前回の記事で、ホソオチョウの幼虫の写真をアップしましたが、
撮影中のぼくの写真を、中瀬 潤さんが送ってくれました。

怪しい人影と、その時の撮影カット
「怪しい人影と、その時の撮影カット」

思った以上の怪しさで、まるで、ダンプに轢かれる覚悟で路上にうずくまる
メンタル崩壊オヤジにしか見えませんが、こういう人を見かけても、
ああ、虫を撮っているんだな・・・ということがわかったら、
ひとまず生暖かい目で見守っていただければ助かります。

さて、10月4日にマテバシイの街路樹のある道(さいたま市)を通りかかったとき、
ひこばえ(根ぎわから出る若い株)の中に、1枚の怪しい葉っぱを見つけました。

怪しい葉っぱ(赤い矢印)
「怪しい葉っぱ(赤い矢印)」

葉脈が折れて垂れ下がり、くるんと内側に巻いています。
手に取って裏返せば、思ったとおり、そこにはムラサキツバメの幼虫の姿が。

ムラサキツバメの終齢幼虫(左側が頭)
「ムラサキツバメの終齢幼虫(左側が頭)」

幼虫が周囲にはべらせているアリは、テラニシシリアゲアリでしょうか。
お尻から出す甘い汁(実態はおしっこ)目当てで、幼虫の周辺にはアリが集まってきます。
アリは自然の中では、かなりの強者なので、アリをボディガードに引き連れていれば、
丸腰のイモムシでも外敵から守ってもらえるというわけ。
アブラムシなども同じ戦略を取りますが、
こうした取り巻きのアリを、ぼくはwith Bと呼んでいます。

その翌日、同じ場所を夜に通りかかると、あの葉っぱがもうありません。
懐中電灯で周囲の葉を反対側から照らしてみると・・・。

ムラサキツバメ幼虫の顔
「ムラサキツバメ幼虫の顔」

いました。
少し離れた葉っぱに、逆光に透けた幼虫の姿が浮かび上がります。
ちょうど食事中だったようですね。
普段はなかなか見られない顔が見られてラッキー。

ここまでにアップしたムラサキツバメ幼虫の写真はいずれも、
1万円台で買ったカシオのコンパクトカメラによる撮影で、
安くて軽くて、非常によく写ります。
これから昆虫撮影を始めたい人は、いきなり一眼レフなど買わずに、
しばらくはコンパクトカメラで撮ってみることをおすすめします。

10月7日の夜、同じ場所に採集目的で出かけました。
そろそろさなぎになる準備をするころだと思ったので、自宅で羽化させ、
傷のない状態で成虫の美しい白バック写真が撮りたいと思ったのです。

体色が変化した幼虫(上が頭)
「体色が変化した幼虫(上が頭)」

やはり、さなぎになる兆候の、明らかな体色変化が起きていました。
それまで緑色だったイモムシがピンク色を帯びてきたら、
多くの場合、ほどなく蛹化(ようか)するというサインです
(この写真は一眼レフカメラを使った撮影です)。
幼虫は巣から出て、たった1匹のアリを護衛に引き連れていました。
糸でぶら下がっている赤い塊は、幼虫のフンです。

連れ帰った幼虫は、10月9日にさなぎになりました。
ムラサキツバメは成虫で越冬しますから、今月中に羽化するでしょう。
メスの白バック写真は撮影済みなので、オスが羽化することを期待しています。
ムラサキツバメのメス(白バック)
「ムラサキツバメのメス(白バック)」

それにしても、本種が埼玉県で見られる時代が来るとは思いませんでした。
もともと南方系で、1990年代に初めて高知県で見たときは小躍りしたものでしたが、
あれから四半世紀で、地元でも見られるようになるとは。
ツマグロヒョウモンやナガサキアゲハなどと共に、どこまで北上するのか、
注意して見守っていきたいと思います。
 涼しい風の吹きはじめた先週の日曜日。
仲間と一緒に埼玉県西部の丘陵地帯まで昆虫観察に出かけました。
宮崎の昆虫写真家・新開 孝さんの上京に合わせて
いつもの仲間が集結した、というわけです。

みんなでカメムシ捜索中
「みんなでカメムシ捜索中」

メンバーは、新開さん、仙台の昆虫写真家・中瀬 潤さん、編集者の阿部浩志さん、
ぼく、の4人です。 中瀬 潤さんは、『カゲロウ観察事典』(偕成社)や、
『うまれたよ!アメンボ』(岩崎書店)などの著書がある水生昆虫の写真の名手。
阿部浩志さんは、新開さんの『虫のしわざ観察ガイド』(文一総合出版)や、
ぼくの『虫とツーショット』(文一総合出版)などを手がけた敏腕の編集者です。

