2016.05.25  新潟へ
 5月14~15日は新潟へ。

関東平野では会えない虫を求めて、虫仲間と新潟で1泊してきました。
十日町市の貸し切り古民家を拠点に、上越市など周辺の地域も回り、
いちばん遠くは関田峠あたりまで向かいます。

オトシブミの雌雄
「オトシブミの雌雄」

早朝に埼玉を出発したので、9時前には現地に到着。
林縁に車を停めて歩き出せば、すぐにおびただしい虫たちの気配が押し寄せてきます。
見上げれば、ちょうど揺籃(ようらん)製作中のオトシブミのメスと、
そのメスに覆いかぶさるオスの姿が。
交尾を終えたメスにとって、作業中にまとわりついてくるオスは邪魔になるだけですが、
オスとしては、絶対にほかのオスにメスを奪われたくないのでしょう。
交尾していなくてもメスに覆いかぶさり、接近するほかのオスを牽制するこの行動は
「メイトガード」などと呼ばれ、樹液場のクワガタムシなどでもよく見られます。
寄主植物は、どうやら日本海側の豪雪地帯に多いというミヤマカワラハンノキのようで、
クリの葉を巻くオトシブミはよく見ますが、
ぼくにとっては、この樹種自体が初めて見るものです。

クロルリトゲハムシ
「クロルリトゲハムシ」

草地に下り立つと、クロルリトゲハムシの姿が。わずか4ミリほどの小さな虫です。
寄主植物はススキ。 「トゲハムシ」より、「トゲトゲ」という昔の呼び名の方が、
この虫のキャラを立てるには、ずっとよい名前だったと思いますが。

ギフチョウの交尾嚢
「ギフチョウの交尾嚢」

仲間が採集したギフチョウのメス。
交尾が済むと、オスはメスの生殖器に交尾嚢(交尾栓)と呼ばれる貞操帯をつけます。
この、板状の貞操帯でおなかが覆われていれば、ひと目で交尾済みであることがわかる。
メスに浮気を許さないためには、この上なく効果的な方法ですが、
オトシブミの「メイトガード」に比べれば、相当に乱暴なやり口ですね。
それにしても、少し離れたところでは、たくさんのウスバシロチョウ(ゴールデン
ウイーク明けに現れる、まさにこの時期のチョウ)が舞っているというのに、
同じような場所で、早春のチョウの象徴的存在であるギフチョウが見られるとは・・・。
両種の発生時期は、本来ならば1ヶ月以上ずれています。
この地域では特に珍しいことではないらしく、今回の旅では、
かなり接近した場所で、あたりまえのように両種が見られました。

新芽に止まるユキグニコルリクワガタ
「新芽に止まるユキグニコルリクワガタ」

芽吹いたばかりのブナやトネリコに集まってくる、ユキグニコルリクワガタの雌雄。
名前を分解して「雪国・小・瑠璃・鍬形」とすると、意味がよくわかりますね。
メスは芽にもぐりこんでおり、体の後半部しか見えていません。
これも、オスによる「メイトガード」ですね。
画面左下に、白っぽくボケているもの(矢印)が見えますが、残雪です。
その部分のアップがこちら。

残雪
「残雪」

早春の虫と初夏の虫が、接近した場所で同時に見られるのは、
わずかに標高を上げるだけで残雪が見られるという、この地域特有の気候が
関係しているのでしょう。

強い光沢を持ち、「コルリクワガタ界」でも群を抜く美しさと言われる
ユキグニコルリクワガタ。 非常に「白バック映え」する虫です。

ユキグニコルリクワガタの雌雄(白バック)
「ユキグニコルリクワガタの雌雄(白バック)」

宿に帰り、みんな(19人)で乾杯して、盛大に酒盛りを始めましたが、
ぼくは途中でちょっと抜け出して、古民家の裏手にある池へ。
ここへ到着したときから、何がいるか気になっていたので、
網を入れて底をさらってみたかったのです。

古民家の裏の池
「古民家の裏の池」

大したものはいなかったけれど、
ライトの灯りに、水面を歩く怪しい影が浮かび上がりました。
何だこりゃ? ひと目見ただけでは、分類群さえわかりませんでした。
網で掬い上げてみると、トビケラの蛹のように見えますが、
何しろ、水面の浮遊物の上をスタスタ歩いていたのです。
蛹がここまで自由に動けるものでしょうか。
見ていると、網をよじのぼって、逃げようとさえします。

室内に連れて帰り、周りの虫屋さんに見せますが、
ズバリ言い当てられるメンバーがいません。
とりあえず、資料として残しておくために、白バック上で証拠写真の撮影を始めると、
ほどなく、背中の一部が盛り上がってきました。
(おう! これは羽化だ。やっぱり蛹だったのか!)
期せずして、白バック上で、エグリトビケラの羽化の一部始終を撮ることができました。

エグリトビケラの羽化(白バック)
「エグリトビケラの羽化(白バック)」

ストロボの配光を自在にあやつれるスタジオ白バックとちがい、
宴会の座卓の端においたコピー用紙に虫を載せただけの簡易白バックですが、
なかなかおもしろい写真が撮れました。
こんなにもテキトーなセットで撮っています(最後の色づいたカットだけはスタジオです)。

