耳慣れたアブラゼミの鳴き声が、朝の8時を回っても聞こえてこないと、
どうにも落ちつかない自分がいます。
いつも当たり前のようにそこにいてくれるはずのアブラゼミは、
季節限定の、夏だけの隣人なのだなあ…と、毎年この時期になると思い知らされます。
それでも、まだしばらくは生き残りがいるもので、
気温の上昇とともに、ようやくアブラゼミが鳴き出すと、
ああよかった! 今日もまだ夏だ! と胸をなでおろすのです。

毎年、死刑宣告のような夏の終了宣言をぼくに言い渡すのはアブラゼミで、
その鳴き声が途絶えると、夏も完全に終りという感じ。
アブラゼミの鳴き声こそが、日本の夏の通奏低音であると思っています。
関東の平野部にいる6種類のセミ(クマゼミを含みます)のうち、
最も遅く鳴き始めるのはツクツクボウシですが、
最も遅くまで粘るのはアブラゼミでしょう。

晩夏のアブラゼミ
「晩夏のアブラゼミ」

そんなわけで、本来ならば個体数の多い盛夏に撮るべき虫ですが、
ぼくのアブラゼミの写真には、9月に撮影したものが多い。
いつもそこにいたはずの隣人が、カメラを向けたくなるような
特別な存在に変わっていくからです。
衰えた日ざしを増幅して跳ね返すような褐色の翅が、ひときわ輝いて見えました。

アブラゼミのおしっこ
「アブラゼミのおしっこ」

1枚目の写真と同じ個体です。
カメラを向けることも忘れてぼーっと見ていると、
ぼくの目の前でたびたびおしっこをするので、昆虫カメラマンとしてようやくわれに返り、
おしっこが写る暗い背景を選んで、高速で連写してみました。

アブラゼミの産卵
「アブラゼミの産卵」

別の木を見れば、次世代に命を繋ぐメスの姿がありました。
孵化は、来年の梅雨時です。
その後、幼虫にはおよそ5年にもわたる地中生活が待っています。
このメスの孫世代が地上に姿を現す頃には、
ぼくはもう、足腰が立たなくなっているかもしれないなあ…。

セミヤドリガの繭
「セミヤドリガの繭」

足もとには、セミヤドリガの繭がありました。
幼虫がセミの腹部に寄生し、セミの体液を吸って育つ蛾です。
充分に育ったセミヤドリガの幼虫は、セミから離れ、
こうして下草などに下りて白い繭を紡ぎます。

セミヤドリガの成虫
「セミヤドリガの成虫」

ヒグラシに寄生することが多い蛾ですが、
この森では、圧倒的にアブラゼミで見つかることが多い。

アブラゼミに寄生するセミヤドリガの終齢幼虫
「アブラゼミに寄生するセミヤドリガの終齢幼虫」

1ヶ月ほど前には、こんな姿でアブラゼミのおなかについていたことでしょう。
3匹のセミヤドリガの終齢幼虫を抱えたアブラゼミです。
寄主を殺めてしまう「捕食寄生」とは異なり、
寄主と折り合いをつけて共存することも可能な「真の寄生」と言ってよく、
これは昆虫界ではむしろ珍しい、なかなか手練れの寄生スタイルと言えそうです。

セミヤドリガの寄生を受けたセミが、どんなダメージを負うのか、
実はまだよくわかっていません。
もっとも、丸々と太ったセミヤドリガの幼虫をおなかに抱えたアブラゼミは、
翅をきちんと畳むことができず、白い幼虫の姿が遠目にもハッキリ見えることが
ありますから、鳥など、ほかの天敵に見つかりやすくなることはありうると思います。

白僵病(はっきょうびょう)菌に冒されたアブラゼミ
「白僵病(はっきょうびょう)菌に冒されたアブラゼミ」

アブラゼミの受難はここにも。
ボーベリアとも呼ばれる昆虫病原糸状菌のしわざです。
こちらは容赦なく、このアブラゼミの命を奪っています。

日が暮れてから、森の奥深くに分け入ってみました。

緑僵病菌? に倒れたアブラゼミ
「緑僵病菌? に倒れたアブラゼミ」

こちらは、緑僵病菌?
森のこの区画は、まるでアブラゼミの墓場でした。
体の節ぶしから白や緑の菌類を噴き出させ、
樹皮に磔(はりつけ)にされたような姿で、おびただしい個体が死んでいるのです。

