2017.02.08  光芒
 ブログの更新が滞っており、とうとうお叱りのご連絡をいただきました。すみません。
現在、5月発売予定の本の準備に忙殺されており、このような状況がしばらく続きます。
新撮が可能なものは新撮したい、とジタバタしてきましたが、ようやく一段落し、
これからしばらくは、デスクワーク一辺倒の毎日が始まります。

さて、前回のブログ記事で、
「温暖な気候の常緑広葉樹林で越冬するイメージを出すには、背景のグリーンに加え、
太陽の光芒をどうしても画面に入れたかったのですが~」 と書いたところ、
この6本の光芒はフィルターを使って出すのですか? というご質問をいただきました。
個別には、すでにお答え済みですが、ブログネタもなくてよい機会なので、
ここにも記しておくことにしたいと思います。

6本の光芒が出ている写真というのはこれです。

葉裏で越冬するオオキンカメムシ
「6本の光芒」

太陽から伸びる放射状の光が「光芒」ですが、
6本伸びていますね(右上の2本は、明るく飛んでしまって見えませんが)。
「スノークロス」と呼ばれるソリッドフィルターを使うと、
確かに光芒を6本出すことができますが、この写真で使用したのは対角線魚眼レンズで、
物理的にソリッドフィルターを取りつけることができません。

フィルターを使わなくても、レンズの絞り羽根を使って光芒を出すという方法があり、
絞れば絞るほど、光の脚は長く、鋭く伸びていきますが、
光芒の本数は、絞り羽根の枚数で決まってしまいます。
6枚羽根のレンズなら6本、8枚羽根のレンズなら8本の光芒が出るわけですが、
7枚羽根のレンズを使うと、7本ではなく14本の光芒が出ます。
偶数の絞り羽根を持つレンズでは、羽根の枚数と同じ本数、
奇数の絞り羽根を持つレンズでは、羽根の枚数の2倍の本数が出ると決まっており、
特別なフィルターでも使わないかぎり、奇数の光芒が出ている写真というのは、
おそらくないはずです。

6枚の絞り羽根を持つ対角線魚眼レンズ
「6枚の絞り羽根を持つ対角線魚眼レンズ」

こちらが、オオキンカメムシの写真に使った対角線魚眼レンズ内部の絞りです。
望遠系のマクロレンズでは、背景のボケ味も大切なので、
絞り羽根の枚数が多く、可能ならば「円形絞り」が採用されたものを選びますが、
画角の広い魚眼や超広角系のレンズでは、もともと背景は大きくボケないし、
画面内に太陽を写し込むケースの多いレンズとして、
ぼくは光芒の出方のほうがずっと気になります。
光芒の本数は、多いほうが格好がよい、という人ももちろんいるでしょうが、
ぼくは「太陽の光芒は、6本出るのが最も美しい」と思っていますので、
購入を考えている魚眼・超広角系レンズが6枚羽根を採用していれば、
その点については願ったり、ということになりますね。

春の気配が感じられる頃には、
ブログの更新頻度も上がっていくと思いますので、しばしご容赦を。
2016.03.13  高倍率接写
  『虫とツーショット』がほしいという人がいるので、割引価格で1冊売ってくれない?
というメールをいただいたので、郵便で送りました。
親しい人なので、あり合わせの封筒で送ったのですが、封筒のちょうど窓のところに
ぼくの顔が来てしまい、何ともまがまがしい雰囲気の郵便物になってしまいました。
郵便屋さんは、中身が倫理的に大丈夫なものかどうか、悩んだのではないでしょうか・・・。
あやしい郵便物
「あやしい郵便物」

健診結果の送付封筒の使いまわしというところに、中高年の悲哀がにじみます。

使いまわしの封筒
「使いまわしの封筒」

さて、友人の研究者から、「倍率の高い接写がしたい」と相談を受けました。
彼はニコンのカメラを使っているのですが、
ニコンには、キヤノンから出ているような拡大専用のマクロレンズがありません。
いま、「キヤノン」と書きましたが、この表記は誤りではないですよ。
正しいカタカナ表記は、「キャノン」ではなく「キヤノン」です。

近年、昆虫を解剖して交尾器を取り出し、その形状の差異を比較検証することで、
それまで1種と思われていた虫の中に、
実はそっくりな別種が含まれていることがわかった・・・という発見が相次いでいます。
外見は寸分たがわなくても、交尾器の形状が異なれば、
まず別種と判断して差しつかえない、ということですね。
最終的には、DNAなどを解析することになりますが、
別種発見の「初動捜査」としては、生殖器の形状比較は、きわめて有効な手段です。