エグリトビケラの羽化を撮る「昆虫王」チャンピオン
「エグリトビケラの羽化を撮る「昆虫王」チャンピオン」

むこう側からねらうのは、虫の世界では誰ひとり知らぬ者がいないという有名人、
TVチャンピオン「昆虫王」の長畑直和さんその人です。
こんな濃い(濃すぎる?)メンバーとともに、
「越後合宿」の夜はにぎやかに更けていきました。

※ 長畑さんのお名前に、埼玉昆虫談話会の公式サイトへのリンクが張ってありますので、
  左側メニューの「昆虫王の部屋」というところからお入りください。
 5月5日、埼玉県内のいつものフィールドへ。

生きた昆虫の白バック撮影は、採集したモデル昆虫を連れ帰ってからが本番です。
2日ほど外出せずにスタジオにこもって撮影し、3日ぶりのフィールドとなりました。
外光の入らないスタジオで、1センチにも満たない昆虫ばかりを撮影していると、
まぶしい初夏の光があふれるフィールドは別世界で、まるで長患いの病人のように
目をしょぼしょぼさせながら、しばらく立ちすくんでしまいます。

この日のお目当てのモデル昆虫は、きわめて容易に採集できるものばかりだったので、
採集は後まわしにして、まずは楽しいフィールド撮影。
スタジオ撮影が続くと、たまのフィールド撮影はなんと楽しいものか・・・と思います。

ミドリシジミの幼虫の巣
「ミドリシジミの幼虫の巣」

沼のほとりのハンノキでさっそく見つけた、ミドリシジミの幼虫の巣。
葉を折り曲げて、「ぎょうざ」のような形の巣を作りますが、
これは若干いびつな「ぎょうざ」ですね。

ミドリシジミの幼虫
「ミドリシジミの幼虫」

巣を剥いてみると、もう十分に育ちきった幼虫が入っています。
これなら、蛹化のために木を下りてくる個体にも出会えるのでは? と期待して見回ると、
・・・いました。1匹の幼虫が、かなりの速度でハンノキの幹を下りてきます。

さなぎになるために、木を下りるミドリシジミの幼虫
「さなぎになるために、木を下りるミドリシジミの幼虫」

この日は、木から下りてくる3匹の幼虫に遭遇しました。羽化するのは6月です。
その時期に、またここを訪れたいと思います。

アシベニカギバの幼虫
「アシベニカギバの幼虫」

ゴマギの木にたくさんいた、アシベニカギバの幼虫。
特徴あるその姿は、まるでタツノオトシゴです。
庭木として、街なかでもよく見かけるサンゴジュも食樹となるはずですが、
まだサンゴジュで見つけたことはありません。

自宅に戻ってからは、再び延々とスタジオ撮影ですが、
目を休めるためには、ときどき大型の被写体を撮影するのが効果的です。

ヒメヤママユの幼虫
「ヒメヤママユの幼虫」

白バック撮影の合間に撮った、ヒメヤママユの終齢(5齢)幼虫。
8センチ程度はあるでしょうか。これだけ大きいと撮影も楽ちんです。
1齢幼虫の時に採集した個体ですが、終齢に至るまで、1ヶ月足らずという成長の早さ。
羽化するのは10月ですから、そんなに急いで成長しなくてもよいはずですが・・・。

ヒメヤママユの幼虫は、「麦畑」という愛称で呼ばれており、
背面の、きれいに刈り整えられたように同じ長さで並ぶ毛並みを「麦畑」に喩えています。
そのようすがよくわかるように、ストロボで照明しました。
 5月2日、前日よりも、やや遠い里山へ。

さて、いきなり暴言を吐きますが、
ぼくは、「気象予報士」という職業は、世の中から消えるべきだと思っています。
こんなに誤って人に迷惑をかけても、何ひとつ責任を取らずにいられる職業はほかにない。
この日は、親しくしている昆虫写真家も、
「現地で5時間待っても、目的の虫は現れずじまい。天気予報のお姉さんに「高速代と
ガソリン代返せ!」と言いたくもなりますが・・・」とブログでボヤいていましたが、
ぼくもこの日の天気予報には、完全に振り回されました。10万円以上の大損害。
4時間後の天気が当たらない天気予報に、いったいどれほどの価値があるでしょうか。
あてずっぽうに言っても、晴れか曇りか雨の3種類しかないわけです。
いくらなんでも、的中率が低すぎます。

天気予報が外れても、「恨みっこなし」にするのは実は簡単なことで、
天気図の分析を学校の必修科目にして、予報は国民各自の「自己責任」にしてしまえば
よいのです。最新の天気図が、いつでもだれでもダウンロードできる形で配信され、
それをもとに翌日の行動を決めるのは各個人、ということにすれば、
「傘を持つかどうか」は自己責任の範疇となり、職業としての気象予報士は成立しなくなる。
理科の時間に、オルニチン回路だの、二重らせん構造だの、
生活の役にも立たないことを教えて「理科ばなれ」を助長するより、
ずっと目的が明確で、有意義なことだと思いませんか?

