前回のブログに書いたシンジュサンの幼虫は、
予想どおり、その翌日(11月6日)にベランダで繭(まゆ)を紡ぎました。
葉っぱを利用する営繭(えいけん)スタイルで、樹種は常緑樹のクスノキです。

シンジュサンの繭(クスノキの水差しで営繭)
「シンジュサンの繭(クスノキの水差しで営繭)」

シンジュ(ニワウルシ)、クヌギ、キハダ、エゴノキ、クロガネモチなど、
利用できる樹種のメニューが豊富な本種ですが、落葉樹も多く含まれています。
夏に羽化する個体であれば、どんな樹種についても問題ないでしょうが、
このように葉っぱを使う営繭スタイルでは、落葉樹で育った個体は
果たして冬をどのように乗り切るのだろう・・・と、前から不思議に思っていました。
冬が近づいて、葉っぱもろとも地上に落下しても、問題はないのでしょうか?
それとも、卵をかかえたメスは、秋が近づくと、常緑樹を選んで産卵する? 

今回初めて、シンジュサンの越冬繭を見て、謎が解けました。
冬が来ても落下したりしないように、幼虫は糸でここまで入念な補強をします。
その周到さに、ぼくはすっかり感動してしまいました。

シンジュサンが繭を紡ぐ際に、糸で固定した範囲
「シンジュサンが繭を紡ぐ際に、糸で固定した範囲」

幼虫が繭を固定するために、糸(肌色)を吐いた範囲を示します。
まず、繭がついている葉っぱの柄(葉柄)に沿う糸の太い束。
繭の、最初の「命綱」です。
そして、その葉柄が接続する小枝にも糸が絡んでおり、「命綱」が延長されています。
さらに、その小枝から接続する、もう一段太い枝にも糸が届いています。
「命綱」は実に、葉柄、小枝、やや太い枝と、
3つのステップをつらぬいて繭を完全に固定しており、
ここまでしっかり補強されていれば、落葉の巻き添えになって落ちる心配はないでしょう。
常緑樹のクスノキでは、本当はここまでやる必要はないのでしょうが、
彼らが先祖代々受け継いできた「営繭作法」なのだと思います。

「命綱」の及ぶ範囲を見て、その作業がどれだけ大変だっただろうかと思うと、
ぼくが葉っぱの補充を何度か忘れて、幼虫にひもじい思いをさせてしまったことを
申しわけなく思いました。
ダメな飼い主のもとでも、こうしてちゃんと繭を紡いでくれたシンジュサンに
感謝したいと思います。

ちなみに、シンジュサンの成虫というのは、こんな姿をしています。
有名なヨナグニサンによく似ている、スタイリッシュな蛾ですね。

シンジュサンの成虫
「シンジュサンの成虫」

同じヤママユガ科のオオミズアオと同じように、利用できる食樹はたくさんあるのに、
シンジュサンはどうして、オオミズアオほど普通種になれないのだろう? 
と不思議に思っています。
 去年9月17日にアップした、「きみは、オナガミズアオ?」 の続編です。
ある森で得られる「謎の幼虫」は、一見オナガミズアオのようでいて、
重要な識別ポイントが、オナガミズアオのそれとは全く一致しない、と書きました。
http://moriuenobuo.blog.fc2.com/blog-entry-14.html

そして、

今度こそ、飼育下で羽化させて確かめる覚悟を決めたものの、なにしろ羽化は翌春です。
「オナガミズアオに間違いありませんでした」、とご報告できるのは、
まだまだ遠い先の話になりそうです。

と書きましたが、その「翌春」が訪れて、「謎の幼虫」は4月16日に羽化し、
実に、7ヶ月ぶりにオナガミズアオであることが判明しました。

オナガミズアオ♀(白バック)
「オナガミズアオ♀(白バック)」

前ばねの前縁のワインレッドの部分に注目すると、しっかりと白く縁どられており、
この縁どりが曖昧なオオミズアオとは、明らかにちがうことがわかります
(このほか、触角の色や、後ろばねの眼状紋の形も識別ポイントになります)。

オナガミズアオ・奇妙な止まり方
「オナガミズアオ・不思議な止まり方」

枝に止まらせてみると、実に不思議な止まり方をします。
多くのヤママユガ科は、はねをぺたっと開いて止まりますが、
はねを、打ち下ろすような形で前へ伸ばし、
両方の前ばねの先端が、今にもくっつきそうです。
灯りに飛んできて、壁に止まったオナガミズアオが、
オオミズアオと比べて、前ばねを著しく下げたスタイルを取りたがることは
知っていましたが、ただ下げたいというよりも、
本当は「打ち下ろす角度」を取りたいのだな、と思いました。
壁は2次元の世界ですから、壁に、はねをめり込ませない限り
打ち下ろす角度は取れないので、
よく見る姿は、彼らが本当にしたい姿勢とは、少しばかり異なるのでしょう。