専門家は交尾器を「ゲニタリア」(略してゲニ)と呼び、
解剖によりゲニを取り出すことを、俗に「ゲニを抜く」などと言います。
ゲニを抜く作業には、熟練の外科医のような手際が求められますが、
その友人の研究者は神業的な技術を持ち、在野にいながらめざましい発見を次々に
成し遂げていることから、ぼくは彼を「ゲニの極み」と呼んで奉っています(笑)。
小さい昆虫の内臓のごく一部である、極小のゲニをいかにして撮るか。
「倍率の高い接写がしたい」というのは、彼のこうした研究に必要となるからですね。

ぼくは、撮影倍率を稼ぐためのさまざまなアクセサリーを持っているので、
それらを組み合わせて、テスト撮影を行ってみました。
昆虫の写真を撮る人には、役に立つ情報かもしれないので、
倍率比較をここにアップしておきますね。

ニコンの一眼レフで高倍率を出してみる
「ニコンの一眼レフ(D7000使用)で高倍率を出してみる」

タムロンの90mmは、誰もが認める高性能のマクロレンズです。
52.5mmの厚さの中間リングを履かせることで、長辺13mm相当の範囲が写せます。
ニッコール45mm(F2.8P)は、俗に「パンケーキレンズ」と呼ばれる超薄型レンズで、
生産中止になってから、おそらく10年ほど経つと思いますが、
中古市場でごく普通に入手可能だと思います。
厚みのある中間リングを履かせても、しっかりした像を結ぶ高倍率耐性のあるレンズで、
いくつかを組み合わせて112mmにした中間リングを履かせてみました。
この状態で、長辺9mmの範囲が写ることがわかります。

ところが、1cmに満たない昆虫のゲニは、
1ミリ2ミリ、あるいは、それ以下の大きさです。
まだもう少し、倍率を上げてみたいところです。

(オリンパスTG-3の「顕微鏡モード」は、けっこういけるはずだったな・・・)
ふと、そんなことを思い出し、こちらもテスト撮影してみました。
TG-3というのは、見た目はごく平凡なコンパクトカメラで、
一番の売りとしては、防水性・耐衝撃性ですが、高倍率接写や深度合成など、
いくつかの驚くべき機能を備えた革新的なカメラです。

ズームの望遠側で「顕微鏡モード」を使ってみると、
これだけでも相当な倍率であることがわかります。

オリンパスTG-3を使って高倍率を出す
「オリンパスTG-3を使って高倍率を出す」

長辺8mmの世界が写っていますから、これだけで、すでにオリンパスの勝ちです。
さらに「超解像ズーム」(デジタルズームの一種ですが、カメラ内部で画素補完を
行っており、画質の劣化が抑えられています)を併用すると、
長辺4mmの世界が写ります。
この倍率までいけば、ゲニの撮影にも有効に機能しますね。
デジタルズームは、どうしても画質が劣化しますが、
研究目的であれば、全く問題ないレベルにあると言えるでしょう。

長辺4mmの世界が写るとはどういうことであるか。印刷の網点を撮ってみました。
『虫とツーショット』で、ぼくの顔を拡大するのもどうかと思うので、
テスト素材は、『散歩で見つける 虫の呼び名事典』の表紙です。

『散歩で見つける 虫の呼び名事典』の表紙
『散歩で見つける 虫の呼び名事典』の表紙」

右の中ほどにいる、オオスズメバチの顔の部分を拡大してみました。

TG-3の顕微鏡モードによる印刷の網点撮影
「TG-3の顕微鏡モードによる印刷の網点撮影」

左が広角側、中が望遠側、そして右が望遠側で「超解像ズーム」にしたものです。
ここまでの倍率が出せるなら、ゲニのような特殊なものだけでなく、
昆虫の卵や、花粉なども撮影の守備範囲に収めることができますね。
TG-3はすでに過去の機種となり、現在は後継機種のTG-4に置き換わっていますが、
虫を撮る人ならば、1台持っていても絶対に損のないカメラだと思います。
次に出るであろうTG-5(?)にバリアングル・モニターが搭載されれば、
他を寄せつけない、最強の「昆虫&アウトドア・カメラ」になるに違いありません。
 デジタル一眼レフカメラ・ニコンD7000の4号機が修理から返ってきました。
同じ機種を4台持っているので、識別のために「4号機」などと呼んでいるのですが、
特に「お気に入りのカメラ」というわけではありません。
今どきのデジタル一眼レフカメラの取扱説明書は300ページ以上もあり、
機種を変えるごとに、そんなものをいちいち読まされるのは敵わないので、
D7000だけを使い続けることで、説明書を読む苦痛から解放されています。
要は、面倒だからずっと同じ機種でよい、ということですね。