さて、被害額を少しでも取り返すべく、天気が悪くてもできる取材に切り替えました。

キイロサナエの羽化殻(ぬけがら)
「キイロサナエの羽化殻(ぬけがら)」

この時期にここを通れば、確実に見つかるトンボの羽化殻(ぬけがら)。
ぼくはずっと、ヤマサナエの羽化殻だと思っていました。
ヤマサナエの姿はここで何度も見たことがあるし、キイロサナエがいるような環境では
ないと思っていたからです。ところが、手に取って腹節をよく見れば、これはキイロサナエ。
5つの羽化殻があり、その全てにキイロサナエの特徴が出ていますから、
まちがいないでしょう。

キイロサナエの羽化殻を撮影した場所
「キイロサナエの羽化殻を撮影した場所」

「ミバエの平均棍のように短い」と言われるぼくの足でも跨げるような、
こんな細い水路で撮りました。
背後に写る空は、4時間前の予報では、「雲ひとつない五月晴れ」のはずでしたが・・・。

ハナグモ(ダニつき)とコハナグモ(?)
「ハナグモ(ダニつき)とコハナグモ(?)」

この時期、ハナグモの姿が目立ちます。個体差が激しく、顔のような模様にも
さまざまな表情があっておもしろいですね。 右は、コハナグモかな?

コブラヘッドのシャクトリムシ
「コブラヘッドのシャクトリムシ」

ギシギシの葉についていた、コブラヘッドのシャクトリムシ。
その場で検索して調べてみましたが、正体不明です。
これは正体を確かめるべく、お持ち帰り。
2日後には、さなぎになりました。いずれ正体がわかるでしょう。

ヤマトシリアゲの交尾態
「ヤマトシリアゲの交尾態」

もう少し早く出会えていれば、興味深い求愛行動が見られたかもしれません。
このヤマトシリアゲのペアは、交尾態を解消する直前でした。
3カット撮影した時点で連結を解き、メスは未練もなくその場を飛び去りました。

最後まで陽が射すことはなく、ここで予定していた野外撮影は台なしになったとは言え、
この日も、場所を変えて移動した先で白バック撮影のためのモデル昆虫を採集し、
帰宅後は朝までスタジオ撮影を行いました。
 5月1日、東京都下の里山へ向かいました。
まずは、泥まみれのコアオハナムグリがお出迎え。

泥まみれのコアオハナムグリ
「泥まみれのコアオハナムグリ」

水で洗ってみたら、確かにその正体はコアオハナムグリ。
でも、まさかエステの一環としての泥パックじゃなかったよね? 
洗ってしまったのは、余計なお世話だったかな?

泥まみれの次は、フンまみれの虫。
クコの葉上の、トホシクビボソハムシの成虫と幼虫。
幼虫は自らのフンを全身にまとっており、防衛のためとはいえ、ずいぶん重たそうです。

トホシクビボソハムシの成虫と幼虫
「トホシクビボソハムシの成虫と幼虫」

「トホシ」とは「10の星」で、成虫の翅に10個の星(=黒い斑紋)があることからの
命名ですが、実際には額面どおり10個の斑紋を持つタイプは少数派で、
斑紋の数はさまざまです。この場所で見られる個体は、無紋(星が0個)のものが
ほとんどで、「ムモンクビボソハムシ」とでも命名した方がしっくりきます。
まあ、ハムシの和名には、おかしなものがたくさんありますので、
あまり深く考えないでスルーした方がよいでしょう。

羽化したばかりのヤマトゴキブリ
「羽化したばかりのヤマトゴキブリ」

レースのような白い衣装をまとった、美しい虫。
一瞬、誰だかわかりませんでしたが、よく見ればヤマトゴキブリのオス。
キミか~。見ちがえちゃったよ~、馬子にも衣装だねえ・・・と、つぶやきながら撮影。
黒くなったりせずに、ずっとこのままの色でいれば、今より愛されるのでは?
仮装パーティーの日でもないのに、みんなが意外な姿でお出迎え。

ヒメウマノオバチ
「ヒメウマノオバチ」

ウマノオバチは何度か見たことがありますが、このヒメウマノオバチは初めて見ました。
同じ場所に3匹が飛んできて、クリの樹皮に開いた穴をさかんに気にしています。
ウマノオバチよりもずっと短い産卵管ですが、
木の内部に潜む獲物まで、これでもちゃんと届くのでしょうか。
ちなみに、ウマノオバチの方は、こんなに長い産卵管を持っています。

こちらがウマノオバチ
「こちらがウマノオバチ」

1997年から19年間も通っている里山。
ここには、おそらくいないのだろうと思っていたイボタガの幼虫に初めて遭遇。
7匹の3~4齢幼虫が、ヒイラギモクセイの葉を食べていました。

イボタガの幼虫
「イボタガの幼虫」

当面の取材対象ではないので、イボタガはスルー。
風薫る5月の里山はさわやかですが、
今回の目的は、白バック撮影の特定のモデル昆虫を探し出し、採集すること。
帰宅後のスタジオ撮影は、栄養ドリンク4本を飲みながら、朝までかかりました。