シカのヌタ場
「シカのヌタ場」

モミやスギの高木が生い茂る針葉樹の森。
阿部さんに、これがシカのヌタ場だと教えてもらいました。
ヌタ場とは、動物が体表の寄生虫などを落とすために泥浴びをする場所です。
なるほど、よく見れば獣の毛が残っており、ただの水たまりではないことが
窺い知れます。

ホソオチョウの幼虫
「ホソオチョウの幼虫」

森を抜けて、次のポイントまでの移動の途中で見つけたホソオチョウの幼虫。
違法な放蝶により日本に定着したアゲハチョウ科の外来種です。
ウマノスズクサを食草とするため、在来のジャコウアゲハと競合しますが、
ジャコウアゲハの生態的地位を、どの程度圧迫しているのでしょうか?
分布が不連続で局地的であるため、
さまざまな場所で、何度も放蝶がくり返されているのでしょう。

ホソオチョウの前蛹とさなぎ
「ホソオチョウの前蛹とさなぎ」

同じ場所で、前蛹やさなぎも見つかりました。
おそらく、この時期に見つかるさなぎは、来春まで羽化しない越冬蛹でしょう。

ホソオチョウの幼虫がいた環境
「ホソオチョウの幼虫がいた環境」

このように、ダンプカーが地響きを上げて行き過ぎる道路傍で発生しています。
よく見ると、4匹の幼虫が写っていますね。

お昼を食べた後、小高い丘の上に移動すると、
秋のセミ・チッチゼミがさかんに鳴いています。
ジッジッジッジ・・・という地味な鳴き声は、まるでツユムシのようで、
音源の位置がさっぱりわからないということでは、クビキリギスと双璧です。
すぐ目の前にいるようでもあり、ずっと離れたところで鳴いているようでもあり・・・。

チッチゼミをさがす新開さん
「チッチゼミをさがす新開さん」

双眼鏡でチッチゼミの姿をさがす新開さん。
ほどなく、鳴いているのはかなり高い梢であることがわかり、
残念ながら満足な写真の撮れる状況ではありませんでした。

左から、新開さん、ぼく、阿部さん、中瀬さん
「左から、新開さん、ぼく、阿部さん、中瀬さん」

熱い虫談義が交わされた、さわやかな初秋の日曜日。
自然を見つめるまなざしに、三者三様の哲学を感じることができ、
ぼくも大いに刺激を受けて、チッチゼミの丘を後にしました。
 情けないことに、8月はついに一度もブログを更新できませんでした。
進行中の企画撮影を何とかこなす以外に、写真を撮る時間がほとんど捻出できず、
ネタもほとんどないのですが、企画撮影の合間の、
ほんの小さな出会いをふり返ってみたいと思います。

8月前半。3種類の虫を求めて、山梨県へ3日間の旅へ出かけました。
細長いうろを持つコナラの木が右手に見えます。

うろを持つコナラの木(画面右)
「うろを持つコナラの木(画面右)」

うろを持つ木があれば、必ず中を覗いてみることにしていますが、
トカゲ(山梨県は、ヒガシニホントカゲ?)が入っていったので、
ますます興味を持って、中を覗きこんでみました。

うろに入っていくトカゲ
「うろに入っていくトカゲ」

トカゲの姿はどこにもなかったけれど、
人知れずそこに建設されていた「王国」にはびっくり。

驚きの光景
「驚きの光景」

エントツドロバチ(=オオカバフドロバチ)の巣でしょう。
エントツ状の入口を持つ巣が、空間を埋めつくすように
十数個もびっしりと並んでいます。
これは建設中の初期巣で、建設工事が済むと、このエントツはなくなります。

戻ってきた母バチ
「戻ってきた母バチ」

建設中ということは、待っていれば、必ず母バチが戻ってくるはず。
そのとおり、ぼくの耳元をかすめるように母バチがうろに吸いこまれていきました。

巣の中をうかがう母バチ
「巣の中をうかがう母バチ」

エントツ状の入口から、巣の内部をうかがうようなしぐさを見せる母バチ。
留守中に、何者かに侵入されている可能性を危惧しているのでしょうか。
さっきのトカゲが中に入っていたりして?
実際には、トカゲの成体の大きさでは、
このエントツ状の入口を壊さずに中に入ることはできないと思いますが、
寄生性の昆虫などが、母バチの不在につけこむことは十分ありうるでしょう。

