2017.09.22  夏の断片-3
 20日に発売された月刊「カメラマン」(モーターマガジン社)10月号で
1ページをいただき、鳴いているスズムシの撮影方法を解説しています。
ご興味のある方はご覧ください。

さて「夏の断片」、今回が最終回です。
前回の記事でアップした写真が、いずれも美しい場面ではなかったので、
今回は作例紹介のように撮影データ込みで、この夏に撮影した虫たちの美しい姿、
かっこいい姿をランダムにアップしたいと思います。
シャッター速度はすべて1/250秒です。

アブラゼミの羽化
「アブラゼミの羽化」
ニコンD7000, 85ミリマクロ, F14, ストロボ3灯(上から、背後から、正面から)。

昆虫の羽化シーンは最高にフォトジェニックなものですが、
その場面に立ち会うのはなかなか難しく、オオカマキリの羽化などは、
羽化の兆候が現れてからカメラの前で28時間も待ち続けたことがあります。
セミの羽化撮影は待ち時間が少なく、地上を歩いている幼虫を見つけたら、
たいていは3時間以内に撮影がスタートできます。

カブトムシのさなぎ
「カブトムシのさなぎ」
ニコンD7000, 60ミリマクロ, F18, ストロボ3灯(上から1灯, ガラス板の
下の左右から1灯ずつ)。

さなぎをガラス板に載せており、ガラス板のおよそ20センチ下には
黒い布を敷いています。透明感を出したかったので、左右から逆光を入れています。
上からのストロボは、カメラとシンクロコードで繋がっており、逆光ストロボ2灯は、
上からのストロボ光を受けてワイヤレスで発光が誘発されるように設定してあります。

オオカマキリの威嚇
「オオカマキリの威嚇」
ニコンD7000, 60ミリマクロ, F18, ストロボ2灯(上から、 正面から)。

白バック(白い紙)上にカマキリを置いて撮影しています。
真上からのストロボがメインの照明ですが、正面からの内蔵ストロボの発光を受けて
メインストロボの発光が誘発されるように設定してあります。

獲物を待つコガネグモ
「獲物を待つコガネグモ」
ニコンD7000, 10-17ミリ魚眼ズーム(トキナー), F11, ストロボ1灯。

生息環境がわかるように、背景までよく写る魚眼レンズを使用しました。
魚眼レンズ特有の画面効果で、背景の草や木がゆがんで写っていますが、
直線的なものが写りこんでいないので、それほど違和感はないと思います。
X字型の、いわゆる「隠れ帯」がすっかり壊れてしまった状態の巣で、
図鑑等には全く使えない写真になりました。

産卵管をそうじするコロギス
「産卵管をそうじするコロギス」
ニコンD7000, 60ミリマクロ, F18, ストロボ3灯(上から、背後から、正面から)。

産卵後に、産卵管を舐めてそうじするコロギス。
本種の産卵管は背中側に向かって強く湾曲しているので、
産卵管を腹側に向けた状態で口器までちゃんと届くとは意外でした。

本種のように夜行性の昆虫を撮影する際は、逆光を入れないと夜の感じが出ません。
逆光ストロボは、被写体の向こう側に設置しなければならないので、
アブラゼミの羽化のように、被写体が全く移動しない場合であれば
最初からストロボを三脚に固定しますが、
被写体がいかようにも動き回れる場合は、左手に持った棒つきストロボで、
移動する被写体に柔軟に対応できるようにします。
棒つきストロボを使った照明方法については、当ブログの過去記事をご参照ください。
http://moriuenobuo.blog.fc2.com/blog-entry-18.html
 少し前の記事に書いたクヌギの樹液酒場ですが、
夏の盛りを前に、意外な形で閉店を余儀なくされました。

ある町の、公立の運動公園に隣接した木立の中の1本なのですが、
スズメバチが集まることで、町に「通報」が行ったのでしょう。
樹液の出口すべてを、樹脂でふさがれてしまいました。

「樹液酒場の突然の閉店」
「樹液酒場の突然の閉店」

その後、さらにていねいな処置がほどこされ、ビニールで覆われることに・・・。
ビニール越しに、中が蒸れているのが透けて見えます。

「ビニールで覆われたクヌギの木」
「ビニールで覆われたクヌギの木」

残念な結果に終りましたが、
伐り倒されなかっただけでも、よしとしなければいけないのかもしれません。
運動公園利用者がお弁当を広げる木陰なので、
通報があったら、町も放置はできないでしょう。

夏の断片をもう一つ。

夕方に、低空で旋回飛行をするウスバキトンボがいました。
マンホールの上をかすめるように、何匹も飛び回っています。
何をしているのでしょう?

