になるとあまり花には見えず、擬態効果はかなり薄れます。

19マイルだけでなく、クアラ・ウォー(Kuala Woh)で見た虫たちもご紹介しましょう。
アカエリトリバネアゲハ、ツムギアリ、タマムシ、ハンミョウ
「アカエリトリバネアゲハ、ツムギアリの顔、タマムシの仲間、ハンミョウの仲間」

クアラ・ウォーは、ジュースの売店などもある、公園のような環境で、川で泳いだり、
水遊びを楽しんだりできる観光地として、いつも現地の人々で賑わっています。
ここは温泉が出る場所で、砂地にある水たまりに手を入れてみると確かに温かく、
完全にお湯です。この温泉が、チョウの好む成分を含んでいるらしく、
マレーシアの国蝶「アカエリトリバネアゲハ」が吸水に集まる場所として、
昔からよく知られています。

上の写真はこの場所で見た虫たちで、左上から時計回りに、
アカエリトリバネアゲハ、ツムギアリの顔、タマムシの仲間、ハンミョウの仲間です。
アカエリトリバネアゲハは、1匹が静かに止まっているだけでも、
その付近の空間を制圧するような重厚な存在感があって、
マレーシアの国蝶として、こんなにもふさわしいチョウは他にいないと思います。

旅の終りに、キャメロンハイランドにある昆虫園に立ち寄ってみましたが、
園内でぼくの腕に舞い降りたアカエリトリバネアゲハと眼が合い、
その威厳と風格には、こちらが気圧されそうでした。
アカエリトリバネアゲハは、サワガニの死体などには決して来ないので、今回ばかりは、
腕に止まってくれたのは、ぼくが「臭かったから」ではないと思います(笑)。

数センチの至近距離から見た夢幻の輝きを、ぼくはいつまでも忘れないでしょう。
アカエリトリバネアゲハの翅