台風21号で大荒れだった日曜日、日本昆虫協会による「夏休み昆虫研究大賞」
の審査にゲスト審査員として参加してきました。小中学生による応募で、
昆虫を素材にした(1)研究論文、(2)標本、(3)写真、(4)美術、(5)文学 
という5つのジャンルで賞を競うものです。全ジャンルの中から、大賞が1点だけ
選ばれますが、今年は大賞にふさわしい作品が5点もある水準の高さで、
なかなか大賞が決まりませんでした。ぼくは、お一人の方(小学生)へ
審査員特別賞を出しましたので、来月の表彰式でお会いできるのが楽しみです。

 さて、樹木図鑑作家の林 将之さんから、
すばらしい新刊を送っていただきましたので、ご紹介したいと思います。
『秋の樹木図鑑 (紅葉・実・どんぐりで見分ける400種)』(廣済堂出版)。

『秋の樹木図鑑 (紅葉・実・どんぐりで見分ける400種)』
『秋の樹木図鑑 (紅葉・実・どんぐりで見分ける400種)』

相変わらずの美しいスキャン画像に加えて、名前のわからない樹種を調べる際に、
目的のページへ誘導するさまざまな工夫がなされており、「葉形インデックス」や
「紅葉・黄葉一覧表」、「果実・どんぐり・松かさ一覧表」のいずれかを使うことで、
ものによっては数秒でお目当ての樹種にたどりつけてしまいます。
「紅葉・黄葉一覧表」などは、眺めているだけでもしあわせな気持ちになれる、
非常に美しいページです。

ぼくはプラタナス類にはかなり詳しいので、プラタナスのページがあれば、
そこを見ることで、植物図鑑の評価がしやすいのですが、
・身近に見られる「プラタナス類」には3種類あること。
 その出自や原産地についての解説。
・その3種類の見分け方を、葉と樹皮、果実(集合果)のつき方の
 それぞれのパーツで解説していること。
・プラタナスの和訳=スズカケノキではなく、
 この呼称がグループの総称であるとハッキリ書かれていること。
・「プラタナス類」は街路樹として、かつては第3位の人気を誇っていたが、
 最近は第10位まで順位を下げていること。
などなど、文句のつけようのない情報量を誇っています(ぼくも、順位を
下げているのは知っていましたが、10位まで落ちているとは知らなかった)。

また、本書ならではの情報として、すべての学名にカタカナでルビが振ってある
というきめ細かな配慮がなされている点が挙げられます。ラテン語の学名は、
ローマ字読みに近いものではあるのですが、大学で分類学に触れる機会のなかった
ぼくのような文系学部出身者は、(本当にこの読みで合ってるか?)と
おそるおそる口にしているという現状がありますが、
こういう本が虫の図鑑でも存在すれば、ラテン語のこの綴りはこう読むのだ、
という反復訓練のまたとない教科書になりますね。
この学名のルビだけでも、植物をこれから学びたい人にとっては、
本書を入手する価値があると思います。

林 将之さんの才能は非常にマルチなもので、
この本には「樹木図鑑作家」と書かれているのでその通りご紹介しましたが、
学者であり、写真家であり、また誌面デザイナーでもあります。
誌面デザインまで自分でやる人は非常に珍しいと思いますが、
「一応できます」というレベルではなく、専業の誌面デザイナーと比較しても
相当に上手いほうで、この点は心から敬服しています。

2007年に、林さんと共著で、
『昆虫の食草・食樹ハンドブック』(文一総合出版)を出版しましたが、
この本のデザインも、表紙から中身まで、すべて林さんの手によるものです。
ちょうど10年前、本書の印刷に立ち会ったあと、当時印刷会社のあった
戸田公園駅の駅前で、二人で打ち上げをしたのをなつかしく思い出します。

…というわけで、『昆虫の食草・食樹ハンドブック』のほうも、
引きつづきどうぞよろしくお願いいたします(笑)。

『昆虫の食草・食樹ハンドブック』(文一総合出版)森上信夫・林 将之著
『昆虫の食草・食樹ハンドブック』(文一総合出版)森上信夫・林 将之著
 暖かくなり、新しい昆虫の本も続々と発売されていますが、
昆虫写真家の鈴木知之さんから、新刊「新カミキリムシハンドブック」(文一総合出版)
を送っていただきましたので、ご紹介いたします。