オナガミズアオ♀
「オナガミズアオ♀」

刺激して、はねを開かせて撮影したカットです。
しかし、居心地が悪いのでしょう。ほどなく、はねを打ち下ろす角度にしてしまいます。
まるで「お行儀の悪いオオミズアオ」といった風情です。

それにしても、オオミズアオ幼虫との、最も安定した識別点とされている
「毛束つけ根の黒いリング紋」は、種間識別点としては機能しない、
ということに、おそらくなるのでしょう。
当ブログの読者の方からも、すでにそのような情報をいただいていましたが、
今後、自分で書く本では気をつけたいものです。

あと2つ、羽化を待っている繭がありますが、こちらはオオミズアオです。
6月に出す本に載せる写真を撮るために、じりじりしながら羽化を待っています。
1週間以内に羽化してくれないと、間に合わないでしょう。
すでにメスの写真でページが組まれているので、羽化しなくても本はできますが、
オオミズアオは、オスの方がずっと格好がよいので、
オスが羽化すれば、写真を差し替えたいと思っています。

ということで、羽化を期待していたのはオオミズアオの方であって、
オナガミズアオの姿を見たときは、「おまえか!」と叫んでしまいました。
「謎の幼虫は、やっぱりおまえ(オナガミズアオ)だったか!」が半分、
「3つも繭があって、ぜんぜん急いでいない、おまえが最初か!」が半分です。
このオナガミズアオにしてみれば、
「ずいぶんなごあいさつね」、といったところでしょうか・・・。
 きのう3月9日に、ようやく、5月発売の本の入稿を終えました。
心身ともにぬけがらのようになっていますが、明日には正気に戻らないといけません。
6月発売の本の制作が、すぐ後に控えています。

ぼくの目の前には、本物のぬけがらが2つ。
イボタガが羽脱したものです。
前回のブログで、

> ベランダは、森の中よりはずっと暖かいので、
> 3月になったら、羽化ができる環境を整えてやらないといけません。

と書きましたが、3月2日に羽化水槽に入れ替え、その晩のうちに1匹、
翌日、2匹めが羽化しました。危ない、危ない。 あのままミズゴケの中で羽化し、
脱出できないまま翅が伸びていたら、ぐちゃぐちゃになってしまっていたと思います。

イボタガ角版
「イボタガ」

入稿前の忙しい時期の羽化でしたが、なんとか、白バック、生態写真ともに
撮影を済ませました。外はまだ冬枯れの風景ですが、前回のブログで書いたように、
わが家には、落葉せずに葉をつけたままのイボタノキの鉢植えがあるので、
これを利用して、ちょっと季節を進めた感じの生態写真も押さえておきました。
上の写真は、鉢植えを使ったスタジオ撮影です。

このブログも、徐々に平常運転に戻していきますので、
またどうぞよろしくお願いいたします。
 「ときどきブログ」が、本当に「ときどき」になってしまったら、シャレにならんぞ・・・
と思いながら、中3日か4日おきぐらいにはアップしてきましたが、
ここのところ、それが5日になり、6日になっています。
今回はとうとう、中9日という、これまでの最長不更新記録となってしまいました。

当ブログにお越しいただいて、新しい記事をご覧いただけないまま、
手ぶらでお帰りいただくのはたいへん心苦しいのですが、
2冊の本づくりのうちの一方が佳境に入り、ブログを書く時間がなかなか取れません。
関係者全員、いつ寝てるんだ? みたいな時間にメールのやり取りが成立し、
ぼくの本のために、睡眠時間を割いて仕事してくれている仲間には感謝ですが、
ブログを読んでくださる皆さまには関係のないことで、
このように不義理をしておりますことを、お詫びいたします。
3月上旬には、5月に出す方の本の入稿を終える見込みですので、ここを乗り切れば、
あとは校正作業と、6月に出す本の仕事だけになり、いつものペースに戻れると思います。

さて、昨年、植木屋さんで「イボタノキ」として購入した鉢植えが、
常緑のまま冬を越しつつあります。
本来は落葉樹のはずですが、こういうことってあるのでしょうか。
それとも、「イボタノキ」自体が誤りだった? 
イボタガの幼虫は、ちゃんとこの葉を食べましたが・・・。

