ベランダに置いたエノキの鉢植えで、オオムラサキの幼虫が育っています。
現在は3齢(孵化から2度目の脱皮を終えた状態)で、どんな4齢幼虫になるか、
興味津々で見ているところ。

オオムラサキは、終齢(さなぎになる直前の齢期)の齢期がはっきり決まっておらず、
6齢または7齢のいずれのケースもありえます。
越冬後の脱皮回数については決まっており、越冬明け3度目の脱皮でさなぎになるので、
4齢で越冬すれば6齢が終齢、5齢で越冬すれば7齢が終齢、ということになりますね。

暖地では5齢越冬、寒地では4齢越冬ということになっていますが、
山梨県産の母チョウから採卵し、マンションの暖かいベランダで育つ幼虫が、
ここを暖地と判断するか、寒地と判断するか、判断の難しいところ。
気温よりも日長条件が優先するとはいえ、本来は「寒地」に分類される関東地方でも、
房総半島などには5齢越冬する個体群がおり、気温ファクターもゼロではないはずです。

北海道産を暖地で飼育すると、明らかな「暖地」であっても4齢で越冬するそうで、
プログラムの書き換えが、すぐには間に合わないようですね。
山梨県産のプログラムが発動すれば、こちらでも4齢で越冬することになるでしょう。
越冬幼虫は、落ち葉の下にもぐりこむためか、ツノの短い特殊な姿になるので、
次の脱皮でどんな「顔」になるかで、4齢越冬か5齢越冬かがわかります。

オオムラサキの2齢幼虫の止まり姿勢
「オオムラサキの2齢幼虫の止まり姿勢」

2齢のうちは、みな葉っぱの先端付近に、こうして葉柄に顔を向けて止まっていましたが、
3齢になると、同じようなポーズではあっても、若干、位置決めがルーズになります。
幼虫は、食べる葉と、居所として落ち着く葉とをはっきり分けており、
居所の葉から出かけて行って、別の葉を食べてまた居所の葉へ帰ってきます。
同じ母チョウから産まれた幼虫でも、居所をひんぱんに変える者と、
枯れそうに変色してきても、同じ葉から動かない者と、それぞれ個性があって面白いです。

ひだ状突起のほとんどない個体
「ひだ状突起のほとんどない個体」

個性といえば、こんな奇妙な風貌の幼虫が1匹おり、注意して見守っていますが、
特にハンデがあるとは思えず、すくすくと育っています。
兄弟たちが、みな3齢なので、これもおそらく3齢と思いますが、
背面に4組あるはずの、ひだ状の突起がほとんどありません。
のっぺらぼうのような背中です。
背面のひだ状突起を横から見たところ(6齢幼虫)
「背面のひだ状突起を横から見たところ(6齢幼虫)」

ハンデといえば、こんな幼虫もいます。
ツノの一方が根元からない個体。

ツノの一方がない3齢幼虫
「ツノの一方がない3齢幼虫」

この幼虫のツノの欠損については、全面的にぼくに責任があります。
タッパー容器で飼育をしていた2齢幼虫前期までの間に、
誤ってツノを切り落としてしまったのです。

幼虫は、居所の葉に糸を吐きつけ、その糸の台座に脚を絡めて体を固定しています。
台風が来ても葉から落ちないのは、脚が台座の糸に絡んでいるからで、
幼虫を傷つけないようにこの台座から安全に引きはがすのは、至難の業です。
そこで、エサの葉をひんぱんに替えてやらねばならないタッパー飼育では、
幼虫だけを新しい葉に移すことをあきらめ、はさみで葉っぱを切りぬいて、
幼虫を載せた小さな葉片ごと新しい葉に移し替えるのですが、
その際に手もとが狂って、ぼくが片方のツノを切り落としてしまったのです。

緑色の体液があふれ出し、これでこの幼虫はおしまい・・・、と肩を落としましたが、
その後もちゃんと成長して脱皮し、半月以上にわたって生き続けており、
何ごともなかったかのようにすくすくと育っています。
どこかのタイミングでツノは再生に向かうのか、あるいは、ツノのないまま成長が進み、
ちゃんと成虫まで育つのか、そしてそれはどんな姿の成虫なのか、
興味を持って見守っています。
こんな状態にしてしまったのはぼくなので、この幼虫を見るたびに胸は痛みますが・・・。

うどんこ病菌を食べるキイロテントウの幼虫
「うどんこ病菌を食べるキイロテントウの幼虫」

この時期のエノキは、うどんこ病菌に冒されて、葉裏が白くなることが多いのですが、
病変が軽度ならば、オオムラサキの幼虫も葉を食べるようです。
そして、どんなものでも必ず食料にしてしまう者たちがいる昆虫たちの世界で、
うどんこ病菌を食料に選んだキイロテントウの幼虫が葉裏に見られます。