「新カミキリムシハンドブック」(文一総合出版)
「新カミキリムシハンドブック」(文一総合出版)

鈴木さんには、2009年発売の「日本のカミキリムシハンドブック」(文一総合出版)
という著書がありますが、今回の本は、その増補改訂版という位置づけで、
新たに40種が追加されたというだけでなく、それぞれの生態写真がワイドになり、
また、アイコンに頼らずに言葉で表示されるようになったことで、
各情報が格段に見やすくなったと思います。

増補改訂版として出版される本の中には、改訂前の本を持っていれば
新たに買う必要がない、というものもありますが、
今回の本は、躊躇なく「買い」であるとお薦めできます。
まず、何と言っても生態写真が見ちがえるほど大きくなり、
絵合わせでも同定できるようになったこと。
たとえば、ヒメヒゲナガカミキリで新旧のページを比較すると、
誌面上の体長ベースでおよそ2.5倍(!)という大きさ。
並べてみると、新版の見やすさは圧倒的です。

カミキリムシというのは、スペース食いの長い触角のせいで、
触角を切らないようにしながら、全身像を見せようとすると、
誌面上で胴体が相対的に小さくなってしまうというジレンマがあります。
それは、ある程度は覚悟しなければならないことですが、
増ページとともに誌面に余裕ができたことで、物理的にもスペースが生まれ、
また、鈴木さんも旧版と写真を差し替えることで、より体を大きく見せられるような
絵柄の写真を選んで、ページをリニューアルされたことがわかります。
写真の差し替えというのは、増補改訂版としては最も手厚い措置で、
新しい本を作るのと同じ手間がかかりますから、
著者のこの本にかける思いが伝わってきます。

また、旧版では、キイロトラカミキリなど、
収録されているべき普通種の一部が掲載されていないという不満もありましたが、
今回はそのあたりが、くまなく拾われていると感じます。
「プラス40種」を厳選されたことが、非常によくわかるセレクションだと思います。

網羅性、それぞれの種の情報量、写真の見やすさ、いずれも突っ込みどころがなく、
野外で使える大きさのカミキリムシ図鑑としては、
これぞ決定版、と言えるものになったのではないでしょうか。
彼の「朽ち木にあつまる虫ハンドブック」、「虫の卵ハンドブック」とともに、
長く活用できて、楽しみながら知識のつく本に仕上がっていると思いました。

話は変わり、ぼく自身の本ですが、
1月から取り組んできた新刊の制作も、今週のうちにぼくの手を離れ、
あとの工程は印刷所に託されます。
発売は5月末を予定していますので、来月になりましたら、
書名や表紙画像などをご紹介できると思います。
「新カミキリムシハンドブック」(税別1600円)を
購入されたあとでも大丈夫(?)なように、税別1200円で発売いたしますので、
鈴木さんの本ともども、どうぞよろしくお願いいたします。
 飯田 猛さんのご本を紹介します。
『森のたからもの探検帳』。 世界文化社からこの秋出たばかりで、好評発売中です。

『森のたからもの探検帳』
『森のたからもの探検帳』
http://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/16426.html

飯田さんは、編集者として数々のヒット作を世に出してきた方で、
ぼくの『散歩で見つける 虫の呼び名事典』(2013年 世界文化社)も飯田さんの編集です。
発売から3年経ったこの夏も、ごく短期間とはいえアマゾン「昆虫学」ランキングの
1位になっていましたから、ヒット作と言ってよいでしょう(笑)。

『森のたからもの探検帳』は、生きものが森に残した痕跡を、
すてきな文章とビジュアル(写真&イラスト)で紹介した本です。
飯田さんがこういうものに興味をお持ちだということは知っていましたが、
こんなにも深い造詣と、いつくしむようなまなざしで
それらを見つめているとは知りませんでした。
リスが松ぼっくりを食べたあとの、エビフライそっくりの落としもの。
アカネズミによるクルミの食痕や、さまざまな木の実のコレクション。
そして美しい落ち葉や、鳥の羽の落としものなど。
読み終えたあと、すぐにも森へ探しに出かけたくなるほど魅力的に描かれています。