それにしても、こんなうろの中に、多くの巣が同居している光景は初めて見ました。
これまでに見たエントツドロバチの巣は、寺院の燈篭の張り出し部の下など、
雨をしのげる庇(ひさし)状のものの下面に、ポツンとついているものばかりでした。
うろの中は確かに、庇の下より風雨への防衛効果が格段に高いにちがいありません。
社会性のハチではないので、巣のあるじは、基本的にはそれぞれ「別人」です
(1匹で2つ、3つを造巣しているというケースはあると思います)。
ここで観察している間に、戻りバチと、出ていくハチがぶつかりそうになることも、
何度かありました。別々の母バチが安全な営巣地を求めた結果、
結果的にここに巣が集中したのでしょう。

エントツ状の入口の延長工事
「エントツ状の入口の延長工事」

泥をこねてエントツ状の入口を延長している母バチ。
濡れた泥を持ち帰る場面も見られました。工事の際には、
巣の外に身を置くのではなく、中に入って顔だけ出す形で作業を行うのですね。

不安定な斜面での撮影
「不安定な斜面での撮影」

非常におもしろい光景だったのですが、撮影には不安定な斜面で、
何度かすべり落ちそうになりました。
そうならないように、長時間、不自然に力を入れていたため、
終了後は脚が攣ったようになってしまい、車まで這って戻ることに。

太陽光発電のパネル
「太陽光発電のパネル」

今回の旅では、あちこちの観察フィールドが
太陽光発電のパネルに置き換わってしまっていることに、非常な焦りを感じました。
これはこれで、エコの名目のもとに行われることではありますが、
設置される土壌の自然的価値を、厳密に評価するシステムが必要かもしれません。
そこで見られる生物種の希少度によってABCDなどの評価段階を設け、
Aならそこをパネル化するのを避けるなど、ブレーキをかけるシステムを
作っておかないと、ごく狭い範囲にかろうじて生き残っている希少な種に、
最後のとどめを刺すようなことが起きてしまうかもしれません。

伐採された斜面
「伐採された斜面」

この斜面も、やがて太陽光発電のパネルに覆われてしまうのでしょうか。
 雑木林の樹液酒場が虫たちでにぎわう季節となり、
近所の1本のクヌギの木に足しげく通っています。
樹液昆虫を観察するには、2009年に出版した『樹液に集まる昆虫ハンドブック』にも
書きましたが、日常的に通える範囲によい木を見出すことが、
その後の観察の成否を左右します。

『樹液に集まる昆虫ハンドブック』(2009年7月 文一総合出版)
『樹液に集まる昆虫ハンドブック』(2009年7月 文一総合出版)

ぼくがこの本の取材をしたのが2008年のシーズンでしたから、
もう10年もの間、この木は安定して樹液を出し続けていることになります。
樹液を継続的に浸出させる原因を作る昆虫としては、
カミキリムシやボクトウガの幼虫が主役ということになりますが、
この木は、ボクトウガの幼虫が樹皮の傷口に常駐して傷口を攪拌し、
木が傷口を回復させるのを阻害し続けています
(このあたりのプロセスも、ハンドブック内で解説しています)。

「樹液に口吻を伸ばすベニスズメ」
「樹液に口吻を伸ばすベニスズメ」

この樹液酒場では、おなじみの顔、ベニスズメ。
灯りを非常に気にする蛾で、多くの場合はライトを当てただけで、
樹液から飛び去ってしまいます。
暗やみの中で、樹液を吸いながら空中に停止しているはずのベニスズメの気配に
神経を集中させ、ライト点灯と同時に瞬間的にピントを合わせ、
ストロボの閃光で写し止めます。
カメラを右手に持ち、左手には、棒の先端に2灯目のストロボをつけて、
ベニスズメの背後からも光を入れています。
本当ならば、手が3本欲しいところ。

「セアカヒラタゴミムシ」
「セアカヒラタゴミムシ」

意外なお客さん、セアカヒラタゴミムシ。
樹液に来ている姿は初めて見ました。
へえ~ お前も飲みに来るのかあ・・・と、ちょっとびっくり。

「なぜここに来たのか?(コウスバカゲロウ)」
「なぜここに来たのか?(コウスバカゲロウ)」

空中停止飛行をまじえながら、樹液に向かって何度も接近していた不思議な虫。
ここで見かける常連ではないので、1匹を網ですくってみました。
その正体は、コウスバカゲロウ。
アリジゴクの親であり、成虫になってからも、食性は肉食であるはずです。
果たして、樹液自体を求めてやってきたのか、
それとも、樹液に集まってくる微小な昆虫を捕食するためにやって来たのか?