そういう意味では、これから一生使わなければならない大事なカメラではあるので、
この4号機は購入後、1年ほど箱から出さずに、新品のまま保管してありました。
でも、1年間の保証期間が切れてしまう前に、一応は動作確認をしておこうと思い、
SDカードを入れて試写してみました。
ところが、この4号機が、どうもおかしなカメラで、いつものスタジオ、いつもの照明で
同じように撮影をしても、色が大幅に狂います。背面液晶モニターで画像を確認しながら、
ようやく「正しい」色に導き、画像をパソコンに取り込んでみて驚きました。
色が、信じられないほど大きく狂っているのです。何度かテスト撮影をしてみて、
これは背面液晶モニターの表示色がおかしい、という結論に至りました。
ところが、修理に出しても、ちっとも直ってこない。
「直した」と言うのですが、そのまま突き返されたとしか思えません。
色は明らかに狂っています。業を煮やして、3号機とともにサービスセンターに持ち込み、
「4号機を、これと同じ表示色にしてくれ」と言って再修理に出しました。
1号機から3号機までは、完全に色の統一が取れています。
サービスセンターの窓口担当者は、「おっしゃる通り、私どものサービスセンターの備品の
D7000も、お客様の3号機の色に近いですね。失礼いたしました」、と言って預かりました。

何日か経ち、ニコンから電話がありました。
予定日に修理が終らないので、少し時間をくれ、というのです。
こちらとしては、無傷の3号機も一緒に預けているわけで、こんなタイミングで
万一、1、2号機のいずれかに故障でも発生すると、仕事に支障が出ます。
遅れる理由の説明を求めました。
「背面液晶モニターの表示色は、ずっと同じではありません。時代によって変えています。
どちらかといえば、青味が強かった時代から、最近の機種では黄色味が強くなっており、
D7000も、後期のものでは黄色味が強くなっています。青味が強く出るような部品を
探して直さなければならないので、もう少々お時間をいただけると助かります。」
Sさんというその女性担当者は、こともなげに、そのように言いました。

突っ込みどころ満載のコメントだと思います。
(1)同一機種の表示色を、断りもなく発売期間の途中で変更していること。
   とにかく、ちょっとやそっとの差異ではないのです。
   これでは、2台(以上)を併用して仕事することはできません。
   背面液晶モニターを使った撮影画像の確認作業が無価値化します。
   同一機種を選んでいるのに、スペアボディとして機能しないのです。

(2)このことを、ユーザーに告知していないばかりか、サービスセンターの窓口担当者さえ
   知らなかったこと。 「私どものサービスセンターの備品のD7000も、お客様の
   3号機の色に近いですね。失礼しました」と言って預かっているわけですから、
   同じD7000でも、「発売期間後期のものは、仕様として表示色を変えている」、
   という情報が、社内でまったく共有されていないということでしょう。

(3)「途中で表示色を変えた」ということを、単なる修理遅延のお詫びレベルで、
   屈託なくユーザーに公開してしまえるという情報管理のあり方。
   表示色を断りもなく変更することは、「メーカーの哲学として、セーフです」、
   と思っていればこそ、そんなことが言えるわけですね。
   普通に考えれば、部外秘にしておき、D7000複数持ちのユーザーからクレームが
   来たら、余計なことは言わずに、ただ「申しわけありませんでした」と言って、
   旧表示色に直して返すのが、企業としてのリスクマネージメントではないでしょうか。
   こちらが聞いてもいないのに、「途中で色を変えました」なんていうことを、
   ユーザーに対して軽々しくしゃべる神経が信じられませんでした。
   カメラにとっての「色の再現」って、そんなに軽いものなのでしょうか。
   「当社の液晶モニターは信じちゃイカンよ」、とメーカー自身が認めたも同然です。

11月25日の記事で、
昆虫撮影で一眼レフを使うなら、キヤノン以外のメーカーを選ぶべき積極的な理由はない、
と申し上げましたが、他のメーカーがまるでダメだ、とまでは言いませんでした。
しかし今回、メーカーの哲学というものが、はからずも明らかとなり、ニコンには本当に
ガッカリしてしまいました。キヤノンへの移行を、そろそろ本気で考えた方がよさそうです。
システム丸ごとの変更ともなれば、最低でも100万円以上はかかるだろうなあ・・・。
それより、300ページの取扱説明書を、とうとう読まされる日が来てしまうのか・・・。

