今年に入ってから、一度もフィールド取材へ出られないまま4月を迎えてしまい、
インドア仕事オンリーの期間としては、これまでの最長記録を更新中です。
1ヶ月以内には本づくりも終了するので、もうしばらくの辛抱ですが、
春の野に出かける余裕がないというのも、なかなか心理的にしんどいものがあります。
昆虫の本とはいえ、今回は自然科学のカテゴリーに入るような実用書ではないので、
セオリーやパターンが通用せず、見開きごとにさまざまな見せ方を検討しているため、
それで時間がかかっています。

3月26日に、路上を歩いているコマルハナバチを見つけました。
移動の合間のほんのわずかなひとときが、虫の初撮りとなりました。

コマルハナバチ
「コマルハナバチ」
 先日、制作中の本の束見本を編集者から手渡され、そのずっしりと重い感触にびっくり。
束見本は「つかみほん」と読み、「束」とは、本の背の厚みのことを指します。
本の構造の3D設計図みたいなもので、まだ何も印刷されていない真っ白な本ですが、
それ以外は何もかも本番と同様に仕立てられ、背の厚みだけでなく紙質も本番と同じ、
カバーや帯までついているという完成見本です。 「掴み本」と誤変換した方が
よほど意味が通りやすいという、仕上がりイメージのツカミを得るための本。

表紙カバーに貼られたスペック一覧には660gと書かれており、
単著としては、ぼくの本で最重量となります。
写真集並みのぜいたくなスペックで、この豪華な外観に負けないコンテンツに
しなければ・・・と、思いを新たにしました。束見本には、その本来の目的ではないにしろ、
作家のモチベーション・アップという効果も確実にありますね。

660gの表示
「660gの表示」

さて、その出版準備をはじめとする、パソコンと紙を使う仕事以外、
相変わらず取材カメラとともにフィールドを歩くような時間が取れず、
今年はなんと一眼レフに触る機会が未だゼロ(汗)という状態。
そんなわけで、先月に引き続き、コンパクトカメラで撮影したスナップ写真です。

森が消えた場所
「森が消えた場所」

巨大ショッピングモールの駐車場です。
ここにはかつて湿地が広がり、遠くに森が見えていました。
わが家からさほど遠くない場所で、ここを探険してフィールド開拓しなければ・・・
と思っていた矢先に仮囲いが張りめぐらされ、重機を使った工事が始まりました。
ショッピングモールが完成した直後には、棲む場所を失った多くのバッタやコオロギが
周辺の車道上にいる姿を目にしましたが。翌年にはもう、まったく見られなくなりました。

その消えた森のあとに出現した駐車場を、
まるで戸惑うように見下ろすヒヨドリがいたので、持っていたコンデジでスナップ。
すぐに飛び去りましたが、何かひとことセリフを言わせてみたくなるような
写真が残りました。
 今年は諸般の事情により、これから少なくとも2ヶ月は
昆虫の写真を撮りに行く機会がないと思いますので、
その間、通りすがりの街角スナップなどでつないでいきたいと思います。
しばらくブログをお休みしようかとも思いましたが、画面に変な広告が
出てしまいますので、たまには更新しないといけないようです。

落日
「落日」

駅前の夕景スナップ。
ガス灯風デザインの街灯の向こうに沈んでいく太陽が
なかなか趣があってよかったので、
持っていたコンデジでデジタル・エフェクトをONにしてスナップ。
コントラストを下げ、ホワイトバランスをわざと狂わせた上で、
盛大に色を盛ってみました。

黒猫
「黒猫」

道端の猫。
こちらは、意外なようですがデジタル・エフェクトを使っていません。
単にカメラを振って撮る間にストロボを光らせた、という写真。
背景がグリーンであるのは、
蛍光灯照明下でホワイトバランスが狂ってしまったことによります。
もちろん、狂ってよい前提で、オートホワイトバランスは
わざと解除してあります。

闇からの殺気
「闇からの殺気」

公園を通りすぎる際に見つけた猫。
左奥から、彼氏(?)が睨んでいるな・・・と思ったので、
どこまで写るかわからなかったものの、画面左側のスペースを空けて撮影。
結果的に、光る目が写りました。 よ~く見ると、顔の輪郭も何となく写っています。

上のカットの一部拡大
「上のカットの一部拡大」

で、ぼくがいつまでも彼女(?)のもとを去らないので、
とうとう凄みをきかせにやってきました。 引っかかれるかな? と思いましたがセーフ。
なかなか迫力のある表情が撮れました。