「マンホールの上を飛び回るウスバキトンボ」
「マンホールの上を飛び回るウスバキトンボ」

もう日が陰るころの時間帯で、コンパクトカメラしか持っていなかったので、
微力な内蔵ストロボでは、トンボの姿がわかるように撮ることは不可能でしたが、
黄色い矢印の物体が2匹のウスバキトンボです。
マンホールに近づいて、赤い矢印の部分を見てみると・・・。

「汚水で発生したユスリカ」
「汚水で発生したユスリカ」

これを食べていたのでしょう。
羽化したユスリカが、次々にマンホールの穴から飛び立っていきます。
こんなエサ場をよく見つけたな、と感心しましたが、集まっていたウスバキトンボは
5匹ほどいました。5匹が別々に、この豊穣のエサ場を見つけ出したのでしょうか、
それとも、先行する1匹の行動を「見とがめて」、
「われも、われも」と割り込んできたのでしょうか。
最初からこの場所で見ていたかったな・・・と思いましたが、
来年また同じ時期にここに来ることがあれば、そんな機会もあるかもしれません。

意外なエサ場といえば、こんな珍しいシーンも。

「コイの死骸から吸汁するアゲハ」
「コイの死骸から吸汁するアゲハ」

花の蜜を吸うはずのアゲハが、腐ったコイの死骸で吸汁していました。
タテハチョウ科ではよく見られるシーンですが、
腐肉から吸汁するアゲハは初めて見ました。
並大抵の腐敗レベルではなく、ここまでの悪臭の中で撮影したのは初めてです。
珍しい場面を撮影できたので、まあ、よしとしましょう。

今回は美しい場面の写真がありませんが、
雨が多く、青空のもとで撮影すること自体が難しい夏でした。
今週末も、台風が日本列島を縦断するようで、
予定していた取材が、果たしてできるかどうか・・・?
 情けないことに、8月はついに一度もブログを更新できませんでした。
進行中の企画撮影を何とかこなす以外に、写真を撮る時間がほとんど捻出できず、
ネタもほとんどないのですが、企画撮影の合間の、
ほんの小さな出会いをふり返ってみたいと思います。

8月前半。3種類の虫を求めて、山梨県へ3日間の旅へ出かけました。
細長いうろを持つコナラの木が右手に見えます。

うろを持つコナラの木(画面右)
「うろを持つコナラの木(画面右)」

うろを持つ木があれば、必ず中を覗いてみることにしていますが、
トカゲ(山梨県は、ヒガシニホントカゲ?)が入っていったので、
ますます興味を持って、中を覗きこんでみました。

うろに入っていくトカゲ
「うろに入っていくトカゲ」

トカゲの姿はどこにもなかったけれど、
人知れずそこに建設されていた「王国」にはびっくり。

驚きの光景
「驚きの光景」

エントツドロバチ(=オオカバフドロバチ)の巣でしょう。
エントツ状の入口を持つ巣が、空間を埋めつくすように
十数個もびっしりと並んでいます。
これは建設中の初期巣で、建設工事が済むと、このエントツはなくなります。

戻ってきた母バチ
「戻ってきた母バチ」

建設中ということは、待っていれば、必ず母バチが戻ってくるはず。
そのとおり、ぼくの耳元をかすめるように母バチがうろに吸いこまれていきました。

巣の中をうかがう母バチ
「巣の中をうかがう母バチ」

エントツ状の入口から、巣の内部をうかがうようなしぐさを見せる母バチ。
留守中に、何者かに侵入されている可能性を危惧しているのでしょうか。
さっきのトカゲが中に入っていたりして?
実際には、トカゲの成体の大きさでは、
このエントツ状の入口を壊さずに中に入ることはできないと思いますが、
寄生性の昆虫などが、母バチの不在につけこむことは十分ありうるでしょう。

それにしても、こんなうろの中に、多くの巣が同居している光景は初めて見ました。
これまでに見たエントツドロバチの巣は、寺院の燈篭の張り出し部の下など、
雨をしのげる庇(ひさし)状のものの下面に、ポツンとついているものばかりでした。
うろの中は確かに、庇の下より風雨への防衛効果が格段に高いにちがいありません。
社会性のハチではないので、巣のあるじは、基本的にはそれぞれ「別人」です
(1匹で2つ、3つを造巣しているというケースはあると思います)。
ここで観察している間に、戻りバチと、出ていくハチがぶつかりそうになることも、
何度かありました。別々の母バチが安全な営巣地を求めた結果、
結果的にここに巣が集中したのでしょう。

エントツ状の入口の延長工事
「エントツ状の入口の延長工事」

泥をこねてエントツ状の入口を延長している母バチ。
濡れた泥を持ち帰る場面も見られました。工事の際には、
巣の外に身を置くのではなく、中に入って顔だけ出す形で作業を行うのですね。

