来年に出版を控えている2冊の本の、台割作成やらネーム書き、スタジオでの追加撮影
などに時間をとられ、気がつけば、もう1ヶ月もの間、フィールドから遠ざかっています。
「台割」というのは、本の総ページ数が決まった後、それぞれのページに
どんな記事や写真を配当するかという「本の設計図」のようなもので、
多くは編集者が作るものですが、ぼくは自分で作って提案することも少なくありません。
「ネーム」というのは、マンガでは「セリフ」を指しますが、写真に当てはめる文章のこと。
単なる写真解説(キャプション)ではなく、それによってストーリーが展開していくもので、
写真の添え物という扱いではない、写真と同等の重みを持つ「本文」です。

というわけで、要は、ブログネタに詰まった、ということを言いたかったのですが(笑)、
2年前に、初めてマレーシアに行った時のことを、3回連続で書きたいと思います。

ちょうど今ごろの時期でしたが、2012年11月22日~12月2日までの11日間にわたって、
マレーシアを訪れました。ぼくは語学ができない上に、空前の「ヘタレ」なので、
初めての国に一人で行く度胸がなく、経験豊富な昆虫写真家の鈴木知之さんと一緒の旅です。
マレーシアの国営テレビ局が鈴木さん自身を取材する、という企画に同行する形で、
初めてのマレーシアを堪能させてもらいました。

オラン・アスリの住居
「オラン・アスリの住居(19マイル)」

テレビ局は、そこそこの場所で必要な画が撮れてしまうらしく、行き先は有名ポイントのみ。
でも、ぼくにとっては、どこであれ初めての場所ですから、まったく不満はありません。
「タパ」の町に宿を求め、虫屋の聖地とも呼ばれる「19マイル(そういう地名です)」と、
アカエリトリバネアゲハの吸水集団が見られる「クアラ・ウォー(Kuala Woh)」とを、
日替りで行ったり来たりしました。19マイルにあるオラン・アスリ(マレー半島の先住民族)
の家はこんな感じで、ちゃんと電気が通っています。驚いたことに、中にはパソコンもあり、
「SNSやってますか? えっ!ブログもないの?」(当時はなかった)
なんて馬鹿にされたら嫌だなあ・・・と、滞在中ずっとビクビクしていました。

19マイル寸景
「19マイル寸景」

集落を抜けると、そこから先が昆虫の楽園。流れのほとりの岩場を歩いて、上を目指します。
この場所は、大雨が降ると岩はすべて水面下に没し、道が完全に消失します。
滞在中に一度、そういうことがあり、ぼくらが山中にいる間の豪雨だったので、
帰りのルートを失い、崖の垂直面を上って、辛うじて帰還した、という一幕がありました。

見晴らしのよい岩の上には、必ずオラン・アスリが座っています。
上の写真は若い夫婦で、奥さんは赤ちゃんを抱いていました。
何をしているのかというと、彼らは網を持って、昆虫の飛来を待っているのです。
現金収入としては、昆虫の販売だけに依存している村で、ここに来るような日本人は、
例外なく虫屋(=昆虫愛好家)ですから、日本人の姿を見かけると、すでに採集してあった
さまざまな昆虫を見せに来ます。写真のとおり、網はビニール袋を利用した粗末なもので、
風の抜け道がないのに、よくこんな網を勢いよく振れるなあ・・・と感心してしまいます。
ハナカマキリの幼虫が30リンギット(当時のレートで840円)で、これが最も高価な部類。
バイオリンムシ(「ギター・ビートル」と呼ばれます)などは10リンギット(同280円)で、
あまりの安さにビックリしてしまいました。

キノコにつく虫/ヨコバイ
「キノコにつく虫たち / ツマグロオオヨコバイそっくりな虫」

森の中には、サルノコシカケのようなキノコが生えている木があり、たくさんの昆虫が
集まっていました。黒地に4つの赤紋がある甲虫が多く、同じパターンの模様を持つ甲虫が
ここには少なくとも4種類いて、キノコムシ、テントウダマシなど、分類群もさまざまです。
キノコにつく甲虫が、このデザインに収斂されるべき理由が全然わかりませんが、
あまりにも皆ソックリなので、そこには何か意味があるのでしょう。
日本のツマグロオオヨコバイに酒を飲ませたような、「赤い顔のツマグロオオヨコバイ」も、
たくさんいました。撮影したら、排泄した滴がたまたま写真に写り込んでいました。

汗を吸うチョウ
「汗を吸うチョウたち」

うす暗い林内を抜け、明るい場所に出ると、
流れのほとりの砂地に、何匹かのチョウが吸水に訪れているのが見えます。
ぼくの手に、1匹のチョウがふわりと舞い降りました。(よ~し! 来た来た!)
実は、こうなることを半ば予想していたのですが、ぼくは、「チョウにたかられる男」です。
これは日本での出来ごとですが、サワガニの死体から吸汁していたウラギンシジミが、
ふわりと飛び立って、ぼくの手から汗を吸い始めたことがありました。
「何だよ~! おまえの汗って、サワガニの死体より生臭いのかよ!」と、同行の虫仲間は
大爆笑ですが、次から次に現れるウラギンシジミに、返す言葉も見つからず(笑)、
「サワガニの死体より臭い男」という評価は、いっそう揺るぎないものとなりました。

マレーシアでも、その神通力がちゃんと通用した、ということですね。
別の種類のチョウもやってきて、ぼくの手から汗を吸っていきます。
ワールドワイドで臭いヤツ、という評価はもう、甘んじて受け入れることにしましょう。
女子には避けられても、チョウが寄ってきてくれるなら、その方がマシです(キッパリ)。

暮れゆくタパの町
「暮れゆくタパの町」

タパの町に戻ると、もう7時を過ぎているというのに夕焼けが美しく、
鈴木さんとビールを飲みながらくつろいでいると、ふと旅情がこみ上げてきます。
写真の右に見えるのが、われわれが宿泊したホテル「TIMURAN(ティムラン)」。
灯火への飛来昆虫も期待したのですが、滞在中、意外にも蛾の1匹さえ来ませんでした。