睨む眼
「睨む眼」

もうすっかり、「猛獣」の眼ですねえ・・・。
昆虫には絶対、この殺気は出せませんね。

猫のカップルに詫びを言って、この1カットで退散。

それにしても、公園の猫にも拒絶されて家路につくオッサンって、
何とも言いようがないほど、みじめな絵づらですねえ・・・。
とぼとぼと帰る道すがら、いつになく街のネオンがにじんで見えました。

にじむネオン
「にじむネオン」

(蛇足ですが、右上の黄色い「ネオン」は月です。
ネオンを月と誤認した虫たちが、羅針盤を狂わせられて灯りに集まるのが、
ピントの合わない目で見ると体感的によくわかるような気がします。
たまには猫に凄まれて、泣きぬれて帰るのも悪くない・・・なと思いました。)
 あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2017年の新刊
「2017年の新刊」

2017年の新刊は、『ポケット版 身近な昆虫さんぽ手帖』(世界文化社)でした。
2018年の出版は、1冊は決まっており、あともう1冊出せるかどうか・・・
というところで、発売が決まりましたら当ブログでお知らせしますので、
どうぞよろしくお願いいたします。

さて、昨年末最後の記事で、明日はフィールドに出ます、と書きましたが、
12月30日に、5人の虫仲間と神奈川県まで行ってきました。
ひとつ前の12月9日時点より足腰の状態は良く、足取りも比較的普通です。
このまま順調に良くなってくれるといいのですが。

雑木林を行く
「雑木林を行く」

3時を過ぎると、あっという間に高度を下げていく12月の太陽。
強い光がレンズ内を踊るように駈け抜けていき、不思議な形のゴーストが出現しました。
異世界への入口に消えていくように見える仲間のうしろ姿にも、
今ひとつ現実感が感じられません。

ヤドリギ
「ヤドリギ」

ふり返れば、高い梢にはヤドリギが見えます。
夕方の時間帯でなければ、もう少し鮮やかなグリーンをお見せできたかもしれません。

木製の手すりに、不思議な形の虫がいました。
クチナガオオアブラムシの仲間の有翅タイプでしょう。
お尻から出ているように見えるのは口で、「頭の部分から下向きに生えている
セミのような口吻が、おなかの下を通り抜けてさらにお尻からはみ出している」
という構図です。つまり体長よりもずっと長い口を持っている、というわけ。

クチナガオオアブラムシの仲間(有翅タイプ)
「クチナガオオアブラムシの仲間(有翅タイプ)」

この日のお目当ては、フユシャクという、冬にだけ現れる地味な蛾。
シャクトリムシの成虫で、「冬尺」の尺の部分は「尺取虫」の尺です。
フユシャクという名前はグループの総称で、日本に35種いますが、
全種類の写真撮影に成功された方は、日本に2人しかいません。
きわめて限られた地域にしかいないものや、何十年も前から記録が
途絶えていたもの(一昨年、再発見されました)など、
全種撮影は非常に困難なもので、誰にでもできることではありません。

しかし、よい発生地を見つければ、市街地に隣接した公園や雑木林でも、
ひと晩に10種程度が見られることはあります。

完全に日が暮れると、1匹、また1匹とフユシャクが飛び始めました。
ライトの光芒に、音もなく闇を舞う小さな蛾の姿が浮かび上がります。
飛べるのはオスだけで、メスには翅がないか、あっても痕跡的なもので、
オスが闇の中を飛び回って、どこかで待っているはずのメスを探します。

樹皮で交尾するナミスジフユナミシャク(上がメス)
「樹皮で交尾するナミスジフユナミシャク(上がメス)」

生きものの気配も感じられないような真冬の雑木林で、
ぶじに相手を見つけることができた ナミスジフユナミシャクのカップル。
上がメスです。翅は痕跡的なもので、この角度からははっきり見えません。
冬の夜に愛し合う変温動物のカップルは、お互いを温め合うことはできませんが、
見ているこちらを、ほっこり温かい気持ちにさせてくれます。

この晩は結局、10種見ることはできなかったものの、
7種のフユシャクたちに会うことができました。
これだけでも、日本産フユシャクの2割に会えたことになりますね。

12月30日に出会ったフユシャクたち
「12月30日に出会ったフユシャクたち」

左上から時計回りに、ナミスジフユナミシャクのオス、ウスモンフユシャクのオス、
シロオビフユシャクのメス、そしてシロオビフユシャクのオス。
このほか、チャバネフユエダシャク、ウスバフユシャク、クロテンフユシャク、
シモフリトゲエダシャクが姿を見せてくれました。