不安定な斜面での撮影
「不安定な斜面での撮影」

非常におもしろい光景だったのですが、撮影には不安定な斜面で、
何度かすべり落ちそうになりました。
そうならないように、長時間、不自然に力を入れていたため、
終了後は脚が攣ったようになってしまい、車まで這って戻ることに。

太陽光発電のパネル
「太陽光発電のパネル」

今回の旅では、あちこちの観察フィールドが
太陽光発電のパネルに置き換わってしまっていることに、非常な焦りを感じました。
これはこれで、エコの名目のもとに行われることではありますが、
設置される土壌の自然的価値を、厳密に評価するシステムが必要かもしれません。
そこで見られる生物種の希少度によってABCDなどの評価段階を設け、
Aならそこをパネル化するのを避けるなど、ブレーキをかけるシステムを
作っておかないと、ごく狭い範囲にかろうじて生き残っている希少な種に、
最後のとどめを刺すようなことが起きてしまうかもしれません。

伐採された斜面
「伐採された斜面」

この斜面も、やがて太陽光発電のパネルに覆われてしまうのでしょうか。
 雑木林の樹液酒場が虫たちでにぎわう季節となり、
近所の1本のクヌギの木に足しげく通っています。
樹液昆虫を観察するには、2009年に出版した『樹液に集まる昆虫ハンドブック』にも
書きましたが、日常的に通える範囲によい木を見出すことが、
その後の観察の成否を左右します。

『樹液に集まる昆虫ハンドブック』(2009年7月 文一総合出版)
『樹液に集まる昆虫ハンドブック』(2009年7月 文一総合出版)

ぼくがこの本の取材をしたのが2008年のシーズンでしたから、
もう10年もの間、この木は安定して樹液を出し続けていることになります。
樹液を継続的に浸出させる原因を作る昆虫としては、
カミキリムシやボクトウガの幼虫が主役ということになりますが、
この木は、ボクトウガの幼虫が樹皮の傷口に常駐して傷口を攪拌し、
木が傷口を回復させるのを阻害し続けています
(このあたりのプロセスも、ハンドブック内で解説しています)。

「樹液に口吻を伸ばすベニスズメ」
「樹液に口吻を伸ばすベニスズメ」

この樹液酒場では、おなじみの顔、ベニスズメ。
灯りを非常に気にする蛾で、多くの場合はライトを当てただけで、
樹液から飛び去ってしまいます。
暗やみの中で、樹液を吸いながら空中に停止しているはずのベニスズメの気配に
神経を集中させ、ライト点灯と同時に瞬間的にピントを合わせ、
ストロボの閃光で写し止めます。
カメラを右手に持ち、左手には、棒の先端に2灯目のストロボをつけて、
ベニスズメの背後からも光を入れています。
本当ならば、手が3本欲しいところ。

「セアカヒラタゴミムシ」
「セアカヒラタゴミムシ」

意外なお客さん、セアカヒラタゴミムシ。
樹液に来ている姿は初めて見ました。
へえ~ お前も飲みに来るのかあ・・・と、ちょっとびっくり。

「なぜここに来たのか?(コウスバカゲロウ)」
「なぜここに来たのか?(コウスバカゲロウ)」

空中停止飛行をまじえながら、樹液に向かって何度も接近していた不思議な虫。
ここで見かける常連ではないので、1匹を網ですくってみました。
その正体は、コウスバカゲロウ。
アリジゴクの親であり、成虫になってからも、食性は肉食であるはずです。
果たして、樹液自体を求めてやってきたのか、
それとも、樹液に集まってくる微小な昆虫を捕食するためにやって来たのか?

樹液に着地はしなかったものの、ウスバカゲロウ類も灯りに敏感な虫ですから、
ぼくのライトを嫌ってのことかもしれず、
邪魔者がいなければ、樹液に着地していたのかもしれません。
ウスバカゲロウ類は肉食とはいえ、リンゴなども、切って与えれば食べるのです。
樹液を欲することがあっても、おかしくはありません。

「カブトムシのオス」
「カブトムシのオス」

樹液酒場の重鎮といえば、やっぱりこの人。
平べったいクワガタムシとはひと味ちがう、重量感抜群の分厚い体。
体の厚みを立体的に表現するために、こちらも2灯目のストロボを使います。
右の写真は、カブトムシのお尻の右上から2灯目が光っています。
最近では、左の写真のようなストロボを1灯ポンと焚いただけの雑な撮り方では、
なかなか写真を使ってもらえなくなりました。
野外でも、スタジオ撮影に近い、きちんとしたライティングが求められます。