落葉しないイボタノキ
「落葉しないイボタノキ」

イボタガの幼虫というのは、白バックで撮るのが難しいイモムシです。
「腹脚(ふっきゃく)」と呼ばれる、幼虫期限定の吸盤状のあしが長すぎて、
小枝を常に抱きかかえるように止まっていないと安定せず、
白バックの舞台上で、しっかり立てないのですね。
倒れては起こし、倒れては起こしの連続で、何とか立っていられる1~2秒のうちに、
ピントを合わせてシャッターを押さねばなりません。

イボタガの幼虫とその腹脚
「イボタガの4齢幼虫(上下)と、小枝を抱きかかえる腹脚(右)」

去年の6月、飼育下で蛹になったイボタガが、ミズゴケにくるまれた状態で、
ベランダで冬越ししています。ベランダは、森の中よりはずっと暖かいので、
3月になったら、羽化ができる環境を整えてやらないといけません。
関東平野では、3月中旬以降の羽化が普通だと思いますが、油断は禁物です。
過去に、羽化したものの、ミズゴケから脱出できないまま翅を伸ばすことに失敗し、
非常にかわいそうな事態を招いたことがありました。
ああいう思いは、二度としたくないので、今年は早めに動こうと思っています。

あと一雨くると、季節がぐっと動きそうな、そんな予感がしています。

※ 当ブログ内の写真の使用につきましては、画面左側の「メールフォーム」を使って
 お問い合わせください。また、放送局などからのご依頼で、まれに無料で使わせて
 いただけないか、というお話をうかがうことがありますが、たいへん恐縮ですが、
 お受けできませんので、あらかじめご了解ください。
 年末にフユシャクを撮影して以来、ほとんど休む間もなくデスクワークが続き、
カメラに触れる機会もないまま過ごしてきましたが、
2015年の初撮りは、意外にも「タガメ」になりました。

次の本への掲載が決まり、こんな季節に飼育下の個体を撮ることになったわけですが、
ベランダでおとなしく越冬中のところを叩き起こされ、人間の都合で暖房を入れている
スタジオに連れ込まれて撮影されるのですから、本人にとっては大迷惑でしょう。
完全に覚醒してしまうと代謝が高まり、冬越しの貴重なエネルギーを消耗させてしまうので、
手早く撮って、すぐにベランダに戻しました。
11月に最後のエサ(金魚)を食べて以来、2ヶ月も栄養補給なしに生きていることになり、
見る影もなく痩せた腹を目の当たりにすると、春までもつのだろうか? と心配になります。
タガメ(白バック)
「タガメ(白バック)」

「水生昆虫の王者」と言われるタガメを、18年間にもわたり、累代飼育しています。
取材対象というより、もうすっかり「ペット」という感じになってしまい(笑)、
長く飼っている割には、写真をあまり撮っておらず、白バック写真もない状態でした。
最大65ミリにも達する大型種で、図鑑に多くの虫の写真を並べて同一縮尺で掲載する際、
ひとりだけ「規格外」の大きさなので、レイアウト上のバランスを難しくさせる虫です。
分類上のポジションは、カメムシ目の、「コオイムシ(子負い虫)」科。
メスの産んだ卵を、オスが孵化まで世話をするという習性を持つグループです。

コオイムシ科の卵は、孵化に至るまでに、空気と水のどちらも必要とし、
完全に水没させてしまうと卵が死んでしまうし、かといって、陸上に放置した状態では、
孵化までに必要な水分を雨だけではまかないきれません。
これを解決するために、コオイムシやオオコオイムシではメスがオスの背中に卵を産みつけ、
オスは孵化までの間、水に潜ったり浮かんだりしながら、卵に水と空気を供給し続けます。
タガメの方は、水面に突き出た杭や植物などに卵を産みつけますが、
これでは「陸上への放置」と一緒ですから、父親であるオスは
何度も水中と卵とを行き来して、水を運んでかけてやります。
移動能力のあるオスの背中に卵を産みつけるコオイムシの方が合理的であるように思え、
孵化するまで飛べないということを除けば、オスが特に不自由しているようにも見えません。

これに対して、タガメは孵化までの数日間、オスが卵の近くに拘束されることになるので、
エサも取りにくいだろうし、また、卵をねらう外敵に対しては、背負って逃げることも
できないため、覚悟を決めて立ち向かわなくてはなりません。
魚をとらえたタガメ
「魚をとらえたタガメ」

18年間にもわたる飼育の中では、いろいろなことがありました。

卵を産む場所として、「水面に突き出た杭など」と書きましたが、ぼくは木の棒の底を
生け花で使う剣山に刺し、棒の半分ほどが水面に出るような形で水中に立てています。
およそ20センチの棒を、空中と水中で10センチずつ分け合うようにセットするわけですね。
産卵場所として、これでお気に召すかどうかは、タガメに訊いてみないとわかりませんが、
せまい水槽の中で、そこしか産卵できる場所がないので、ちゃんと卵を産んではくれます。