ぼくは痕跡よりも、生きものそのものを追いかける毎日を送っていますが、
それは時に、その生きものの生活に大なり小なりのダメージを与えることにも繋がります。
この本の中には、鳥の巣も出てきますが、そこには
「子育てが終わったら多くの鳥の巣は無用となり朽ちていきます。
 ですから鳥の巣の採集をためらう倫理的な問題はありません」 と書かれており、
このように一歩引いたスタンスで、「生きものの生きざまに、直接干渉はしない」
という姿勢こそ、生きものの痕跡からこれだけの魅力を引き出せる視点の
ベースになっているのかもしれないなあ・・・と思いました。

この本のユニークな点のひとつですが、森の落としものをどのようにプレゼントすれば
より人に喜んでもらえるか、といったところにまで気が配られており、
その方法を紹介した4ページは必見です。
ギフトボックスの展開図まで掲載されていて、このページを拡大コピーして作れば、
森の落としものが、すぐにも意外性のあるプレゼントに変身します。
メッセージも添えた完成品の写真が出ていますが、これは欲しい!と思いました。

掲載されている写真はどれも美しく、おそらくご自分で撮られているのではないだろうと
思って、大変に失礼なメールを送ったのですが、7割ぐらいはご自分の作品だそうで、
これには驚きました。ぼくの写真に厳しいダメ出しをされても、
今後は無駄な抵抗はせず、おとなしく撮り直さないといけません(笑)。

この本があまりにも売れすぎて、飯田さんの作家稼業が忙しくなってしまうと、
ぼくの本の編集をしてもらえなくなりそうで心配ですが、
そうならない程度のヒット? を祈りたいと思います。
 前回の更新からずいぶん間が空いてしまいました。すみません。
さて、昆虫写真家の尾園 暁さんから新刊を送っていただきましたのでご紹介します。
『しぜんのひみつ写真館(7)ぜんぶわかる! トンボ』(ポプラ社)。
ものすごい力作で、これを全部ぼくが撮ろうと思ったら、どんなに大変だろうかと思い、
つい制作側の視点で見てしまって、胃がキリキリと痛くなりました(笑)。

『しぜんのひみつ写真館(7)ぜんぶわかる! トンボ』
『しぜんのひみつ写真館(7)ぜんぶわかる! トンボ』

子供向けのトンボの本というのは、
1種類のトンボで代表してその一生を紹介しようとする場合、
多くの場合はギンヤンマ、時にシオカラトンボ、まれにアキアカネで、
この3種の一生が撮れていれば、ふつうは十分です。
それを、非常にむずかしいオニヤンマでやったというところが、まずすばらしい。

卵から羽化に至るまでの各ステージ、飛翔、捕食、闘争、天敵、交尾、産卵など、
本にするのに欠かせない要素のどこかに、ボトルネックのような難易度の高い部分があると、
「一生」の写真が全部そろわないことになります。
オニヤンマの場合は、卵~孵化がその部分で、植物組織内に卵を産むギンヤンマや、
メスの尻を水につけるだけで、簡単に卵を放出してくれるシオカラトンボとちがい、
飛びながら浅い流れの水底に尻を突き刺して卵を産みこむオニヤンマは、
産卵を終えたメスが飛び去ったあと、卵があると思われるあたりの水底の泥の中から
卵を見つけ出さなければなりません。
砂浜で失くしたコンタクトレンズを探し出すようなもので、
ふつうは、チャレンジもせずに最初から諦めてしまうようなことでしょう。
日本最大のトンボ・オニヤンマなら、その知名度からも、ビジュアル面からも、
写真絵本の役者としては十分な資質を持っているにもかかわらず、
これまでキャスティングされてこなかったのには、そういう理由があります。

その産卵シーンの写真ですが、カメラのレンズがオニヤンマより低い位置にあるため、
産卵中のオニヤンマを水面すれすれから見上げるというスリリングな構図で、
あまりの臨場感にぞくぞくします。このアングルはすばらしい!
尾園さんは、トンボを撮らせたら日本一の昆虫写真家ですから、
このレベルの人が「オニヤンマで行くぞ!」、と本腰で臨むと、
ものすごい本ができるものだなあ・・・と圧倒されてしまいました。

