飯田 猛さんのご本を紹介します。
『森のたからもの探検帳』。 世界文化社からこの秋出たばかりで、好評発売中です。

『森のたからもの探検帳』
『森のたからもの探検帳』
http://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/16426.html

飯田さんは、編集者として数々のヒット作を世に出してきた方で、
ぼくの『散歩で見つける 虫の呼び名事典』(2013年 世界文化社)も飯田さんの編集です。
発売から3年経ったこの夏も、ごく短期間とはいえアマゾン「昆虫学」ランキングの
1位になっていましたから、ヒット作と言ってよいでしょう(笑)。

『森のたからもの探検帳』は、生きものが森に残した痕跡を、
すてきな文章とビジュアル(写真&イラスト)で紹介した本です。
飯田さんがこういうものに興味をお持ちだということは知っていましたが、
こんなにも深い造詣と、いつくしむようなまなざしで
それらを見つめているとは知りませんでした。
リスが松ぼっくりを食べたあとの、エビフライそっくりの落としもの。
アカネズミによるクルミの食痕や、さまざまな木の実のコレクション。
そして美しい落ち葉や、鳥の羽の落としものなど。
読み終えたあと、すぐにも森へ探しに出かけたくなるほど魅力的に描かれています。

ぼくは痕跡よりも、生きものそのものを追いかける毎日を送っていますが、
それは時に、その生きものの生活に大なり小なりのダメージを与えることにも繋がります。
この本の中には、鳥の巣も出てきますが、そこには
「子育てが終わったら多くの鳥の巣は無用となり朽ちていきます。
 ですから鳥の巣の採集をためらう倫理的な問題はありません」 と書かれており、
このように一歩引いたスタンスで、「生きものの生きざまに、直接干渉はしない」
という姿勢こそ、生きものの痕跡からこれだけの魅力を引き出せる視点の
ベースになっているのかもしれないなあ・・・と思いました。

この本のユニークな点のひとつですが、森の落としものをどのようにプレゼントすれば
より人に喜んでもらえるか、といったところにまで気が配られており、
その方法を紹介した4ページは必見です。
ギフトボックスの展開図まで掲載されていて、このページを拡大コピーして作れば、
森の落としものが、すぐにも意外性のあるプレゼントに変身します。
メッセージも添えた完成品の写真が出ていますが、これは欲しい!と思いました。

掲載されている写真はどれも美しく、おそらくご自分で撮られているのではないだろうと
思って、大変に失礼なメールを送ったのですが、7割ぐらいはご自分の作品だそうで、
これには驚きました。ぼくの写真に厳しいダメ出しをされても、
今後は無駄な抵抗はせず、おとなしく撮り直さないといけません(笑)。

この本があまりにも売れすぎて、飯田さんの作家稼業が忙しくなってしまうと、
ぼくの本の編集をしてもらえなくなりそうで心配ですが、
そうならない程度のヒット? を祈りたいと思います。
 前回の更新からずいぶん間が空いてしまいました。すみません。
さて、昆虫写真家の尾園 暁さんから新刊を送っていただきましたのでご紹介します。
『しぜんのひみつ写真館(7)ぜんぶわかる! トンボ』(ポプラ社)。
ものすごい力作で、これを全部ぼくが撮ろうと思ったら、どんなに大変だろうかと思い、
つい制作側の視点で見てしまって、胃がキリキリと痛くなりました(笑)。

『しぜんのひみつ写真館(7)ぜんぶわかる! トンボ』
『しぜんのひみつ写真館(7)ぜんぶわかる! トンボ』

子供向けのトンボの本というのは、
1種類のトンボで代表してその一生を紹介しようとする場合、
多くの場合はギンヤンマ、時にシオカラトンボ、まれにアキアカネで、
この3種の一生が撮れていれば、ふつうは十分です。
それを、非常にむずかしいオニヤンマでやったというところが、まずすばらしい。

