企画撮影のために、夏の終りの高原まで車を走らせました(9月5~6日)。
2日間、めまぐるしく空模様が変わり、一時は激しい雷雨に行く手を阻まれながらも
晴れ間に何とかノルマを達成でき、その後30分ほど自由に撮影できる時間が取れたので、
晩夏の高原らしい写真を撮ってみました。

ベニヒカゲとオオチャバネセセリ
「ベニヒカゲとオオチャバネセセリ」

 16ミリ相当の対角線魚眼レンズ(オリンパスの8mm/F1.8)を使用し、
逆光に負けないように、手前から強めにストロボ光を当てています。
ひところは魚眼レンズ特有の描写にハマりましたが、最近はすっかりご無沙汰で、
仕事の撮影では、魚眼レンズの出番はほとんどありません。

 画面右には人工物が写っていますが、これはスキー場のリフトです。
山の草原的環境が比較的良好に保たれているのは、
シーズンオフのスキー場のおかげもあるかもしれません。
薪炭林の存在が、雑木林を良好な状態で維持してきたようなものでしょうか。

ベニヒカゲ
「ベニヒカゲ」

 魚眼レンズでベニヒカゲをこれぐらいの大きさに写そうとすると、
レンズ前5センチ以内にまで近づく必要があります。
じりじりと間合いを詰めていく、久々の緊張感に胸が高鳴りました。
最近は望遠レンズのクローズアップ性能も上がったので、チョウを撮影するレンズも
どんどん長くなってきていますが、こうした「接近戦」のドキドキ感は味わえませんね。
たまにはこういう撮影もよいな…と思いました。

<お知らせ>
・「読売KODOMO新聞」のリレー連載(「ど~ぶつ記」)、9月16日号の記事を
 担当しています。小学生の方は、学校の図書室でも見られると思います。
・「香川照之の昆虫すごいぜ!」図鑑 vol.3 (NHK出版)は、明日16日に発売です。
 写真提供・執筆協力をしています。
 春先は月に数回ブログを更新しましたが、8月は気がつけばゼロという結果に…。
ここしばらく、車で遠征しているか、スタジオにこもる時は1日1000カット越えも
珍しくなく、撮影を終えると電池が切れたようにスタジオの床で寝てしまって、
なかなかブログに手が回らない状況です。

飼育ケースのフタに止まるアカスジキンカメムシの幼虫
「飼育ケースのフタに止まるアカスジキンカメムシの幼虫」

 7月25日に採集したアカスジキンカメムシのメスが4回産卵し、
孵化した子供たちがすでに終齢幼虫まで育っています。

エサを食べるアカスジキンカメムシの幼虫
「エサを食べるアカスジキンカメムシの幼虫」

 エサはピーカンナッツ(生)で、「無農薬」ではないので心配しましたが、
ここまでは順調に育っています。
有機クルミ(生)で育てている個体群もいますが、成長に差はないようです。
となれば、高価でカビやすいクルミより、ピーカンナッツの方がエサとして適していますね。

ヒゲコガネ(静止時)
「ヒゲコガネ(静止時)」

 8月11日にライトに飛来したヒゲコガネのオスを、白バックで撮影しました。
ところが、どうやら静止時は、決してヒゲ(触角)を広げてはくれないようです。
これでは「ヒゲ」コガネの名が泣くので、

ヒゲコガネ(歩行時)
「ヒゲコガネ(歩行時)」

 歩行中の姿を撮影することで、特徴的な触角がわかるような写真にしてみました。
もっとも、歩行中は足並みがバラバラに乱れてしまい、
6本の脚が、たまたまバランスよく揃った奇跡のような瞬間を切り取らなければいけません。
4時間かけておよそ700カットを撮り、
ようやく脚が揃って見える「疑似静止カット」が撮れました。
全てのカットで、ピントはその都度合わせ直していますのでなかなか大変ですが、
大変というのも人間側の勝手な言いぐさであって、望みもしない場所に連れて来られて
4時間も歩かされる虫にとってのダメージはそれよりずっと大きいわけですから、
虫には非常に申しわけないことをしていると思います。

