10月28日の記事で、「文化の日の蛾」として、ミノウスバをご紹介しました。
このミノウスバを白バックで撮影中に、ぼくがうっかり刺激を与えてしまい、
しまった!飛んじゃうかな? と思って身構えたのですが、飛び立ったりはせず、
尻を高々とかかげて、このようなポーズを見せてくれました。
ミノウスバ・威嚇(白バック)
「ミノウスバ・威嚇(白バック)」

おお、そうか。きみの決めポーズはこれだったね!
久しく見ていなかったので、忘れていましたが、ミノウスバ独特の威嚇姿勢です。
飛翔中には、決して見せないポーズですし、ネットインすると、
まずはフリーズして擬死の態勢に入るので、本当に久しぶりに見たような気がします。
「昼間に飛ぶ、はねの透明な、黄色と黒の混ざった虫」、ということでは、
これもハチ擬態の一例かもしれませんね。蛾ですから、もちろん針はありませんが、
「刺すぞ!」とハッタリをかけているのかもしれません。

白バック撮影というのは、いわば「生きた昆虫の標本撮影」みたいなものですが、
その成否を分ける生命線は、「躍動感」ではないかとぼくは思っています。
一時的に虫の動きを止めたり、仮死状態にしたり、撮影しやすい状況を作る裏技は
いくつかあるのですが、ぼくは可能なかぎり「躍動感」を引き出したいと思い、
多くの場合、あまり手を加えずに、舞台上に元気なモデルを載せています。
虫は当然、写真におとなしく収まってはくれませんから、今回のミノウスバのように、
威嚇してきたり、あるいは飛んで逃げたり、時にはポロポロとウンチをしてしまうものも
出てくるわけですね。

最近では、白バック上で起きるハプニングがだんだん楽しくなってきて、
その分、集中感もいい感じで持続しますから、おもしろい瞬間を逃さずに
キャッチできるようになってきました。ハラヒシバッタのジャンプです。
ハラヒシバッタ・ジャンプ(白バック)
「ハラヒシバッタ・ジャンプ(白バック)」

このように、動きのある白バック写真を撮影しているうちに、
「作品」といえるものがかなり集まってきたので、いずれ本にまとめたいと思って
準備していますが、今のように、撮影が楽しいと思えるようになるまでは、
白バック撮影は、ほとんど「スポ根」だと思っていました。
なにしろ、「元気いっぱいのバッタ」を台に載せて撮影しようというのですから、
ちょっとした「覚悟」が必要であり、そんなに簡単なものではありません。

撮影台に載せる、ファインダーを覗く、ジャンプして逃げる、追いかける、
部屋の隅でつかまえる、撮影台に載せる、ファインダーを覗く、ジャンプして逃げる、
追いかける、部屋の隅でつかまえる、撮影台に載せる・・・。
10回もこれをくり返すと、それだけでもう、汗びっしょりです。
しかも、「ジャンプして逃げる、追いかける、部屋の隅でつかまえる・・・」、
という単純なくり返しは、むしろ幸運な事例であって、
体が小さいヒシバッタのような昆虫の場合、事態はさらに紛糾をきわめ、
スタジオが修羅場になることもしばしばです。

「ジャンプして逃げる、追いかける、見失う、机をどかす、椅子もどかす、棚をずらす、
見つからずに頭を搔きむしる、自分をののしる、目の前にピョンと出てくる、
神に感謝する、感謝しているうちにまた逃げられる、神を呪う、また出てくる、
今度こそつかまえる、うわあ埃まみれじゃないか! 洗面所で洗う、バッタがいやがる、
かわいそうで胸が痛む、ティッシュでやさしくくるむ、ティッシュから大切にそっと出す、
人の気も知らずジャンプして逃げる、追いかけてころぶ、バッタと一緒に埃まみれになる、
気落ちする、放心しているうちにまた逃げられる、自分の目的がわからなくなる・・・」、
大げさでなく、こういうことがわが家のスタジオでは実際にしばしば起きているのです。
今では、それさえも楽しめるようになってきましたが(笑)。

ナナホシテントウの撮影は、ヒシバッタにくらべれば、ずいぶん楽なものでした。
上へ上へと向かう虫ですから、飛ばれても見失うことがないのは、非常に助かりますね。
ナナホシテントウ・飛び立ち(白バック)
「ナナホシテントウ・飛び立ち(白バック)」

「ぼくらはみんな生きている。生きているから××だ」、という歌がありますが、
生きているからこそ、躍動感あふれるカッコいいポーズが決まるし、
生きているからこそ、想定外のハプニングもあって楽しいのでしょう。
奥が深い白バック撮影ですが、「名優」たちには、ぼくの演出意図になどお構いなく、
変に空気を読まずに? 舞台上で自由気ままに動いてほしいものです。
そんな時にこそ、撮影者の意図を超えた、思いがけないよい作品が生まれるのです。