卵から羽化に至るまでの各ステージ、飛翔、捕食、闘争、天敵、交尾、産卵など、
本にするのに欠かせない要素のどこかに、ボトルネックのような難易度の高い部分があると、
「一生」の写真が全部そろわないことになります。
オニヤンマの場合は、卵~孵化がその部分で、植物組織内に卵を産むギンヤンマや、
メスの尻を水につけるだけで、簡単に卵を放出してくれるシオカラトンボとちがい、
飛びながら浅い流れの水底に尻を突き刺して卵を産みこむオニヤンマは、
産卵を終えたメスが飛び去ったあと、卵があると思われるあたりの水底の泥の中から
卵を見つけ出さなければなりません。
砂浜で失くしたコンタクトレンズを探し出すようなもので、
ふつうは、チャレンジもせずに最初から諦めてしまうようなことでしょう。
日本最大のトンボ・オニヤンマなら、その知名度からも、ビジュアル面からも、
写真絵本の役者としては十分な資質を持っているにもかかわらず、
これまでキャスティングされてこなかったのには、そういう理由があります。

その産卵シーンの写真ですが、カメラのレンズがオニヤンマより低い位置にあるため、
産卵中のオニヤンマを水面すれすれから見上げるというスリリングな構図で、
あまりの臨場感にぞくぞくします。このアングルはすばらしい!
尾園さんは、トンボを撮らせたら日本一の昆虫写真家ですから、
このレベルの人が「オニヤンマで行くぞ!」、と本腰で臨むと、
ものすごい本ができるものだなあ・・・と圧倒されてしまいました。

本の後半は、「ぜんぶわかる」の名に恥じない、「トンボ丸ごと図鑑」となっており、
実際のページ数以上に、内容に厚みを感じさせる本となっています。
夏休みの自由研究のネタ本としても最適で、
今の時期、小学生にプレゼントするには、ベストチョイスの1冊ではないでしょうか。

 今日は、記事を2本アップしました。
写真教室のお知らせがありますので、画面をスクロールして、
この記事の直下も併せてご覧いただければ幸いです。
 大きなできごとが色々あり、前回の更新からずいぶん間が空いてしまいました。
すみません。

さて、昆虫写真家の中瀬 潤さんから新刊を2冊、送っていただきましたのでご紹介します。
岩崎書店 「うまれたよ!」 シリーズの、
『うまれたよ!ホタル』と、『うまれたよ!ボウフラ』です。

うまれたよ!ホタル

うまれたよ!ボウフラ
『中瀬 潤さんの新刊 2冊』

中瀬さんは、これまでにも同シリーズから、
『うまれたよ!コオロギ』や、『うまれたよ!テントウムシ』などを出版されていますが、
今回の2冊は、これまでにも増して、いっそうすばらしい内容に仕上がっています。

中瀬 潤さんといえば、お名前にも「さんずい」の漢字が多く、
「水に棲む虫を撮らせたら日本一」の昆虫写真家ですが、
ホタルの幼虫も、カの幼虫であるボウフラも、幼虫時代を水の中ですごす水生昆虫です。
それだけに、力のこもった作品には見ごたえがあり、
児童書というよりは写真集を見ているようです。

まず、『うまれたよ!ホタル』。
ゲンジボタルは、卵・幼虫・さなぎ・成虫と、すべてのステージで光りますが、
その微弱な光を掬い上げるためのカメラの設定が、闇の深さを損なうものであってはならず、
こんなふうに絶妙なバランスで撮影するのは大変むずかしいものです。
また、光の点や線だけでは、天地左右もわからない意味不明の写真になってしまいますから、
状況を説明するための、最低限の照明はどうしても使わなければなりません。
人工照明が闇を暴きすぎると、単なる説明写真になり、詩情は一気に失われます。
その点の描写が、この本は大変すばらしく、川岸の切り株で産卵する2匹のメスの写真や、
上陸した幼虫が、かすかに光りながら崖をのぼっていくシーンなどは、
闇の中で密やかに行われる営為として見事に描き出されており、
見ていて厳粛な気持ちにさせられます。
児童書に求められる理科的な要素は巻末にひとまとめにし、
本編の方は大きなストーリーとして描かれたことで、感動的な名作となっています。

次に、『うまれたよ!ボウフラ』。
このテーマで1冊の本を作られたということに、まず驚きました。
ホタルは万人に愛される昆虫ですが、ボウフラ(=カ)が好きな人なんて、
まずいないでしょう。
その上、あのデング熱騒動以来、目の敵にされているヒトスジシマカが
キャスティングされており、
ぼくはてっきり、中瀬さんは人気昆虫のホタルとバーターで、このテーマを
無理やり押しつけられたんではないか? と、本を開くまでは邪推していました(笑)。
ところが、「うまれたよ!」シリーズの1冊にふさわしく、読者が途中からボウフラに
好意的に感情移入してしまいそうな温かいまなざしで撮影されており、
こんなにほのぼのとしたボウフラの写真を、ぼくは見たことがありません。
中瀬さん、イヤじゃなかったんだな・・・ということは、本を開けばすぐにわかります。
さなぎになる直前の、