「キシタバの翅の開閉」
「キシタバの翅の開閉」

樹皮に似せた地味な前翅と、鮮やかな原色をした派手な後翅。
シタバガの仲間は、みなこのような翅の組み合わせをしています。
まずは樹皮擬態で鳥などの捕食者の眼を欺き、ごまかしが効かなくなると、飛んで逃げる。
そして飛ぶ瞬間に出現する鮮やかな後翅に、鳥などは一瞬ひるむのではないか、
と言われています。その一瞬の隙が、生死を分けることもあるのでしょう。

少々、翅の開き方が甘いカットになってしまいました。
図鑑でしばしば必要とされる定番の写真なので、これまでに何度も使ってきた
ベニシタバの写真(※)に代わるものをもう1セット持っていたいのですが、
今回はその目的を十分に達することができませんでした。残念。

新しい出会いを求めて、もうしばらくこの樹液酒場に通ってみたいと思います。

※ 『小学館の図鑑NEOポケット昆虫』の163ページなどでご覧いただけます。
 新刊 『ポケット版 身近な昆虫さんぽ手帖』 を多くの方にお買い求めいただき、
ありがとうございます。 アマゾンランキングでは一時、
ジャンル別の2位まで行きましたが、惜しくも1位にはなれませんでした。残念。

さて、埼玉県主催の企画「ミドリシジミを見る集い 2017」が6月24日に行われ、
解説指導員を務めてきました。梅雨時で、天候が心配されましたが、
朝から日が射す1日で、16:30から行われるイベント前に、会場の自然公園を一廻り。
ミドリシジミの活動時間帯は夕方なので、昆虫の観察会としては異例の集合時刻です。

梅雨の晴れ間のさわやかな林内
「梅雨の晴れ間のさわやかな林内」

「集い」のスタッフ業務を務める「埼玉昆虫談話会」の会員の方と、
カメラを持って、広い園内をウロウロ。下草には、イノコヅチカメノコハムシの幼虫や、
美しいハエトリグモ・ヨダンハエトリの姿が。
イノコヅチカメノコハムシの幼虫のお尻(写真上方)に堆積するのは、
脱皮で不要となった過去の外皮。つまり、ぬけがらを背負って生きています。

イノコヅチカメノコハムシの幼虫(左)と、ヨダンハエトリ
「イノコヅチカメノコハムシの幼虫(左)と、ヨダンハエトリ」

倒木の下でゴミムシを見つけたり、樹液でスズメバチの観察をしたり、
今年初めて、特別な目的を持たない昆虫探しをしましたが、これが実に楽しい!
撮らなければならないノルマはいろいろあるものの、時期と場所からみて、
今日はそれらの撮影は不可能と早々に判断したため、
虫を探す午後の時間が、ゆっくり、まったりと過ぎていきました。
こんなふうに、殺気立っていない時にこそ、思いがけない出会いがあるもので、
枯れ木の中から外の世界へ出てこようとするタマムシを発見。

タマムシの誕生
「タマムシの誕生」

途中で体がつかえてしまい、いったん引っ込んだものの、
木をかじって穴を拡げ、のっそりと外の世界に出てきました。
新刊 『ポケット版 身近な昆虫さんぽ手帖』 にも、同じ場面の写真を載せていますが、
今回の写真の方が、美しく撮れたかな・・・。
出たばかりの本に載せたシーンが、発売直後にもっとよく撮れてしまうという
不思議なできことを、これまでにも何度か経験しています。
果たしてすぐに飛べるのだろうか? と思いつつ見ていましたが、
はねを広げるや否や、あっという間に視界から消えていきました。

飛ぶ直前のタマムシ
「飛ぶ直前のタマムシ」

イベントの時間が近づいたので集合場所へ。 腕章を受け取って、参加者を待ちます。
ミドリシジミを採集して参加者に見せるため、「長竿」と呼ばれる柄の長い捕虫網を
スタッフの方が準備していました。
公称6m同士の争いですが、片方は少し足りないかな?

ぼくと長竿と参加者(お顔の写っている一部の方にはモザイクをかけています)
「ぼくと長竿と参加者(お顔の写っている一部の方にはモザイクをかけています)」

89名もの方に参加していただき、ミドリシジミのオス同士がなわばりを争う
卍巴(まんじともえ)飛翔や、その他の昆虫観察を楽しんでいただきました
(解説指導員はイベント中、写真が撮れませんので、
ミドリシジミの写真は今回ありません)。

夜は場所を移動して、仲間との楽しい徹夜ライトトラップ。
思いがけない虫が飛来するたびに、夜の森に歓声が響き、
朝まで楽しい虫談義に花が咲きました。

朝までライトトラップ
「朝までライトトラップ」