樹液に着地はしなかったものの、ウスバカゲロウ類も灯りに敏感な虫ですから、
ぼくのライトを嫌ってのことかもしれず、
邪魔者がいなければ、樹液に着地していたのかもしれません。
ウスバカゲロウ類は肉食とはいえ、リンゴなども、切って与えれば食べるのです。
樹液を欲することがあっても、おかしくはありません。

「カブトムシのオス」
「カブトムシのオス」

樹液酒場の重鎮といえば、やっぱりこの人。
平べったいクワガタムシとはひと味ちがう、重量感抜群の分厚い体。
体の厚みを立体的に表現するために、こちらも2灯目のストロボを使います。
右の写真は、カブトムシのお尻の右上から2灯目が光っています。
最近では、左の写真のようなストロボを1灯ポンと焚いただけの雑な撮り方では、
なかなか写真を使ってもらえなくなりました。
野外でも、スタジオ撮影に近い、きちんとしたライティングが求められます。

「キシタバの翅の開閉」
「キシタバの翅の開閉」

樹皮に似せた地味な前翅と、鮮やかな原色をした派手な後翅。
シタバガの仲間は、みなこのような翅の組み合わせをしています。
まずは樹皮擬態で鳥などの捕食者の眼を欺き、ごまかしが効かなくなると、飛んで逃げる。
そして飛ぶ瞬間に出現する鮮やかな後翅に、鳥などは一瞬ひるむのではないか、
と言われています。その一瞬の隙が、生死を分けることもあるのでしょう。

少々、翅の開き方が甘いカットになってしまいました。
図鑑でしばしば必要とされる定番の写真なので、これまでに何度も使ってきた
ベニシタバの写真(※)に代わるものをもう1セット持っていたいのですが、
今回はその目的を十分に達することができませんでした。残念。

新しい出会いを求めて、もうしばらくこの樹液酒場に通ってみたいと思います。

※ 『小学館の図鑑NEOポケット昆虫』の163ページなどでご覧いただけます。
 4月最後の日、1時間ほど電車に揺られ、トゲアリに会いに行ってきました。
今回はいつも行くフィールドではなく、まだトゲアリを見たことのない場所ですが、
何年か前にここで見た人がいるということを、Webで確認していました。

ぬけるような青空のもと、すぐに林内に入ってしまうのは、いかにももったいなかったので、
午前中は草地や湿地など、陽あたりのよい場所で虫を探しました。
湿地にはシオヤトンボの姿が見えますが。シオカラトンボはまだ出ていないようです。
1頭のカラスアゲハが吸水しており、美しい翅を見せてくれました。

カラスアゲハの吸水
「カラスアゲハの吸水」

林内に入ると、若葉ごしの陽光が美しく、まだ夏の雑木林のような薄暗い感じがありません。
ほどなく、コナラの樹皮を歩くトゲアリの姿が目に入り、
その木の根元で大きな団塊を見つけました。

トゲアリがいたコナラの木
「トゲアリがいたコナラの木」

樹木の低い位置に非常に大きな集団を作るため、見つけやすいアリですが。
こんなに目立つ団塊となる理由は、まだよくわかっていないようです。
上の写真では、左手の枯死部分が、団塊のある場所です。

トゲアリの団塊
「トゲアリの団塊」

少し離れたところにいた1匹を狙って、ポートレートを撮影。
腰の2本の剣がカッコ良すぎます。

トゲアリ(働きアリ)
「トゲアリ(働きアリ)」

幹の反対側を見ると、イモムシを取り囲んでいる小集団が。

イモムシに噛みつく集団
「イモムシに噛みつく集団」

力を合わせてどこかに運んでいくというふうではなく、
思い思いの位置で噛みついているだけで、
少なくともぼくが見ていた小一時間の間、このイモムシは全く移動しませんでした。
いったい何をしているのでしょうか?

噛みついてはいるものの・・・
「噛みついてはいるものの・・・」

大あごで噛みついてはいますが、イモムシの外皮を破る力はないようです。
みんなが別々の方向に引っ張り合っているために、
イモムシが樹皮に張りつけの状態になっており、これでは、なかなか動かないでしょう。

イモムシに噛みつく集団(魚眼撮影)
「イモムシに噛みつく集団(魚眼撮影)」

あまりにも動かないので、レンズを付け替え、
周囲の状況がわかる環境写真も撮っておきました。

同じような条件の木は、周囲に何本かあるのに、
トゲアリが見られたのは、この1本のコナラだけでした。

2012年の環境省第4次レッドリストで、
絶滅危惧II類に指定されてしまったほど減少の著しい本種ですが、
また来年もここで見られますように・・・と祈らないではいられません。