これからしばらくの間、ぼくのフィールドワークは冬眠期間に突入し、
本の制作のデスクワーク中心の生活になります。
その間に、きっと体も回復するでしょう。
ぜひ、そうあってほしいものです。
 何人かの方にはご心配いただき、
それよりいくぶん多くの方からは笑われた頭皮の医療用ホチキスもぶじ外れ、
何とか社会復帰しました。 ぼくの周囲のツッコミキャラの方々は、
ぼくがボケてもしばらくは頭をはたかないようにお願いします。
「その部分、ハゲるかもしれませんよ」と言われており、心が半分折れています。

足腰の痛みの方は相変わらずで、
明日の30日こそ、気力を振り絞ってフィールドへ出てみたいと思いますが、
11、12月の野外撮影は、明日を含め、たった2日間のみで終りそうです。

5月発売予定の本の準備や、ほかの作家の方が出版される本の解説執筆など、
撮影以外の仕事があるから救われているようなものの、何もなかったら、
余生を過ごすおじいちゃんのような年末を迎えていたことでしょう。

 12月22日の病院からの帰り道、コンパクトカメラで撮った写真です。

青々と葉を繁らせるプラタナス
「青々と葉を繁らせるプラタナス」

温暖化の影響でしょうか。12月の光景とは思えません。
プラタナスが青々と葉を繁らせ、まるで初夏のようです。

一方、ヤツデの花が満開で、こちらはまさしくカレンダー通りの光景。

満開のヤツデ
「満開のヤツデ」

11~12月に花を咲かせるヤツデは、冬に活動する虫たちの貴重な吸蜜源で、
気温が上がる午後には、けっこうな数の虫たちが花を訪れます。

セイヨウミツバチと数匹のハエが来ていましたが、残念ながら種類は不明。

ヤツデを訪れるセイヨウミツバチ(左上)とハエ
「ヤツデを訪れるセイヨウミツバチ(左上)とハエ」

右下はツマグロキンバエに見えますが、
多くの図鑑に成虫出現期は10月まで、と書かれています。
別種なのか、それともツマグロキンバエでよいのか?

ミツバチとハエの写真はいずれも、コンパクトカメラのストロボ発光部を
指で半分覆い隠すようにして露出オーバーを防ぐ、というアナログな撮り方ですが、
ずっと同じ機種を使っていると、こんな撮り方にもすっかり慣れてしまいました。
カシオのEX-ZR100という古い機種で、もう入手できません。

 ぼくはこの機種が好きで、3台持っていますが、
最後に買った3台目は、カメラの値段としては破格の1万7千円でした。
この機種で撮った写真を、一眼レフで撮った写真に混ぜて本で使ってきましたが、
少しも見劣りしません。カシオの現行機種で欲しいカメラは1台もないので、
まったく偶然できた名機なのでしょう。
昆虫は被写体としてメインストリームではないので、高級機や最新機種が
よいとは限らず、偶然できた名機を「まとめ買い」しておくしかありません。

2010年発売のニコンD7000も6台持っていますが、これが今もぼくの主力機です。
製造中止後に、5台目と6台目は4万円台で買いましたから、
これもカメラマンの主力機としては破格値ですね。
ニコンの現行機種は60万円台のD5といえどもぼくの仕事には全然使えないもので、
4万円台の機種に到底かなわないわけですから、皮肉なものです。

「人間」、「風景」、「スポーツ」を撮るなら新しい機種の方が断然よいことは明白で、
カメラメーカーは基本的に、この3つ以外の被写体にはほとんど配慮していません。
昆虫に興味を持つ人が多数派にならず、被写体として昆虫がメインストリームに
なっていかないというのは、昆虫を撮るカメラマンの責任ですから、
カメラメーカーを責めるのも筋ちがいでしょう。

ぼくがもっとがんばって、どこの街角でも
「今年ギフチョウ撮った?」、
「フチグロトゲエダシャク撮りそこねた~!」、
「見て見て! マダラアシナガバエって、インスタバエするよね~!」
なんていう会話が交わされるようになれば、カメラメーカーも本腰を入れて、
昆虫撮影にふさわしいカメラを続々と出してくるのでしょう。
カメラメーカーの人に会うたびに愚痴っていても仕方がないので、
本当にもっとがんばらないといけません。

明日は夜の撮影です。
気温がマイナスになりませんように。

みなさまにおかれましては、お健やかによいお年をお迎えください。