「うまれて 9日め。
ボウフラは、
むにゅむにゅ ぶしゅっと
へんな うんちを
たくさん だした」

「ぶるん。
その うんちを
いきおいよく ふりとばすと(後略)」

という文章が添えられている写真などは、ボウフラの愛らしさに悶絶(!)してしまいます。
このページは、ぜひとも一度、ご覧いただきたいと思います。

ヒトスジシマカの一生は、『小学館の図鑑NEO昆虫』では、ぼくが担当したので、
全ステージをひととおり撮ったことはあるのですが、
ぼくの写真には、つくづく 「愛が足りない」 と思いました。

今年は取材の折々に、対象がどんな昆虫であれ、
きょうは愛が足りていたか? ということを自問したいと思います。
 昆虫写真家・新開 孝さんの新刊 『虫のしわざ観察ガイド』 が発売になりました。
自然の中で見つかる昆虫の巣や、虫こぶ、食痕(葉に残された食べあと)などを、
どの虫の「しわざ」によるものか、豊富な写真とともに解説したフィールド図鑑です。

虫のしわざ表紙
『虫のしわざ観察ガイド-野山で見つかる食痕・産卵痕・巣』新開 孝著(文一総合出版)

「協力者」のところにぼくの名前もありますが、
新開さんがこの本を制作されていることは、前から知っていたので、
ずっと発売を待ち遠しく思っていました。

待ちこがれていた分、ぼくの中では、内容に対する期待値が
どんどん上昇していたのですが、そのイメージさえも上回るすばらしい完成度で、
届いた本を玄関口で開封して、靴も脱がずに立ったまま全ページを見てしまいました。

かねてより知りたいと思っていた、ササの葉のミシン目のような痕が、
どんな虫の「しわざ」であるか。 あるいは、クリの木の下で見つかる
「飛び跳ねる円盤」の正体・キンケノミゾウムシのライフサイクルはどんなものか。
また、幼虫が作る「虫こぶ」をよく見かける割には、成虫の姿を見たことがなかった
ヨモギエボシタマバエの白バック写真まであり、ものすごい密度です。

生きものの痕跡図鑑というのは、昆虫以外では、これまでにも何度か出版されてきました。
しかし、昆虫の食痕などには正体不明のものも多く、
昔から、「ときどき話題に出ては、消えていく出版企画」という感じだったので、
「とうとう出たかあ・・・、しかも、このレベルで!」と、感動を禁じえません。

ぼくは、すぐれた図鑑というものには、
優秀な検索機能を備えた実用書としての側面だけではなく、
掲載されているものたちへの「あこがれを育む機能」がなければならないと、
常々そう思っています。
そういう観点からも、この本の構成は見事と言うほかなく、まだ見たことのない
虫の「しわざ」に対して、「これをぜひ見てみたい」、「いつか絶対に探し出してみよう!」
そういう思いを喚起させてくれるページが続きます。

この見せ方は、編集の阿部さんや、デザイナーの西山さんの手腕によるところも
大きいと感じます。 「編集・阿部浩志、デザイン・西山克之」といえば、
ぼくの 『虫とツーショット』 とまったく一緒のチーム編成なのですが、
ここに新開さんが加わり、力のある人たちがコラボすると、
ここまで大変な本ができるんだなあ・・・と、打ちのめされてしまいました。

定価は、税別1800円。
この内容で、144ページもあって、これはすごいサービス価格だと感じます。
今回は「協力者」ということで、ぼくはラッキーにもいただいてしまったのですが、
そうでなければ、倍の値段でも迷わず買っていたと思います。