 静止時に見得を切ってくれる(=最も絵になるポーズをとってくれる)
クワガタムシなどは非常に撮りやすい虫ですが、ヒゲコガネやゲンジボタルのように
静止時に器官の一部を隠してしまう虫は少なくなく(後者は複眼を隠してしまう)、
また、マイマイカブリのように、そもそもめったに静止しない昆虫も
同じように白バック写真が撮りにくい種です。
マイマイカブリは2時間の間に15秒ぐらいしか静止してくれませんでしたが、
ヒゲコガネよりずっと速く歩くので、
歩行中の姿を疑似静止カットとして撮影するのは無理でした。
動きを強制的に一時止める方法もあるのですが、勢いのない写真になってしまうので、
最近はなるべく自分から静止してくれる瞬間を待つようにしています。

 本のページ上では、機械的に隣り合わせにレイアウトされている2匹が、
撮影の現場では所要時間3分と240分ということもあるわけで、
そう思いながら見ていただくと、また別の味わいがあるかもしれません。

<お知らせ>
 NHK「香川照之の昆虫すごいぜ!」図鑑 vol.3 (NHK出版)が、9月16日に発売されます。
これまでの巻でも写真は提供していますが、vol.3では執筆協力もしています。
書店などでご覧いただければうれしいです。
 こんなにたくさん写真を撮ったことはない、という7月でした。
盛夏を前に、早くもバテています。

卵塊を保護するタガメ
「卵塊を保護するタガメ」

 昨夜のわが家のスタジオです。
お母さんタガメが産みっ放しにした卵塊を保護するタガメのお父さん。
孵化するまでの数日間、水中と往復して卵に必要な水分を供給します。

卵塊保護中のタガメの威嚇
「卵塊保護中のタガメの威嚇」

 水分供給だけでなく、もう一つの大事な仕事は、外敵からの防衛。
指を近づけると、ロックオンしてきます。鋭い口吻を突き立てられ、
肉が一部溶けたことがあるので、気をつけなければいけません。
キイロスズメバチに刺されるより、タガメの方が痛みは上です。

昭和のライティングと令和のライティング
「昭和のライティングと令和のライティング」

 カブトムシのさなぎに逆光を入れる、という今風の撮り方をしてみました。
昭和から平成までは、左のようなライティングでOKでしたが、
最近は右のような撮り方をしないと、昆虫写真市場で見劣りしてしまいます。
地下の蛹室に眠るさなぎを逆光で照明することを最初に思いついた人は
すごいなと感心してしまいます。ぼくには全然その発想はありませんでした。

 たくさん写真を撮っても、当面の企画と無関係な写真はこれぐらいで、
もっといろいろなものに目配りできるようにならないといけないと思いました。
ただ、カメラグリップに常時当たる中指にタコができてしまったほどで、
これ以上、体力がもつかどうか…。 
 6月3日に、東京都下のフィールドで、
何かを抱えているナナホシテントウを見つけました。

テントウハラボソコマユバチの繭を抱くナナホシテントウ
「テントウハラボソコマユバチの繭を抱くナナホシテントウ」

 テントウムシに寄生するハチ、テントウハラボソコマユバチの繭です。
テントウムシの体内を殺さない程度に食べ、成長してお尻から這い出てきた幼虫が、
そのままテントウムシの腹側で営繭(えいけん=繭を紡ぐこと)し、
羽化までの間、テントウムシに自分を保護させます。
テントウムシは臭い汁を出し、捕食者に人気がないので、
テントウムシに抱かれているということは、それだけで身の安全性がアップします。
テントウムシが保護色をまとわず、逆に目立つ姿をしているのは、
捕食者へのアピール(警告色)だと言われています。
それぐらい、捕食者に狙われない自信があるということでしょう。

 ナナホシテントウごと自宅スタジオに連れ帰ると、
2日後の6月5日にハチが羽化してきました。
こうした寄生性のハチは、オスと交尾することもなく、
メスだけで単為生殖するものが多く、本種もそうであったはずです。
スタジオで、別のテントウムシへの産卵シーンを撮ってみることにしました。

テントウハラボソコマユバチの産卵-1
「テントウハラボソコマユバチの産卵-1」

 ナナホシテントウにロックオン。
産卵管はまだ鞘の中に収められ、体の後方(写真では手前)を向いています。

テントウハラボソコマユバチの産卵-2
「テントウハラボソコマユバチの産卵-2」

 じりじりと接近します。腹が前方を向き、産卵管を標的に向けました。

テントウハラボソコマユバチの産卵-3
「テントウハラボソコマユバチの産卵-3」

 真横から撮るために、カメラが左に回り込みます。
波打つような独特のカーブを持つ産卵管。
テントウムシにとっては、まさに「悪魔の注射針」でしょう。

テントウハラボソコマユバチの産卵-4
「テントウハラボソコマユバチの産卵-4」

 腹を前方いっぱいに曲げ、じりじりと接近。
ファインダー越しに、エメラルドグリーンの複眼が妖しくきらめきます。
しびれるほどの悪役顔。自分がロックオンされているような錯覚に息苦しくなります。