ところが、ある時、この杭が水槽の中で横倒しになり、水没していたことがありました。
大型の剣山を使っているのですが、地震などで倒れてしまうことがないとは言えません。
その水槽内には、雌雄両方が入れてあったのですが、オスの姿を見て、目を疑いました。
(うわ、背中に産んじゃったよ!)
まるで、コオイムシのような姿のタガメがそこにいました。
卵を背負うタガメのオス(異常産卵)
「卵を背負うタガメのオス(異常産卵)」

残念なことに、このオスはすでに絶命しており、なぜ死んだのかは、今も謎です。

(1)杭が倒れ、タガメの夫婦は産卵場所を失った。雌雄どちらの「提案」によるものか
   わからないが、オスの背中が緊急の産卵場所に選ばれ、産卵が終ったあと、
   オスに何らかのアクシデントが起き、死んだ。
(2)杭が倒れ、タガメの夫婦は産卵場所を失った。雌雄どちらの「提案」によるものか
   わからないが、オスの背中が緊急の産卵場所に選ばれ、産卵が終ったあと、
   オスはメスに食われた。(産後のメスは栄養補給を必要とし、猛烈な食欲を見せます。
   タガメの摂食方法は、えものの体内を溶かしてストロー状の口で吸うというスタイル
   なので、食われたあとも、死体は損壊のない状態で、原形を保っています。
   端的に言って、死体を見て、捕食後かどうかの判断はできないのです。)
(3)杭が倒れ、倒れた杭に当たってオスが事故死した。産卵場所である杭を失ったメスが
   ちょうど産気づき、今や水槽内で「唯一の陸上」となったオスの死体
   (浮かんでいました)を、卵の「救命ボート」として活用した。

いろいろ考えてみましたが、はっきり結論が出せるわけではありません。
ただ、タガメのメスは産卵衝動が高まった時点でオスに出会えないと、
卵を水中にばらまいてしまうので、おそらく(3)のストーリーはないでしょう。
背中に産卵された時、オスはまだ生きていたのだと思います。
ぼくは、(2)ではないか? と考えています。
「出産後に、伴侶を食う」 ぐらいのことは、タガメのメスは、正常産卵でも平気でやります。
ぼくがもっと早く気づいて、両者を引き離しておけば、悲劇は回避できたのかもしれません。

杭を、あえて立てない水槽に、もう一度オスとメスを閉じ込め、
コオイムシのような行動を見せるのかどうか、確かめたいと思っていますが、
その機会のないまま、数年が経ってしまいました。今年の夏に、それができるかどうか・・・。
これまでは、累代飼育(=近親結婚)の弊害をあまり感じることもなく来ましたが、
去年の夏は、雌雄を一緒にしても産卵まで至らないケースが多く、
例年なら正常産卵が10回は見られる(飼い切れないので、10回ぐらいで止めています)のに、
わずか3回しか正常な卵塊を得ることができませんでした。
去年がたまたま「不作」の年であったということであればよいのですが、
産卵回数が3回では、実験している余裕などありません。

「産む場所がなきゃ、ぼくの背中で育てるさ。コオイムシ科なら、当然の行動だろう?」
タガメがみな、そう言って同じような行動に出るのかどうか。
それとも、あのメスだけが、天才的な行動をとったのか?
長いつきあいがあっても、やっぱり虫は、わからないことだらけのミステリアスな存在です。
また、そういう存在であり続けてほしい、とも思うのです。

<お知らせ>
ぼくの著書の一つ、「オオカマキリ-狩りをする昆虫」という本のシリーズ、
あかね書房の「科学のアルバム・かがやくいのち」が、
「厚生労働省社会保障審議会推薦図書」に選ばれたそうです。
「全国学校図書館協議会選定基本図書」、「日本図書館協議会選定図書」に続く
3度目の推薦指定で、ぼくは全20巻のうちの1冊を担当しただけですが、
うれしいニュースです。 同シリーズは、「カブトムシ(海野和男)」、
「ミツバチ(藤丸篤夫)」、「トンボ(中瀬潤)」、「カ(高嶋清明)」など、
多くの写真家が参加しており、虫以外にも、「ヤドカリ」、「タンポポ」、「ツバメ」など、
あつかう生物種は多岐にわたっています。
税別2,500円と高い本ですが、お近くの図書館などにご推薦いただければありがたく思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

◆ニュースを伝える記事はこちら◆
http://www.akaneshobo.co.jp/news/info.php?id=188
◆「オオカマキリ-狩りをする昆虫」の、著者自身による著書紹介はこちら◆
http://moriuenobuo.blog.fc2.com/blog-entry-21.html