D7000ユーザーには有益な情報かもしれませんが、批判記事は読んでいて楽しくないですね。
話題を変えましょう。
11月16日の記事でご紹介した「カキノヘタムシガ」の続報です。
幼虫はその後、こんな蛹になりました。
カキノヘタムシガの蛹
「カキノヘタムシガの蛹」(ちょうど1cm程度の大きさ)

本来は蛹にならず、幼虫のままで越冬します。これは暖かい室内飼育で人工的に
蛹化(ようか)させたものですね。この蛹が、非常によく動くのですが、
もともとは粗末な繭のようなものに包まれており、
そこから出さない限りは、動くことはできないはずです。
蛹化直後はこんなに動かなかったので、あるいは羽化が近いのかもしれません。
成虫の姿を、近々ご紹介できればよいのですが。
 「では、なぜ一眼レフを使うのか」の後編です。
理由その2。 「特殊レンズを使うために、一眼レフが必要である」。

昆虫撮影に必要とされる「特殊レンズ」とは、主として以下の3種類です。
(1)対角線魚眼レンズ、(2)ティルト/シフトレンズ、(3)高倍率マクロレンズ。
いずれもコンデジがカバーできる領域ではなく、これら特殊レンズの効果を
得たいと思ったら、一眼レフ用の交換レンズを揃えなければなりません。

最近は、世の中が世知辛くなってきたせいか、カメラメーカーも、これらの特殊レンズを
「売れ筋商品ではない」として、ラインナップから外すケースも目につくようになりました。
こうなるともう、一眼レフには、色空間の管理以外、アドバンテージはありません。
ところが、そういうメーカーの方が多くなってしまったのが、悲しい現状なのです。

一眼レフシステムというものは、システム全体で評価すべきものであり、
その中には当然、売れ筋商品もそうでないものも含まれ、トータルで利益が上がればよい、
とするのが正しいスタンスではないかと思いますが、「デジタル化以降、ラインナップから
消えてしまった高倍率マクロレンズを、再びラインナップに戻してほしい」、
と要望を言っても、「そんなレンズは、ほとんど売れないし、出すとしても後回し」、
などと、平然と言われるようになってしまいました。
ぼくはそれを、ひどく 「さもしい了見」だと思います。
昔のカメラメーカーは、宇宙から微生物に至るまで、いかなる特殊領域をもカバーできる
レンズラインナップを提供し、「文化の担い手」としての矜持を持っていたと思いますが、
最近は、レンズ個々のちっぽけな目先の損得に踊らされているだけのように思え、
「そんなロマンの欠片もない仕事をしていて楽しいか?」と、見ていて情けなくなります。
書店で、売り場面積いっぱいに、村上春樹の新刊だけを並べ、
それがマーケティングだ、と言っているのと一緒ですね。
そんな状態で店を開けていて、きみたちは恥ずかしくないのかと。
(実際にそんな書店があったわけではありません。)

あるカメラメーカーだけが製造している、きわめて特殊な1本のレンズがどうしても必要で、
それをボディとともに購入し、以後、売れ線のレンズも同じメーカーで揃え、
気がつけば、そのメーカーのシステムに200万円を投じていた。
フィルム時代のぼくの実体験ですが、それが、システムカメラの正しい売り方だと思います。
ところが、(1)、(2)、(3)の特殊レンズを全てラインナップしているメーカーは、
今やキヤノンだけになってしまいました。ニコンには(3)がなく、
それ以外のメーカーには、驚くべきことに(2)も(3)もありません。
ぼくは、一眼レフカメラでは、ニコンユーザーに「うっかり」なってしまいましたが、
(3)を使うためだけに、キヤノンのボディを1台、所有しています。
昆虫の「本格的な」撮影をめざす方が、これから一眼レフシステムを導入されるなら、
キヤノン以外のメーカーを選ぶべき積極的な理由はない、と申し上げておきます。

メーカーの悪口はこれぐらいにして(笑)、特殊レンズの作例をアップしておきましょう。
記事がやや長くなってしまったので、高倍率マクロレンズの作例は割愛します。「拡大率が
非常に高い」という写真は、実写作例がなくても、ご想像いただけるものと思います。