テントウハラボソコマユバチの産卵-5
「テントウハラボソコマユバチの産卵-5」

 シュッと一突き。見事な早業です。
ナナホシテントウは、一瞬ピクッとしただけ。

テントウハラボソコマユバチの産卵-6
「テントウハラボソコマユバチの産卵-6」

 産卵を終えると、静かに退きます。
腹はまだ前方を向いていますが、産卵管はすでに鞘の中に格納されています。
どこをどう狙うべきか、誰に教えてもらったわけでもない。スタジオで羽化して
初めての経験だというのに、重要なミッションは、完璧に遂行されました。

<お知らせ>
2018年に発売した写真絵本『虫・むし・オンステージ!』(フレーベル館)
の電子書籍版が発売になりました。
以下のところでお求めになれますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
kindle (Amazon),
楽天kobo (Rakuten),
Kinoppy (紀伊國屋書店),
honto (honto),
mibon (未来屋書店)

海外版『小昆蟲大舞臺:獨特觀察角度的昆蟲圖鑑』(台湾で発売中)
のCM動画もとても楽しいので、再度ご案内させていただきます。
https://www.youtube.com/watch?v=J7fo5rUBA8k
 5月26日に公園のヤマハギの葉っぱで見つけたシロコブゾウムシを、
白バック撮影のモデルとして連れ帰りました。
シロコブゾウムシ(白バック)
「シロコブゾウムシ(白バック)」

 エサとして、ヤマハギの葉っぱ1枚とともにタッパー容器に入れておき、
さあ撮影するぞ、と開けたところ、このゾウムシが葉を折って作ったにちがいない
「折り紙のおさかな」が出てきました。
折り紙細工のおさかな
「折り紙細工のおさかな」

 ぼくは恥ずかしながら、千羽鶴も折り方を知らず、折り紙は何ひとつ折れません。
小学校時代、クラスで千羽鶴を折ることになった時に、
ぼく一人だけ折れずに、みじめな思いをしたことがあります。
 それはさておき、この「作品」が、手なぐさみや暇つぶしではない以上、
中に「大事なもの」を入れて封をしたのだと判断するほかありません。
「大事なもの」と言えば、それは卵でしょう。
開けるよ、とシロコブゾウムシにひとこと断ってから開封してみました。

予想通り卵が
「予想通り卵が」

 接着に使った糊状の物質が強力で、葉を破かないように開封するのが大変でしたが、
何とか開封してみると、中には予想通り卵が。

葉の表だけでなく裏にも
「葉の表だけでなく裏にも」

 かなり複雑に接着面がかみ合わさっており、
このシロコブゾウムシのスキルがあれば、千羽鶴だって折れそうです。
卵がしっかり覆えれば、葉の表裏は問わないのだなとわかりました。
周囲に見える白いものは、接着に使った物質の痕です。

 幼虫は土中にいるはずで、ならば産卵も土中にするのだと思っていましたが、
意外な場所に産卵するものだなと思いました。
孵化した幼虫は、(1)この折り紙細工から地上に向けて落ちるのか、
(2)あるいは茎を伝って降りるのか、(3)はたまた折り紙作品自体を母虫が
切り落として地面に落下させるのか、それはまだわかりません。
タッパー内では、すでに葉が切り取られている状態でしたが、
もしハギの茂みでこの折り紙細工が見つかったなら、
少なくとも(3)ではないということになるでしょう。
同じ場所で、シロコブゾウムシの作品を探してみたいと思います。
折り紙職人の実演
「折り紙職人の実演」

せっかくなので、折り紙作品の制作過程を見せてもらうことにしました。
なるほど、こうやって後ろ脚で葉っぱを「合わせる」のか。
オトシブミは前脚で行いますが、「利き脚」が根本的にちがうのですね。
ほかの虫の撮影の片手間の観察でしたので、接着剤をどこから出すのか、
卵を産む瞬間が見られるだろうか、など、まだまだ観察不足ですが、
また新しいことがわかったら、お知らせしたいと思います。