謎の死にざま
「謎の死にざま」

菌類に冒されて死ぬのは、原因がハッキリしているだけマシですが、
こんなふうに全身を引きつらせて絶命している個体もいくつかありました。
何とも薄気味が悪い。ぼくはこのような死にざまを初めて見ました。

アブラゼミとともに、ゆく夏をしみじみと惜しみたかったところですが、
この日はどうしたことか、こんな後味の悪い幕切れに。
今年はあと何日、アブラゼミの鳴き声が聞けるでしょうか。


※ 今年も、日本昆虫協会が主催する「夏休み 昆虫研究大賞」の審査員をします。
  9月29日(日)必着ですので、応募される方はお忘れなく!
  http://nikkonkyo.org/kenkyu-taisyo2019.html
2019.06.16  新潟の旅
 もう1ヶ月以上も前のことになってしまいましたが、
5月11日~13日まで、新潟県中越地方に点在するギフチョウの産地を回ってきました。
ゴールデンウイークも終っているというのに、この地はまだまだ新鮮な個体が多く、
6月9日に同じ場所を訪れた知人からは、今回もギフチョウが飛んでいたよと聞きました。
それにしても、梅雨空を背に飛ぶ「春の女神」って…。

ギフチョウの卵塊
「ギフチョウの卵塊(Olympus OM-D E-M1mk2)」

うす暗い林の中で、ここにだけ陽が射し込み、このような場所にあるコシノカンアオイには、
予想通り、ギフチョウの卵塊が残されていました。
本当は、隙間なく並べて産んであったのでしょう。
この写真のように卵と卵が離れてしまったのは、産卵後にカンアオイの葉が育ったことを
意味し、産卵からある程度の日数が経った卵塊であることがわかります。

オリンパスを使い始めて最初の24㎜相当(12-100㎜ズームのワイド側)での撮影で、
思いがけない画角の狭さに、「ん?」という感じでしたが、
考えてみれば、タテヨコ比が4:3の規格のカメラでは、
いかに対角線画角が84度あると言っても、水平画角は3:2のカメラより狭いのですね。
あとから調べてみて、2度以上も狭いということがわかりました。
背景の広がりを描写したい場合は、どうも「あとひと息」感がぬぐえません…。

この林には、幹にかなり大きなキノコを抱えた木があり、
コブスジツノゴミムシダマシが食い入っていました。
ツリガネタケやサルノコシカケにいるという虫ですが、
このキノコが何であるか、残念ながらぼくにはわかりません。

コブスジツノゴミムシダマシがいた環境
「コブスジツノゴミムシダマシがいた環境(Nikon D7000など)」

田んぼが果てしなく広がるこの地方には、いたるところに溜池があります。

豊穣の溜池
「豊穣の溜池(Casio EX-ZR1000)」

網を入れてみると、こんな感じ。

ヤゴ・ヤゴ・ヤゴ
「ヤゴ・ヤゴ・ヤゴ(Casio EX-ZR1000)」

本来は流水に棲むはずのオニヤンマのヤゴ(こげ茶色の大型ヤゴ)までいたのには
驚きました。ほかは、イトトンボの仲間(左下の細身の個体)と、
ヤンマの仲間(黒い大型の4匹)、小さい2匹はコサナエです。

コオイムシの多い池や、オオミズスマシの多い池、
一帯に散らばる溜池は、それぞれに優占種が異なっており、
網を入れるたびに次は何が入ってくるか、わくわくしました。

久々に見たトラフシジミ(春型)
「久々に見たトラフシジミ(春型)(Olympus OM-D E-M1mk2)」

どこにでもあるマメ科植物を食草とする割には、
なぜか都市部ではほとんど見られないトラフシジミ。
美しい翅の表面が多少わかる写真が撮れてラッキーでした。

ベニヒラタムシ
「ベニヒラタムシ(Olympus OM-D E-M1mk2)」

こちらは、伐採木に飛んできたベニヒラタムシ。
周囲には雪が残っていたので、越冬場所から出てきて、
最初のフライトだったかもしれませんね。

山肌の残雪
「山肌の残雪(Olympus OM-D E-M1mk2)」

こんなスケールの大きな風景を背に、
北陸の春の虫たちをたっぷり堪能してきました。

カラスの城?
「カラスの城?(Olympus OM-D E-M1mk2)」

こちらはオマケ。
日が暮れると、宿泊したホテルの屋上にたくさんのカラスが集まってきました。
カラスは、近くに森があれば夜はそこで過ごすという認識でしたが、
こんなに人工的な空間でも抵抗はないのでしょうか?
 もう、少し前の話題になってしまいましたが、
5月3日に、昆虫記者・天野和利さんのご案内で、鎌倉の虫スポットを回ってきました。
本来ならば、神奈川在住のぼくがご案内しなければならないような場所ですが、
昨年末からの新米神奈川県民では、精力的に各地を回って記事を執筆されている
昆虫記者の取材力には到底かないません。