対角線魚眼作例(右が魚眼)
「対角線魚眼レンズの作例。 左は、望遠系マクロレンズで撮影 (アブラゼミの抜け殻)。」

左右とも一眼レフでの撮影ですが、左の写真ならば、コンデジでも十分に撮れますね。
しかし右のように、こんなにも広い環境を写し込んだ写真は、コンデジでは撮れません。
画面の対角線方向に180度の画角(真横が写る)を持つ「対角線魚眼レンズ」は、
描写に歪みはあるものの、昆虫のいる環境を丸ごと描写できる貴重なレンズなのです。

ティルト作例(左から、しない、した、その状態のレンズ)
「ティルト/シフトレンズ 「PC-E Micro NIKKOR 45mm」 による作例(オオクワガタ)。」

ピント面というものは、撮像素子面(やフィルム面)と平行であるのが普通です。
紙のプリントを複写すれば、全体にピントが合うのはこのためですね。
プリントに正対しているのに、プリントの上の方だけピントが合っていて、下に向かって
ボケていく、なんてことがないのは、ピント面が、撮像素子面と平行であるからです。
しかし、昔の「蛇腹カメラ」などは、蛇腹部分をフレキシブルに動かすことで、
レンズだけを上に向けたり横に向けたりして、ピント面をコントロールすることが
できました。こういう撮り方を「ティルト」と言い、ティルト/シフトレンズは、
ピント面と撮像素子面との間の、平行の関係を崩すことができます。
左のオオクワガタは、ティルトせずに撮った写真。真ん中がティルトした写真で、
右は、その状態のレンズです(このまま、カメラをタテ位置にして撮影しています)。
オオクワガタの後ろ脚と、お尻に注目してください。ここまで角度のついた
厳しいアングルからでも、きちんと奥までピントを合わせることができるのが、
ピント面のコントロールを可能とするティルト/シフトレンズなのです。

ティルト/シフトレンズは非常に高価なもので、ぼくは23万円で購入しました。
今では「深度合成」という手法で、ティルト/シフトレンズが受け持っていた撮影領域の
一部がソフト的にできるようになってしまったし、このレンズさえ買っていなければ、
さっさとニコンを見限って、キヤノンに鞍替えできたかなあ・・・と、時々後悔するレンズです。

メーカーの、もの作りの哲学には、すでに顕在化している需要に応えるだけの
「マーケット・イン」と、「こんなもの作ってみたぜ!」と、製品先行で需要を掘り起こし、
顧客に独創的な提案をしていくタイプの 「プロダクト・アウト」とがありますが、
カメラメーカーたるもの、見栄を張ってでも、後者の姿勢をアピールすべきだと思いますね。
昨今のカメラメーカーの、あまりにもスケールの小さな損得勘定や、
ボリューム・ゾーンにおもねるだけの短絡思考は、見ていて息苦しくなるほどで、
こんなにも「売れ筋、売れ筋」と言っているようでは、そのうち、
カタログの「標準ズームレンズ」、「望遠ズームレンズ」の次のページには、
「EXILEのCD」、「村上春樹の本」、「崎陽軒のシューマイ」が、
ごく普通に並ぶ日が来てしまうかもしれません。

・・・ああ、一度は軌道修正したのに、結局、メーカーの悪口で終ってしまった(笑)。
 前回の記事は、「コンデジ礼賛」に終始し、「それでも一眼レフを必要とする理由」
については、何もコメントしていませんでした。
一眼レフ(「ミラーレス一眼」もここに加えます)が手放せない理由として、
大きなポイントは2つあります。2回に分けて、それらを1つずつ書きたいと思います。

理由その1。「色空間を管理するために、一眼レフが必要である」。

「いろくうかん」と読みます。撮影時に記録される色を、どれほど豊かなものとするか、
一眼レフは、撮影者の意思でこれを決めることができます。
Adobe RGBとsRGB(コンデジはsRGB固定です)、2種類の色空間が選べるように
なっているのが普通で、前者の方が圧倒的に広くて豊かな色域を持っており、
特にグリーン系の色域において、その差が顕著です。
ところが、Adobe RGBを表示できるパソコンディスプレイは、きわめて限られています。
自分のパソコンがどちらかわからない人は、対応していないと思って間違いないです。
Adobe RGBを表示できるディスプレイは、それを必要とする人のみが、
高価であっても敢えて選び取るものであり、購入時に色空間のことを意識していなければ、
そのパソコンディスプレイがAdobe RGB対応である可能性はまずありません。

