「どS」という言葉を知らなかったお嬢さんがいます。
「えっ、どえす ってなに? 京都のことば?」 などと言うので、
「違う違う、それはちなみに、どすえ ね」 と、誤解を解いてあげたのですが、
「知らない」 ときっぱり言われてしまうと、若いお嬢さんに
改まって「どS」の意味を教えるのも、なかなか気恥ずかしいものです。

「え~と、オスとメスがいてね。ほら、カマキリって虫、いるじゃん?
メスがさ、オスを食べちゃうでしょ。ああいうメスをね、どSって言うんだよね」
と、噛み噛みで説明しましたが、われながら下手な、おバカ解説です
(というか、少し違うような気もするし・・・)。

さて、そこで(?)「著者自身による著書紹介」の2回目です。
オオカマキリ―狩りをする昆虫  (科学のアルバム・かがやくいのち)オオカマキリ―狩りをする昆虫 (科学のアルバム・かがやくいのち)
(2013/03)
森上 信夫

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「オオカマキリ-狩りをする昆虫」(あかね書房)2013年3月発行

「オオカマキリ-狩りをする昆虫」(あかね書房)の撮影を担当した時、
編集サイドからの注文には、当然、交尾の写真も、
また、交尾後の、メスによるオスの共食いシーンの写真も含まれていました。
カマキリの本を作る以上、これらは絶対に欠かすことのできない定番写真です。
昆虫の「特定の1種の生活史を追う」 というタイプの科学絵本の撮影では、
先走ったオリジナリティより、まずはいったん「様式美」をきちんと踏襲する
ところから始まります。

これが意外にやっかいなもので、
(1)本でよく見かける「超定番」シーンなのに、いざ自分が撮影しようとすると、
   待っても待っても、意外にその場面が訪れない。焦りで、心が折れそうになる。
(2)撮りつくされているシーンなので、後発本には、より高いクオリティが求められ、
   70点ぐらいの写真では、なかなかOKをもらえない。
   「割とフツーですね」、と言われてしまう
   (露骨にダメとは言われないが、要は、「察してくれ」ということ)。
   100点に近くないと、胸を張って提出できず、
   自分の技術の拙さを思い知って、ここでもまた、心が折れそうになる。
という、「二重苦」と向き合うことになります。

オオカマキリの「交尾後の共食いシーン」は、
この(1)にも(2)にも該当するもので、撮影はなかなか大変でした。
交尾中のオオカマキリを野外で見つけることは、少ないながらもありますし、
飼育下で羽化させた未交尾の雌雄をお見合いさせれば、
人為的に交尾態を作り出すことは、そんなに難しいことではありません。
問題はその先で、交尾を終えたオスは、まんまと逃げおおせてしまい、
なかなか、メスに食われてはくれないのです。

まあ、それはそうですよね。積極的に食われたいというオスもいないでしょうし、
うまく逃げおおせることができれば、また違うメスに出会えるチャンスもあるわけです。
ぼくは、婚活中の多くのカマキリの仲を取り持ち、まるで、「やり手ババア」のように
新婚カップルを次々に誕生させてきましたが、何組目かに、ようやくメスの手にかかり、
頭からバリバリと食われていくオスの姿をカメラに収めることができました。
出版社の出版物として、本の掲載写真をここにそのままアップすることはできませんが、
食われていくオスが、上半身を失ってなお、最後まで交尾器の連結を解かなかった、
その接合部分の写真がこれです。
交尾中に食われるオオカマキリのオス(部分)
「♀(上)に食われ、上半身を失いながら交尾を続けるオオカマキリの♂(大幅トリミング)」

上半身も下半身も差し出し、メスの食欲と性欲に全身で奉仕しつつ、
この世から跡形もなく消えていくオス・・・。
これこそ、究極の愛のかたちと言えるのかもしれません。

「どS」についての解説をひとしきり聞いて、じゅうぶん納得顔のお嬢さんに、
「じゃあ、森上さんは、どMでしょう(笑)」 と言われてしまいました。
いやいや、オオカマキリに比べたら、まだまだ修行が足りません。
というか、言葉も知らなかったようなお嬢さんに、そんなに簡単に見破られるようでは、
オトナとしてなさけないです・・・。