本の後半は、「ぜんぶわかる」の名に恥じない、「トンボ丸ごと図鑑」となっており、
実際のページ数以上に、内容に厚みを感じさせる本となっています。
夏休みの自由研究のネタ本としても最適で、
今の時期、小学生にプレゼントするには、ベストチョイスの1冊ではないでしょうか。

 今日は、記事を2本アップしました。
写真教室のお知らせがありますので、画面をスクロールして、
この記事の直下も併せてご覧いただければ幸いです。
 大きなできごとが色々あり、前回の更新からずいぶん間が空いてしまいました。
すみません。

さて、昆虫写真家の中瀬 潤さんから新刊を2冊、送っていただきましたのでご紹介します。
岩崎書店 「うまれたよ!」 シリーズの、
『うまれたよ!ホタル』と、『うまれたよ!ボウフラ』です。

うまれたよ!ホタル

うまれたよ!ボウフラ
『中瀬 潤さんの新刊 2冊』

中瀬さんは、これまでにも同シリーズから、
『うまれたよ!コオロギ』や、『うまれたよ!テントウムシ』などを出版されていますが、
今回の2冊は、これまでにも増して、いっそうすばらしい内容に仕上がっています。

中瀬 潤さんといえば、お名前にも「さんずい」の漢字が多く、
「水に棲む虫を撮らせたら日本一」の昆虫写真家ですが、
ホタルの幼虫も、カの幼虫であるボウフラも、幼虫時代を水の中ですごす水生昆虫です。
それだけに、力のこもった作品には見ごたえがあり、
児童書というよりは写真集を見ているようです。

まず、『うまれたよ!ホタル』。
ゲンジボタルは、卵・幼虫・さなぎ・成虫と、すべてのステージで光りますが、
その微弱な光を掬い上げるためのカメラの設定が、闇の深さを損なうものであってはならず、
こんなふうに絶妙なバランスで撮影するのは大変むずかしいものです。
また、光の点や線だけでは、天地左右もわからない意味不明の写真になってしまいますから、
状況を説明するための、最低限の照明はどうしても使わなければなりません。
人工照明が闇を暴きすぎると、単なる説明写真になり、詩情は一気に失われます。
その点の描写が、この本は大変すばらしく、川岸の切り株で産卵する2匹のメスの写真や、
上陸した幼虫が、かすかに光りながら崖をのぼっていくシーンなどは、
闇の中で密やかに行われる営為として見事に描き出されており、
見ていて厳粛な気持ちにさせられます。
児童書に求められる理科的な要素は巻末にひとまとめにし、
本編の方は大きなストーリーとして描かれたことで、感動的な名作となっています。

次に、『うまれたよ!ボウフラ』。
このテーマで1冊の本を作られたということに、まず驚きました。
ホタルは万人に愛される昆虫ですが、ボウフラ(=カ)が好きな人なんて、
まずいないでしょう。
その上、あのデング熱騒動以来、目の敵にされているヒトスジシマカが
キャスティングされており、
ぼくはてっきり、中瀬さんは人気昆虫のホタルとバーターで、このテーマを
無理やり押しつけられたんではないか? と、本を開くまでは邪推していました(笑)。
ところが、「うまれたよ!」シリーズの1冊にふさわしく、読者が途中からボウフラに
好意的に感情移入してしまいそうな温かいまなざしで撮影されており、
こんなにほのぼのとしたボウフラの写真を、ぼくは見たことがありません。
中瀬さん、イヤじゃなかったんだな・・・ということは、本を開けばすぐにわかります。
さなぎになる直前の、

「うまれて 9日め。
ボウフラは、
むにゅむにゅ ぶしゅっと
へんな うんちを
たくさん だした」

「ぶるん。
その うんちを
いきおいよく ふりとばすと(後略)」

という文章が添えられている写真などは、ボウフラの愛らしさに悶絶(!)してしまいます。
このページは、ぜひとも一度、ご覧いただきたいと思います。

ヒトスジシマカの一生は、『小学館の図鑑NEO昆虫』では、ぼくが担当したので、
全ステージをひととおり撮ったことはあるのですが、
ぼくの写真には、つくづく 「愛が足りない」 と思いました。

今年は取材の折々に、対象がどんな昆虫であれ、
きょうは愛が足りていたか? ということを自問したいと思います。