ぼくのパソコンディスプレイは、Adobe RGBが表示できますが、
では撮影時にAdobe RGBの色空間を選択しているのか? と言われれば、
答えはノーで、ぼくは敢えてsRGB色空間を選んでいます。
日本の印刷会社は、Adobe RGB撮影データの扱いがあまり上手でないように思うことと、
世間の大多数の人が見られない色空間で撮影してしまうと、
その写真を編集者にプレゼンテーションしたり、また、ブログにアップしたりする際には、
一般的なディスプレイでの見え方を一々確認しないと、表示色に責任が持てないからです。
Adobe RGBの方が、豊かな色域を持つ優れた色空間であることは間違いないのですが、
それを共有してもらえる周辺環境が全く整っていないため、
ぼくは、わざと貧しい色空間で撮影しているのです。

しかし、Adobe RGBの撮影データが、どうしても必要になるケースがあります。
欧米などの印刷環境では、こちらが主流ということなのでしょう。
ぼくの写真を販売管理してくれるストックフォトエージェンシーからは、
「あらゆる販路に対応できるよう、納品はAdobe RGBのデータでお願いします」
と言われています。主として、海外への販路を意識しているのだと思います。

一眼レフには、一般的なJPEGというファイル形式だけでなく、
RAWというファイル形式で撮影・記録できる機能が備わっています。
RAW(ロウ)とは、「生(なま)」という意味です。
この「生データ」は、そのままでは、印刷に回すどころか、パソコンディスプレイ上でも
表示不能で、専用ソフトを使った「RAW現像」というデジタル現像のプロセスを経て、
初めて、JPEGやTIFFなどの一般的なファイル形式に変換して視覚化できます。
このRAW形式で撮影しておけば、とりあえずsRGBで撮ってあった写真でも、
RAW現像時に、Adobe RGBにも現像展開が可能となるのです。
撮影時に色空間の選択ができるのも一眼レフだけであるなら、それを、画質の劣化なしに
異なる色空間に変換して出力できるのも、また一眼レフだけということになります
(ごく一部のコンデジがRAW撮影できるようですが、それらの機種が
昆虫撮影に向いているとは思えません)。

一眼レフには、1回の撮影で得られる写真を、RAWとJPEG、2つの異なるファイル形式で
同時に記録できる機能が備わっており、多くの場合、ぼくはこのスタイルで撮影しています。
色空間の変換という、「大手術」を必要とする場合や、また、本で大きく扱うデータを
入稿する際には、RAWデータから現像展開した「本気の」データ起こしを行いますが、
使うかどうかわからない写真を、とりあえず編集者に送って絵柄確認してもらったり、
また、画質に神経質になる必要のないブログ用の写真(Webで見せる写真は、
印刷の5分の1程度の解像度で同じほどシャープに見えます)を、必要なサイズにして
アップしたりする場合などは、「抱き合わせのJPEGカット」を使い、
RAWデータには手をつけません。

なぜ一眼レフを使うのか。今回の「前編」を読むかぎり、
ますます「そんなことならコンデジで十分」と思われる方が多いと思います。
そのとおり、「昆虫撮影はコンデジでおおむね十分」というのが、
あくまでぼくの基本認識ではありますが、次回の「後編」では、もう少し
「一般的な用途でも、一眼レフならではのアドバンテージというものは一応存在する」
ことについて書きたいと思います。

ほとんどの方が見られないAdobe RGBの作例写真をアップしても意味がなく、といって、
写真のない記事も寂しいので、つい先日、柿の実から出てきたイモムシをご紹介します
(sRGBでの撮影です)。
カキノヘタムシガの幼虫
「カキノヘタムシガの幼虫」

いただきものの柿の実から、こんなイモムシ(15mmぐらい)が出てきました。
「ほぉ~、これがカキノヘタムシガかあ。初めて見たなあ・・・」とうれしくなって、
いま飼育しています。柿を送ってくださった方がこのブログをご覧になっても、
森上は心から喜んでいるな(笑)、と思うだけで、自責の念にかられることはないでしょう。
果樹園の経営者にとっては、「柿の実の大害虫」ですが、ぼくは初めて見る虫なので、
飼育して、この機会にぜひ蛹なども見たいと思っています。
タッパーの一室を与えられた幼虫は、柿の果肉を定期的に補充してもらって、
むしゃむしゃと食べ進み、たくさんのフンをしています。
この人に、渋柿をやったら、どういう反応を見せるだろう? 
大事な1匹なので、今回は、そんな罰ゲームみたいな実験はやめておきます(笑)。