北鎌倉駅で落ち合って、緑の濃い方へ。
最近は3つのカメラメーカーのカメラを持ち出すようになったので、
自分の備忘のために、機種名を書いておきます。

「新緑の季節1(カシオEX-ZR1000)」
「新緑の季節1(カシオEX-ZR1000)」

「新緑の季節2(カシオEX-ZR1000)」
「新緑の季節2(カシオEX-ZR1000)」

まぶしいほどの新緑が、ぼくらを迎えてくれました。

「交尾するジンガサハムシ(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」
「交尾するジンガサハムシ(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」

ヒルガオの葉裏には、交尾するジンガサハムシの姿。

「エゴノキの葉を巻くエゴツルクビオトシブミ(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」
「エゴノキの葉を巻くエゴツルクビオトシブミ(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」

エゴノキの葉で、幼虫のための揺籃づくりに励むエゴツルクビオトシブミのおかあさん。

「エゴシギゾウムシ(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」
「エゴシギゾウムシ(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」

エゴノキには、エゴシギゾウムシもいました。
あまりにもカッコいいので、連れ帰って白バックで撮影(上の生態写真とは別個体です)。

「エゴシギゾウムシ(白バック)(ニコンD7000)」
「エゴシギゾウムシ(白バック)(ニコンD7000)」

シロツメクサの周辺を、小さなチョウがちらちら飛んでいました。
ツバメシジミのメスです。

「シロツメクサで吸蜜するツバメシジミ(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」
「シロツメクサで吸蜜するツバメシジミ(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」

ツバメシジミは、シロツメクサの花で吸蜜し、そして花開く前のつぼみに産卵します。
幼虫は葉も摂食するわけですから、ツバメシジミにとってのシロツメクサは、
「捨てるところが全くない」お役立ち食材のようです。

「シロツメクサのつぼみに産卵するツバメシジミ(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」
「シロツメクサのつぼみに産卵するツバメシジミ(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」

鎌倉のこの一帯は、非常に虫影(ちゅうえい)の濃い(虫の姿や気配が濃厚な)場所で、
日帰りにも関わらず、フル充電で臨んだカメラの電池がなくなり、
スペア電池の残量も半分以下になるというほどのカット数となりました。

「巣作りを行うアカタテハの中齢幼虫(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」
「巣作りを行うアカタテハの中齢幼虫(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」

「ヨコヅナサシガメの羽化(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」
「ヨコヅナサシガメの羽化(オリンパスOM-D E-M1 mkⅡ)」

天野さん、ありがとうございました!
 4月28日に、近所の公園を一回りしました。
昨年12月にさいたま市から引っ越してきたので、こちら(横浜市)では、
まだどの季節も、お初の昆虫観察ということになります。

ナナフシの幼虫
「ナナフシの幼虫」

チャバネフユエダシャクの幼虫
「チャバネフユエダシャクの幼虫」

完全に町なかの公園なのですが、ナナフシやチャバネフユエダシャクがいることがわかり、
見た目以上に自然度は高いんだな、と少しうれしくなりました。

オオムラサキツツジ
「オオムラサキツツジ」

公園や道路わきでよく見られるオオムラサキツツジの花。
つぼみのベタベタは、まるでハエ取り紙のように虫をくっつけてしまいます。
ハチやハエなど、多くの虫が貼りついたままで命を落としていました。

ツツジのトラップにかかった虫たち
「ツツジのトラップにかかった虫たち」

今回、謎めいた存在だったのは、マテバシイについていたこちら。

カイガラムシ?
「カイガラムシ?」

おそらくカイガラムシの仲間だろうと思うのですが、
初めて見るもので、ぼくには種名がわかりません。
帰宅後に図鑑で調べましたが、今なお、わからないままです。
これで成体かどうかがわからないので、このあと姿を変えるのかもしれません。
しばらく注意して見ていきたいと思います。
2019.02.06  取材
昨年末、デイリーポータルさんに取材していただきました。
2015年の記事 「虫と自撮りをする男」 と同じく、
今回も、ライターは脱力系のギャグが味わい深い伊藤 健史さん。
「冬の蛾をかっこよく撮ろう」は、こちら↓です。
https://dailyportalz.jp/kiji/fuyu-no-ga-kakkoii

ナミスジと月