今日は2月4日。 ちょうど立春を迎えたとはいえ、
昆虫そのものの姿はまだほとんど見かけない季節ですが、
木々が葉を落とし、空気が澄みわたり、地面が草に覆われていない今の時期は
見通しがよく、虫たちの「痕跡」を探すには、絶好の条件が整っています。
この本をお供に、ぜひ冬の里山を歩いてみてください。
きっと新しい視点の先に、思いがけない発見が待っているはずです。
 すばらしい虫の本を1冊、ご紹介したいと思います。
『ハムシハンドブック』 尾園 暁著 (文一総合出版)。
今年の夏に出版された本ですから、当ブログの読者の方なら、
すでにご存知、あるいはとっくに持っている、という方も多いかもしれませんね。

著者の尾園さん から献本いただいた時、玄関先で開封し、(これはスゴイ!)と、
靴も脱がずにそのまま最後のページまで見てしまったことを思い出します。
12月もすでに後半。 もう、「昆虫本 オブ・ザ・イヤー2014」はこの本で決まり、
と言ってよいでしょう。

ハムシハンドブックハムシハンドブック
(2014/08/11)
尾園 暁

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『ハムシハンドブック』 尾園 暁著 (文一総合出版)

同社のハンドブックシリーズからは、ぼくも 『樹液に集まる昆虫ハンドブック』 など、
これまでに2冊の本を出していますので、昆虫をテーマとしたハンドブックが出版されると、
つい「隅々まで点検する」といった感じの見かたをしてしまい、
制作側の目線で、辛目の採点をしてしまうことが多いのですが、
この本については、見終って、恐れ入りました・・・と「無条件降伏」してしまいました。

自分の視力が良くなったのではないか? と錯覚するようなシャープな写真が並んでおり、
これらは「被写界深度合成」と言って、ピントの位置を少しずつずらしながら
たくさんの枚数を撮り、ピントの合った部分だけを後で合成するという、
非常に手のかかる技法で撮られています。
もう少し大きな虫ならともかく、多くが1センチにも満たないハムシの撮影でこれをやる
というのは、もう、気の遠くなるような作業です。それを、200種も・・・。
出版社のほうから依頼があった企画でも、ぼくなら「二つ返事で辞退」します(笑)。
それを、自分から売り込んだとお聞きして、感心するよりも呆れてしまいました。

ハムシというのは、同じような大きさ、同じような色の種が多く、
これまでは手頃な図鑑もなかったことから、「○○○48」のメンバーがみな同じに見える
(オッサンだけかもしれません・・・)ような状態からいつまでも脱却できず、
種名が判明しないためにせっかく撮った写真が発表できない、ということも多々ありました。
こういう本が出版されると、過去のお蔵入り写真の中から改めて「出荷」できる
ハムシ写真が増えそうで、そういう点からもたいへん助かります。

著者の尾園さんは若手の昆虫写真家で、ぼくはかつて、尾園さんから一度だけ
ある昆虫の標本写真撮影の照明技法について質問を受けたことがあるのですが、
あっという間に彼の方がうまくなり、
今では、「昔は、尾園に質問されたこともあるんだぜ!」と言って自慢(?)
しなければならないような、情けない状態になってしまいました(笑)。
でもまあ、こんな企画を自分から売り込むような人は普通ではなく、
普通でない人には到底勝ち目はない、と悟ったほうがよさそうです。

本書を見ていて思ったのは、これは著者には全く責任のないことですが、
ハムシの和名というのは、どうして2種類も3種類もあるのだろう? ということでした。
たとえば、「アカバナカミナリハムシ」のところを見ると、別名として、
「アカバナトビハムシ」や「ホソカミナリトビハムシ」などの「別名」が併記されています。
ただでさえ名前が覚えられない無名の昆虫に、和名が3つも与えられているわけですね。
あの「オオクワガタ」でさえ、「オオクワガタ」以外の呼び名はないというのに。

世間の人々の関心のうすいマイナーなグループで、研究者たちの「基幹事業」であるはずの
名前の統一さえできず、それぞれの立場からこんなにも別名を主張し合っているようでは、
みんなウンザリして、「ハムシ界」に寄りつかなくなるのでは? と心配してしまいます。
いくつもの政党が乱立して政策の微差をことさらに言い立て、対立しているような構図にしか
見えないのですが、ハムシ屋さん同士、もう少し仲良くやっていただけないものでしょうか。
「ハムシ本人」には、なんの主義も主張もないと思います。

本書の表紙にある「葉上の宝石」は、とても素敵なキャッチコピーだと思います。
ハムシだけは、「体長」のかわりに、「カラット」表示してもいいかも?