ベランダの1本の鉢植えの葉上でも、さまざまなドラマがあり、
秋を迎え、これから落葉に向けてゆるやかに変化していくエノキの葉の上で、
オオムラサキの幼虫の体内でも、同じスピードで落葉に向けての備えが
できていくのでしょう。

あとは、幼虫が木から下りたいタイミングで、ぼくがしっかりと回収してやらねば
なりません。幼虫が冬を過ごす、ふかふかの落ち葉のじゅうたんは、
鉢植えの根際にはありませんから。
 9月4日(日)のこと。 テレビのお天気コーナーで、
「秋の気配も感じられるようになり、昨日は横浜でコオロギの初鳴きが聞かれました」、
と言っていましたが、これがもし、気象報道のプロという立場からの公式コメントで、
テレビを通じて発信するほどの公益性のある情報ならば、
相当にレベルの低い観測が行われていることになります。
関東平野におけるコオロギ類の初鳴きであれば、1ヶ月も前に記録されていなければ
おかしく、8月3日ならともかく、9月3日まで気づかないでいるようでは、
観測の意義がありません。お盆を過ぎてから、ヒマワリの開花に気づくようなものです。

エンマコオロギのオス(白バック)
「エンマコオロギの♂(白バック)」

ヒグラシもよく、「秋の気配」の引き合いに出されますが、虫をよく知る人から見れば、
こちらも「少しも自然を見ていない」と言えますね。「涼しくなってから鳴くセミ」と
思い込んでいる人が多いのですが、誤って秋の季語にされてしまったことの影響でしょう。
関東平野で鳴く5種類の夏のセミのうち、ヒグラシはニイニイゼミ(6月下旬)に次いで
2番目に出現が早く、7月なかばにはその声を聞くことができます。
鳴き声がいかにも涼しげであるからといって、
よく観察もせずに秋の季語としてしまうのは、あまりにも短絡的です。

そのヒグラシもほぼ死に絶える9月を迎えて、
ようやく、「カブトムシvsクワガタムシ」の撮影を済ませました。
季節感に疎い人をこきおろしたばかりですが、
ぼくの仕事の「季節遅れ感」も相当なものです。
「カブトムシvsクワガタムシ」は、需要の多い写真ですが、
それだけに発表した写真が新鮮さを失いやすく、常に新作を求められます。
毎年、新作を撮らねばならないことはわかっているのですが、
ほかの撮影に時間を取られ、「ああ、今年も新作が撮れなかったなあ・・・」
ということが続き、「今年こそは!」と思っていました。
飼育下のカブトムシ、クワガタムシが次々に死に始めたので、一刻の猶予もなく、
ようやくスタジオにセットを組んで撮影したというわけです。

9月にこんな撮影をしているというのは、もう2学期が始まっているのに
夏休みの宿題を残しているようなもので、昆虫写真家としては本来あるまじきことです。
2週間以上も前から、ツクツクボウシの鳴き声が
(宿題やったか? 宿題やったか? やったかやったか・・・?)と聞こえるようになり、
心穏やかでありませんでしたが、ようやく撮影を終えてスッキリしました。

カブトムシもノコギリクワガタも、もうオスが1匹ずつしか生き残っていなかったので、
同じモデルさんで、「闘い」の連続カットを何セットか撮らせてもらいましたが、
何度立ち向かっても投げ飛ばされる一方だったノコギリクワガタが、
最後は空中で半回転の「ひねり」を加えて反撃する、という面白い写真が撮れました。
そう何度も同じ手は食わないぞ! と学習したのか、
あるいは単なる偶然なのかわかりませんが、まあ、おそらくは後者でしょうね。
この闘いを最後に、カブトムシの方がマッチアップを拒否するようになってしまったので、
学習の効果かどうか、確かめることはできませんでしたが。

ノコギリクワガタの意外な反撃
「ノコギリクワガタの意外な反撃」

リオ・オリンピックの決勝で、投げにいった吉田沙保里選手が次の瞬間、
相手にバックを取られてしまうという悲しい場面がフラッシュバックしましたが、
体の硬い外骨格の昆虫の行動が、しなやかな人間の動作に重なって見えるというのも、
なんだか不思議な気がします。

カブトムシの投げが決まった瞬間
「カブトムシの投げが決まった瞬間」

勝敗は通常、このように決します。
それこそ、発表してしまうと新鮮さを失うので、
ベストショットの連続カットは、ここではお見せすることができませんが、
夏休みの宿題はやはり、コオロギの初鳴きの頃までには着手すべきですね。
きょう9月6日は母の命日ですが、母が今も生きていたなら、
「信夫は、小学生の頃から少しも進歩していない!」と言って叱られそうです。